やらかしたキツネさん
109.やらかしたキツネさん 1(ソラ視点)
いえ、ね。
私もさすがにやりすぎたなぁって。
そう思ってるのよ。
あの時は、こう、ラーナがとっても寂しそうな顔してたし、あんなこと言われて黙ってなんていられなかったから、怒っていいとは思うのよ、私も。
そこは譲らないわよ、もちろん。うん。
ラーナを悲しませるやつは誰だってぶっ潰す!
それは私は昔から決めてることなのよ。
ん?
どったの、ミィ、マイ。
……え? 私達は?
何言ってんの。あんた達が蔑まされてたらラーナのときと同じように怒るに決まってるでしょ。
……は? 私の時は怒らなくてもいいからその後ゆっくり慰めてほしい? どこでよ。
ベッドの上……?
……
…………
………………
……ミィ……。もうちょっと、自分を大事になさい。
「ソラ・シテン大公、ご入場っ!」
私が今いるのは、王都の王城。
どこの王都でどこの王城かって言えば、そりゃもちろん、モロニック王都、モロニックの王城よ。
……次の日に至る前に。呼び出されたのよ。王城に。
事案が発生したときが、薄暗くなってきた辺りだったから、次の日に回してくれなかったのよ。
貴族様達の夜は長いからねー。
今日もどうやら王城でパーティが予定されてたみたいなのよ。
だから余計に、ね……。
具体的に言ったら、事案発生二時間後くらい。
今は、外は暗くなって、明かりが灯った頃ね。
私を呼ぶ声が聞こえると同時に、目の前のどでかい門が「ごごごごっ」って音を立てて観音開きしていく。
女性平均身長の私の三倍はありそうな門がゆっくりと開いていくところみるのは、まいどながら壮観ねー。
開ききると、正面天井付近の豪華なステンドグラスからきらきらと光が開いた門の前にいる私に降り注ぐ。
これがまた、この門の先の間が偉大な存在のためにあるとでも言ってるかのような演出なのよ。
だからここに来る人達はみんなこのきらきら光を受けて身が引き締まって真面目な顔して入ってくるんでしょうね。
ま、私、お面してるから真面目な顔しても周りにはわからないんだけどね。
今日もへらへらしながら私はその道を歩くわけ。
この、相変わらずの、目的地まで続くふっかふかのレッドカーペットの上をね。
軽い足取りで歩く私に、いろんな視線が向けられる。
すっごい顔してるのよ。
驚いている人もいれば、中には小さな声で「不敬だ」とか言ってる人もいるし。
もしかしてこの服装に驚いてるのかしら。
この巫女装束、由緒ある正装のくくりになると思うんだけど、肩丸出しだからなぁ。刺激が強いかしら。「私の美しきショルダーに惚けるがいいっ!」とか叫んでびしっと指差してやろうかしら。
レッドカーペットのちょい離れた場所の左右に並ぶは、この王国の貴族。当事者たちだったり。中には別国の貴族だったりと様々ね。
なかなかおっきいパーティだったみたいね。いやぁ、悪いことしたわぁ。
でも、ほんっと、暇なのかしらみんな。
レッドカーペットの先——玉座に近づくにつれ、見知った顔も出てきた。
あ、アズちゃんたちもいる。
こんな貴族たちが周りにいるのになんで玉座に近い位置にいるのかしら。当事者だからといっても、この王の間って、ここに入れる貴族も特殊状況下でなければ限定されて、偉い貴族くらいしか入れなかったと思うし、その貴族も入口から低い身分順に並べられるはずよ。
……まあ、今がその特殊状況下だから、王都にいた貴族様達含めた別国の主要貴族様方もこの場に入っているんだろうけども。
とはいってもよ。いくら異世界人だからって王の近くに配置されるって、かなりつらいんじゃないかしら。
ほら、アズちゃんとキッカちゃんがすっごい緊張してるわよ。
……ん? あれ、違うわね。
あれ!? もしかして私のこと見て緊張してる!?
ああ、でもそうよね。
私がやったことって、そういうことよね。そりゃ私のこと怖いわよね。ああ、こりゃ後でちゃんとごめんないしないとダメだわね。あの子たちにも浴びせちゃったからね。
「……さて、シテン殿。何があったのか、教えてもらおうか」
ショックを受けてる私に降り注いだのは、ぴくぴくと、こめかみに怒りのマークが見える、煌びやかな玉座に座るモロニック王ことワナイ・デ・モロン。
この王国で一番偉いワナイ君の声ね。
レッドカーペットの終わり。数段上の玉座に座ったワナイ君よ。大事なことだから何度か脳内で反復してみた。
「はー。初めてみたわ。血管ぴくぴくさせて怒りマークを作るとはまー、器用ね、ワナイ君」
「シテンどのぉ~?」
「あーはいはい。悪かった。わるかったわよー」
そりゃまー、王都の一区画を、人がいなかったからとはいえ、怒りで吹き飛ばしちゃったりしちゃってたら、そこの王様やってるワナイ君からしてみたら怒るわ。
おまけにあれでしょ? 何事だーってなって、外城壁近辺の上位貴族とかが慌てふためいて大騒ぎになったんでしょ。
分かる、分かるわよー。それこそ手に取るようによ。
だって、ワナイ君の左に控えてる宰相さん、ドルでキンセンな宰相さんがすっごい顔してるもの。
おまけにワナイ君の右側にずらっと並ぶ金属鎧を着た男どもも、結構真剣に怒ってる風な顔してるしね。まあ、その中の四人のうちの一人。金属鎧じゃなくて、ワナイ君の次にきらっきらの服装着てワナイ君の一番近いところにいるドーターでさえ、ぴくぴくと口元をヒクつかせてるくらいなんだから。
……あ。あれ、笑いこらえてる感じね。
「悪かったで済む話と済まない話があるよねっ!?」
「ちなみに済む話ってのはどれよ」
「王都壊したところっ!」
……え。そっち、許していいの?
じゃあ、何が許されないのか。
「シテン殿。君が偉ぶりたくないって前に言ったからそのままにしてたけど、そんなこと言ってられないほどのやらかしだぞ?」
「えー、分かりたくないわね」
「いやいや、そこはわかろう。今回はさすがに余だけでは庇いきれないぞ? さっきも大公って名乗りされちゃってるから知らない貴族たちがざわついてるし」
「え。あれって私が奇抜なスタイルだからじゃなかったの?」
ってか、横でドーターがぶふーって軽く吹き出しちゃったけど、あれいいの? ワナイ君も結構フランクな話し方なってるから王様の威厳ってのもなくなっちゃってるわよ。ほら、ドーターにつられて強面な鎧着た人らももらい笑いしちゃってるわ。すっごい辛そうよ。一応あの人達、ドーターと同じ東西南北を治めてる四公——選帝侯たちなんだけどね。
「こほんっ。さて。此度の件だが」
あ。宰相さんに睨まれて仕切り直ししたわ。
良かったわね、ある程度気心知れた人達が前のほうにいて。それなりに小さい声だったから。四公たちもぴしっと口元ヒクヒクさせながらいつもの顔に戻ったわ。
「この余が治める王国の王都、モロニックにおいて、王宮に続く八橋の一橋と王城を囲む外城壁。ならびに麗しき湖に浮かぶ世界随一の都と称えられたその景観を壊した者よ、申し開きはあるか?」
「ないわね。やっちゃったのはしょうがない」
即答すると、ざわざわとざわめきが起きた。主に後ろのほうで。
「そこはさ、もう少し申し訳程度にしてもらわないと困るんだけども。ないのはわかる。わかるぞ。もちろんそこ以外で話したいし」
「……あんた達に真っ先に言わなきゃいけなかったけどさ。私、実はとんでもないことになっちゃったのよ。ほら、まだ天爵とかあんたら周辺国の王様より偉いレベルならまだごめんって謝れたんだけども。余計にこの世界の人——特に王様とかの権限をもったような人らに、私が正式なとこで頭下げさせたらやばいことになってるのよ」
「……なに。厄介なことになってるじゃないか。具体的に聞いても?」
「その話する時間ないでしょ今。まーもう……後で事情は話すけども、妥協案出して終わらすわよ」
「こっちが望む妥協案でよろしく。後、シテン殿のこと、大体的に言うからそのつもりで」
「わかったけどそこもなんとかうやむやに」
「まだ諦めないところが凄いなシテン殿」
ぼそぼそと周りの人達には聞こえる程度の声量で話をする。
ほんっと、まずいのよ、私がこういうところで頭下げたりすると。
一段下にいる私の周りにいる貴族も、私のこと知ってる人がほとんどだから、この落としどころをどうするのかってすごい心配そうにしてくれてるのよね。
でも、謝っちゃだめなのはみんなわかってるのよ。
それが天爵ってやつなんだけども。知らない人がいるから余計に厄介。
それもこれも、自分が蒔いた種なんだけどもさ。
天爵でも駄目だったんだから今はもうどうしようもないわ。
「今回は、私が壊したそこを——」
「王よっ! 発言をお許しくださいっ!」
そんな中、扉と玉座のちょうど真ん中あたりの位置から、よく聞こえる大声が響いた。
「……私、今回の落としどころについて話してたんだけど?」
とっとと終わらせたかった私は、その声に遮られてちょこっと怒っちゃう。
近くの人たちも、ため息まじりに聞こえた方向に目を向ける。
ワナイ君近辺なんて結構な呆れ具合よ。多分これ、出来レースじゃないけど、事前に口を挟むなって通達してた感じじゃないかしら。
「……よい、なんだお前は」
「はっ! ダラー伯爵家のテン・デ・ダラーでございます。この度はこの大罪人に、今この場がどういったところなのかを私の口からしっかりと説明させて頂きたく! もう、我慢がなりませぬ!」
ああ、正義感強しな伯爵様ね。
聞いたことないけど新興貴族かしら。
まあ、言いたいことはわかるのよ。結構なやらかしだってのも、ワナイ君に言われなくてもわかってるんだから。
あー、もう。話したいこと山ほどあるのに、こんなの続けてたら話できるもんもできないわよ、ほんと。
そう思った私は、もう自分の身分を隠すことをやめたほうがいいんじゃないかと決意する。
……いっそのこと、暴れちゃおうかしら。
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