111.やらかしたキツネさん 3(ソラ視点)


 まーねぇ。

 分からなくもないのよ。

 今回は、私が全面的に悪いんだし。

 ほら。むしゃくしゃしてたところにいやぁなことされたとかでイライラが頂点に達するとか、あるでしょ。それよ、ほんとに。


 ……いえね? あの聖女ちゃんが言ってきたことに対しては謝る気もなければ、あいつはいったい何がしたかったのかと思ったんだけどもさ。

 ほんと、あの一撃をぶつけて消してしまいたかったんだけど、流石に理性が働いたわけで。

 ……ま、その理性が働いたからこそ、その怒りのぶつけ先が、何もないところに打つしかなかったってだけであって。


 その結果が。

 私の怒りの威圧に耐えきれなかった喫茶店の全壊と、私が振るった怒りの拳から発せられた威圧と衝撃のオンパレードに、大地が震えて空が裂けて、薄暗くなってきた空が着弾点に光を落として辺り一面真っ白に包まれちゃって。

 で、轟音と共に、まさに『神の一撃!メテオインパクト』みたいな現象が発生しちゃって、王城を囲む外壁と、外敵を阻みつつ景観も映える、湖畔のような疑似的な川の一区画が吹き飛んだっていう結果になっちゃったわけだけども。ほんのちょっと力を込めた程度だったのと、王城だったから魔法障壁が張られていたってのが功を奏してその程度で済んだのよ。もうちょっと力込めてたら、きっと王都は吹き飛んでたわね。うん。罪もない人々が光の中に消えてっただろうなぁ。


 光になぁれ☆


 なんて言っても、そうなってたら許してもらえなかったわね。

 人に許してもらおうが私的にはどっちでもいいんだけど。


 ……こう、状況を言葉にして言ってみると、まさに私がすべて悪い!ってなるのよね。

 でも、公式でもないところで、見知った人らだけがいるところだけでなら、「ごめんねー」っていくらでも謝ってあげるんだけど、こんな、私を知らない王都の貴族がたんまりいたり、外部の王族関係者とか他国の王様とか王子とか、中には、シンボリック教の教皇までもいるような場所で、頭下げろっていうのは、ちょ~っと、ダメな感じなのよね。


 それに。今回の一件は、根本的なところを考えると、私が悪いのではないのよ。

 それこそ、私は被害者。

 だからこそ、今、モロニック王国の王派閥の上位貴族や王様までもが私の代わりに頭を下げているってことになるんだけども、それを今ここでされたら、私を知ってる人ならまだしも、知らない人からしてみたら、本当にこいつは何者だってなっちゃうじゃないのよ。


 ……ま、流石に今回のは、大事すぎるか。やらかしちゃった私が、自ら自身が何者なのかを伝えなきゃ、場は収まらないわよね。

 年貢の納め時ってやつよ、きっと。



「……顔を、あげることを許します。モロニック王、ワナイ・デ・モロン。ならびに、その王に連なり王を支える、配下……配下? んー、配下、麾下……違うわね……――皆も、顔をあげることを許しましょう」



 もうどうでもいいから適当に神っぽい感じで言っちゃうわ。

 さあ、行くわよ。

 私のことぶっちゃけちゃう、わたしムーブ!



「今回の一件については、私が起こしたことなど些細なことである。そうよね、人の王よ」

「はっ」


 私が目の前の王の前に手の甲を差し出すと、王——ワナイ君は、私の手を取り、忠誠の証としてその甲に唇を落とした。

 横で、「あ、ワナイ、それ私もやりたい。代わって」とぼそっと言うドーターがうざったい。


 今は、わたしムーブ中だっての! 本気で代ろうとわちゃわちゃすんな! で、本当にお偉い順に私の手に口づけしてくんなっ! 周りの上級貴族たちがやるべきかとおろおろしだしてんでしょうが。


「……王城の一画の外壁を壊しておきながら、それが些細なことと……!? ば、バカな……前代未聞ですぞっ」


 そんな私への忠誠の意思を見せたワナイ君を見ても、こともあろうにテン・デ・ダラー伯爵は、私から許しを得た王に異を唱えた。不敬罪ってこういうことを言うんじゃないの?


「私からしてみれば、お前たち人など、矮小な存在である。よって、お前たちが造りしそれらが、私が壊したところで、些細なこと。罪として問うことこそが烏滸がましい」

「おっしゃる通りでございます」

「わ、矮小……っ!?」


 私の手を持ち立ち上がったワナイ君は、私を優雅にエスコートしながらゆっくりと歩いていく。

 私もそのまま流れに任せて歩いていくんだけど、隣で護衛するかのように並び歩くドーターが、「次、次、私がエスコートしたい。どうせそこまででしょ。短い間なんだから私がエスコートしてもいいよね、ワナイ、代わって」と駄々こねてるのが、正直、うざい。

 流石に短すぎてワナイ君も今回は交代しなかった。うむ、くるしゅうないぞよ。


「私にその責任を取らせようとすること自体が、愚かな行為だと、思い知るとよい」

「「天爵の仰せのままに」」


 私はそのままノリノリのワナイ君に連れられ、先ほどまでワナイ君が座っていた玉座へと誘導される。

 目の前に辿り着くと、ワナイ君はすっとお辞儀をしながら、まるで優秀な執事のように一歩私から離れた。


「今回の一件。事を思い返してみれば。私という存在、そして私のためだけにある爵位を公にしていなかったそなた等の落ち度もさることながら——」

「あれ、シテン殿? さっき自分に責任とらせんなって言ってんのに、私達にはとらせようとしてないか?」

「だまらっしゃい」


 どすりと、乱暴にその玉座に座り、足組みして玉座から貴族を見下ろし話をしていると、話の腰を折るかのようにワナイ君がぼそっと聞いてきた。

 当たり前じゃない。私はこういうことしたくないってわかってるのに、収めなかったあんたらが悪い。うん、全部あんたらが悪いのよ。


「とはいえ。そこは、私が稀有で唯一の存在であるからこそ、俗世へ落とすわけにもいかんので大々的に言わずに気を利かせたのであろう。そこを咎めるつもりもない。だからそこの伯爵とやらの私への暴言も、本来であればこの場で即処断であるが、許そう」

「ゆ……許す、……? き、貴様が偉いとしても、許される謂れはないわっ! し、しかも玉座に座って、ぎ、玉座を簒奪でもする気かっ! 王よっ。なぜその場に座らせたのですかっ! 王がその場に自ら座らせたというのなら、それは——」


 ……えー……。

 こいつ、意外としつこいわね。

 いっそのこと、消しちゃったほうが楽なんじゃないかしら。 







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