102.動画で知る異世界(アズ視点)
『梓、お前が生きているって聞いたとき、お父さんはそれが本当であればどんなに嬉しいかと思ったよ。でも、それがあの爆発を見たら嘘だってこともわかって。見つからないからきっとどこかで生きていると思うようにしてたけど、生きていればいいと思っていたのに。……でも、それでも、梓がここにいないってって聞いたとき、本当は心の中で梓は死んだんだってわかっていて、それでも認めたくなかっただけなんだなって思って、自分の薄情さが少しだけ辛かった……ああ、なんていえばいいか、分からないな。頭が混乱してる』
それは、久方ぶりに立ち上げたスマホから聞こえる音声。
『お父さんはこういうけど、お母さんはあなたが生きていてくれて嬉しいって、お父さんもお母さんも本当にそう思ってる。ソラさんから聞いた。いまだ信じられないけど、別の世界にいるって聞いて、どこかで見たことのある、息子が異世界にいったとか、あなたが時々読んでいたそういう異世界ものの話とか思い出したけど、梓がまさかそんなところにいってるなんて。でも、生きているってわかって本当に嬉しいわ』
見覚えのある和室で撮影された、動画だ。
『いつかまた会えることがあったら、思いっきり抱きしめるだろうな。普段やらないことだからって、嫌がったり怒ったりするなよ?』
『そっちでも元気でね。時々ソラさんに動画を撮影して見せてもらうとかしてもらうのもありかもしれないわね』
疲れた顔をした、私の親。
きっと、いきなり私がいなくなって、迷惑かけたんだろうなって思う。
探してくれたんだろうなって思う。
よく読んでいた異世界ものの作り話で、神様と出会って異世界に飛ばされて、元の世界からはいなかったことにされて記憶を消されるって話をみたことがあった。関係者の記憶が消えると聞いた主人公が、ほっと安心したりしている場面があったりして、そのときは違和感考えずに読んでたけども、こうやって自分がその場面に出くわしてみると、違和感がありすぎて少しだけ笑えてしまった。
そんなわけない。
向こうには、自分のことをずっと想ってくれてる人がいる。消えたことになんてできるわけがない。
「お母さん……お父さん……」
動画は、二人が笑顔をこちらに向けて手を振るところで止まった。
一人っ子だから。いつも愛情を注いでくれてるって、よくわかる私の親。
もしかしたら、もう会えないかと思ってたその二人に。画面越しで会うことができた。
私はここで生きてたのに、教えてあげられなくて。もしキツネさんがお父さんたちに知らせてくれなかったら、二人はずっと私を探し続けてたかもしれない。
私はここで生きている。
生きているから、いつかきっと会えるかもしれない。
会えたら、思いっきり抱きしめてあげるんだ。ただいまって、心から言えそうな気がする。
生きて。
生きて元の世界へ戻って。
また、私のことを知っている、私の大切な人達と会えたら。
「まー、私はね、元々あんた達がいた世界と同じとこに生きてた異世界人って話だけども」
キツネさんが、とんでもないことを言い出した。
そうだ。
どうやってこれを撮影できたんだろう。
私のスマホ、結構前に電池切れてて立ち上がらなかったのに。
周りを見ると、キッカ達も同じようにスマホを見て動画を見て嬉しそうにしている。ハナさんなんて泣いてる。あ、私も涙出てるから一緒だね。
「時々スマホに入っている写真とか見たくなるだろうし、まー、場合によっちゃ、時々向こうにいって、こんな風にしてあげることだってできるんだわさ」
みんながスマホに入った動画を見終わったことを確認すると、キツネさんが言った。
みんなしてキツネさんを見る。「あ、チャージャーも買ってきたからね。最近のはすごいわねー」とか言って私達にスマホの充電器を渡してくれるけど、そこじゃない、そこじゃないですキツネさん。そこも気になるんだけども、あー、何から聞いたらいいのかさっぱりわからないっ
「わたしゃ、次元の行き来が出来るんさ。だから、こんなのも——」
ぽとりと、隣に急に現れた闇の渦のようなものにキツネさんが手を突っ込むと、そこから見覚えのあるフォルムのものを取り出した。
それは、瓶。
ラムネ瓶。
お店で時々見かけたり、お祭りでよく見かけることのあった、定番のラムネ瓶。
キツネさんのそばでメイドさんみたいに待機していたミィさん達が、不思議そうな顔をしてみている。「人数分あるからね」とキツネさんに言われて、目の前に置かれたラムネ瓶に触れると、ミィさんが「冷たいですね」と感想を言った。それ、瓶がひんやりしてるからその感想ですよねとツッコミ入れたかったけど、言われてみれば……確かに、冷たいなって、……思った。
「——もってこれるんだけど……うぉ!? なんでみんなして泣いてるのっ!?」
「う、嬉しくて……」
「またもとの世界のものが触れるなんて思ってもなくて……」
シレさんもハナさんも。
二人とも、やっぱり元の世界に戻りたいって思ってたんだなって思う。
私も。
私も、どうして私たちは戻れないんだろうなって……ちょっと悲しくなったけど、それでも、キツネさんが戻れるなら私たちも戻れるはずだと。
そう思ったら、安心したのか、涙が止まらなくなった。
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「幸せなおめめぱんぱんねー」
キツネさんがけらけらと笑う。
私たちは泣きすぎて、みんなして目を腫らしているから。
「アズ、アズ。うちの家族からアズ宛の動画あった。私も見てないから、一緒にみんなでみてみ」
キッカはそういうと、私に動画を見せてくれる。
それはキッカの家族の動画だ。どうやらキッカ用と私用に二つ用意されてたみたい。
『うぉぉぉ! アズちゃーん! 俺も異世界に行くから待ってろよー!』
『異世界ならアズちゃんと一緒になれるはず! 俺たちみんなで異世界にいくからねっ! 異世界って重婚ありでしょ!? 家族全員でアズちゃんと結婚だ!』
『あれ? でもどうやって行くんだ?』
『行ける人、そこにいるから聞いてみたら?』
『ひっ』
『あ、ソラさん逃げたぞっ! 追え! 追え!』
……
…………
……………………
「な、なんというか、元気な家族ですね……」
「キツネさん、途中で怯えてた……」
短いショート動画だったけど、応援団みたいな恰好したムキムキの男の人たち——キッカの三人のお兄ちゃん達が、どんどんっと太鼓叩いたりぱふぱふとラッパみたいなの吹いたり、ペットボトルに小石入れてがちゃがちゃとぶつけあったりしてる、なんともパワフルな動画だった。
「……すまぬ。まさかこんな動画だったとは……我が家の恥を晒した……」
キッカが眼鏡を外して眉相を抑えている。疲れ目なのかなキッカ。
「やー、さすがにまっちょな男の人たちに、じろって見られて襲い掛かられるとねー」
「さすがに襲い掛かってない」
「シレちゃんにはよかったかもね」
「いくら筋肉好きな私でも怖いですっ!」
シレさんがとうとう筋肉好きを暴露した。むきっとした筋肉とちょっとぽっちゃりが好きらしい。ガチムチ好きな時点でわかってたけども。
「アズさん、キッカさんのお兄さんたちに好かれてるんですね」
「キッカの家に遊びに行くと話しかけてくれて楽しい人達だったよ?」
「家族全員アズのこと大好きだから。でもあれらはアズを本気で狙ってた。近いうちに全員でアタックするとか言ってたから、ある意味この世界に逃げ込めてよかったのかも」
……え。それって。私もお兄さんたちに迫られる寸前だったの……?
「でも、アズとこっちにこれたのは私だけ。私がアズを一番愛してる。ふふっ。アズを一人で愛でられる……」
ちょっと。ちょっとキッカ?
流石にその話の流れは私も危機を感じるので、そのわきわきとした謎の動きはやめてほしい。
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