103.私たちの立ち位置(アズ視点)
「……ぐちゃぐちゃ、ですか……」
「そう、ぐちゃぐちゃなんです」
「それは完膚なきまでに?」
「完膚なきまでに。そりゃもう悲惨なほどに」
ハナさんとシレさんが、元の世界の話を聞いて絶句している。
そんな私の胸元には、相変わらず埋まるキッカがいるわけだけども。
キッカ。本当にあの話の後にこういうのされると危機感感じるからやめなよ?
ところ変わって、ここは領都。
ヴィランにあるキツネさんのお屋敷。
先程みんなでお風呂に入ってさっぱりした後、食堂でまったりしてるときにキツネさんから異世界の惨状を聞いていた。
それとは別に、キツネさん、私たちと一緒にお風呂入ろうとしないからなんでなのか聞いてみたら、
「私のベースが元々女じゃなくて男だからよ」
だそうだ。
元の世界にいた時、男の人だったみたいで、こっちの世界に来た時に女になったんだって。
世間一般的に言う、TSってやつってキツネさんは言うけど、TSがなにかわからない私とハナさんは終始「?」状態だった。
「もーほとんど女で生活してるから、どっちがベースよって話だけどもね。でもほら、いざとなったら男の姿になってあんたら全員襲えちゃうわよ」
「「ぜひ」」
「ミィ達は落ち着こう、ね?」
そのいざって、なんなのかと。
ミィさん達がふんすって鼻息荒くしてるけど、今のはキツネさんが悪いと思います。
ミィさん達は、どうやら男のキツネさんが大好きみたい。
「話を戻すとして。フォールセティ様が助けてくれた、と」
「そうそう。ぐちゃぐちゃになるはずだったんだけど、可哀想だからって、緊急脱出としてそこに魔法陣を一気に集めて救ったのよ」
この世界の創造神『フォールセティ』様は、私たちを愛し子としてこの世界に転移させたらしい。
本来の私たちは、あそこで死んでたって聞くとぞっとするけど、そうだとしても、この世界に転移されたあの森の中でキツネさんに助けられなかったら、結局は他の人達と同じように死んでいたんだって思うと、体が一気に寒くなった気がした。
本来であれば、死んでいた。
死んでいたけど、本当は転移もされていなかった。私たちを助けるために、元々転移されるはずだった人たちも転移されずに助かった。
でも、私たちは転移されたけど、元の世界には今のところ戻れない。
助かったのは嬉しい。うん。生きていられたのは嬉しい。
だけど、ちょっと複雑な心境。
「じゃあ、私たちがこの世界に転移させられたのは、本当に、ラノベよろしく勇者的な力が必要とかじゃないわけですね?」
「そうよ。私がいるからね」
「? キツネさんがいるとどうなるんですか?」
「私も、みんなと同じく転移者なわけ。転移者ってのはね、元の世界の神々から、その世界で余った、世界を構築するリソースを譲り受けて別世界に移動させられるのよ。で、そのリソースを使って世界は均衡を保っているの。もちろん力が大きすぎてもだめだし、少なくてもだめ。この世界は、とにかくでかいから通常のリソースじゃ足りないの。だから、余剰の力が他の世界から自動的に流れ込むように、私が使徒やってる創造神様は、私を介して送り込む仕組みを作ったのよ」
キツネさんがいる限り、この世界は異世界から力を受けてずっと構築し続けられる。
話が大きすぎて、頭に入ってこない。
「私の話はどうでもいいのよ。……まあ、あんた達が本当に助かったのは、この世界の神様、フォールセティのおかげだって理解だけはしときなさい。気にせず自由に生きなさいってフォールセティからの伝言よ」
「……キツネさん、先ほどから気になっているのですが」
「ん? どったの、ハナちゃん」
「この世界の一番偉いフォールセティ様を、キツネさんは先ほどから呼び捨てにしていますが、キツネさんも神様の類なのですか?」
言われてみれば。
私も頭の中では様付けしていなかったりすることもあるけど、キツネさんの場合はごく自然に敬称をつけていない気がする。
「私自身は亜神っていう神様に該当するわね。その世界の神として扱われない別の神様って感じかしら。私のとこの創造神様がフォールセティより遥かに偉いのよ。そのとんでもなく偉い神様の使徒で普通の人なのに、神様より偉いっていうわけわからない矛盾ができてるだけよ」
……本当に。わけがわかりません。
「まー、そのフォールセティのせいで。あんた達、本当、これから大変よ?」
「え。理由があって転移されたわけじゃないって……」
「フォールセティがね、あんた達を神から遣わされた者みたいな感じで、厄介なところに告知しちゃったのよ」
宣伝みたいな言い方だなぁと、キツネさんの言い方がちょっと面白い。
でも内容は若干不吉な気がした。
「……それ、どういうところ?」
キッカがぽすんっと私の胸から顔を離してキツネさんに問いかけた。
「シンボリック神教よ」
「ああ……あー……なるほど。それは厄介そう」
「キッカ、どういうこと?」
「この世界は唯一神。その神様以外は称えられてない。そんな神様が、わざわざ神託したってこと」
「「ああ~……」」
シレさんもハナさんも納得した。納得して、なぜか私を見る。
「アズさん。神様がわざわざ信徒に対して神託したってことは、その勇者は神の守護、または神の申し子、神様そのものとも捉えられかねないんです」
「あ……」
つまり、私は。
「そのシンボリック神教にとって、崇拝、守護する対象?」
キッカが「そういうこと」と言うと、キツネさんが続けて、
「勇者ほどじゃないにしても、あんた達もすごい称号持ちだからね。しかも、漏れることはないと思うけど、ヴィラン城の辺りからあんた達の情報が漏れたりしたらかなり厄介よ。おチビちゃんは漏れないと思うけど、危ないのはあんた達ね」
私たちは、ヴィラン城にキツネさんと共に連れていかれて、たまたま来ていたモロニック王にも謁見している。
一般人が王国の一、二の偉い人達といきなり会うとか普通にありえない。
それこそ、何か特殊な事情があるとすぐに勘づかれること間違いない。
「……何が起きますか?」
「そーねぇ……さすがに強制的に誘拐するとかはないとは思うわよ。強硬派じゃなければ」
キツネさんは、「私の庇護下にいるんだから、そんなことしたら私を敵に回すってことだからね」って付け加えてくれる。なんかすっごい頼もしいですその言葉。
「それに、あんた達、身内にシンボリック神教のとこのお偉い人いるじゃない。そうそう悪いこと起きないわよ」
「え? 誰のことですか?」
「ん? あれ? 違ってたっけ?」
私たちの知り合いで、別国の知り合いなんていただろうか。
もしいたとしたら、私たちはすっごい失礼なことをしている気がする。その人が誰か知っちゃったら、「ヤンスっ!?」って言っちゃいそうな気がする。
でも、全然思いつかないのでキツネさんの勘違いだと思うことにした。
「まー、なんにせよ。これからいろいろ学園にも転入するし、大変だと思うわよ、頑張りなさい」
「「「「忘れてました!」」」」
そうだ、私たちナッティさんの付き添いとして王都の学園に転入するんだった。
王都に来てから喫茶店で仕事ばっかしてたから喫茶店でお金稼ぐことが目標みたいになっててすっかり忘れてしまってた。
学園に行くと、神教の人たちとも交流することもあるかもしれない。
そう思うと、私たちが神教の人たちが探している人だってばれないように気を付けないといけないとキツネさんは言ってくれたんだと気づいて、これから気を引き締めていこうと思う。
「みんな、明日からも頑張ろうねっ」
「「「うんっ、頑張ろう!」」」
その数日後。
「アズはん。……婚約者いたでヤンスか」
ヤンスさんに、キッカのお兄さんたちが私の恋人だっていう、捩じりに捩じり曲がった情報がヤンスさんに伝えられて、誤解されていた。
どこから漏れたの? その情報。
むしろもしかして。すでに私たちの情報って、いろんな国に漏れてたりするんじゃないだろうかと、さっそく心配になった。
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