101.キツネさんに問う(シレ視点)


 アズちゃんが優君のことで驚いている間、私は別のことに驚いていた。


 いやいや、優君がアズちゃんと同じく勇者の称号や、それ以外にもいろいろ凄そうな称号を持っていることにも驚きはしたのよ。

 キツネさんの話からすると、勇者って称号は他の称号に比べてリソースが高くて、結果的にそれ以外のいろんな能力が勇者という称号に持ってかれて初期はスキルや他の称号が出てこないことが多いって聞いたから。

 アズちゃんは、それでもいくつか覚えてたんだから、やっぱり素質があるのよ。その後のアズちゃんの成長ぶりって言ったら、どんどんとスキルを覚えていってるんだからその言葉も頷けたんだけども、そこに優君の、勇者以外の称号をいくつも持っているってのは、キツネさんが言っていたことを否定するかのような状況だったから、そりゃ驚いたわよ。


 でも、それよりも。

 私は、私が予想していた結果に確信を持てたことに、驚いてしまっていた。


 それは、優君の称号を教えてもらう、少し前の会話。


「私たちは皆さんと違って見れないのですけど、ユウ様の称号とか見られたことありますか?」

「……ん? マイさん、ステータス見れないんですか?」

「ええ。この世界の人たちは見れませんよ。ステータスを開けるのは異世界から来た方の特権とお聞きしてますから。自分の能力を可視化?すると聞いてます。私たちも旦那様からお聞きした限りではありますけども」

「……あれ? そうなると……」


 ハナちゃんが、驚いているアズちゃんとキッカちゃんの横で「んー?」と顎に人差し指を当てて考えている。

 以前、ハナちゃんとはその考えについて話したことがあった。ハナちゃんもその疑問に思い至ったんだと思う。


 マイさんから、今さっき、この世界の人たちはステータスが見れないと聞いた。

 だとしたら、異世界人はみんなステータスが見れるってことにならないかしら。



「おいしーくなーれ、おいしー……………——っ! だんなしゃまのにおいっ!」


 ラーナさんが、私たちの胃袋を掴む魔法の呪文を唱えている途中で、何かとんでもないことに気づいて、すごい勢いで階段を上っていこうとした。

 キッカちゃんがその勢いに驚いてカウンター席から追い出されて反対側に。私たちと同じくカウンターに座って落ち着いた。

 目の前では、階段を上がろうとしているラーナさんを必死に止めるミィさんとマイさん。

 何をそんなに必死に止めているのかわからないけども、多分旦那様って言ってたからキツネさんが戻ってきたのかもしれない。


「ねえ、みんな」


 だったら、ちょうど、いい機会かもしれない。

 私が声をかけると、みんなが私に視線を向けた。


「キツネさん。私たちと同じ、異世界人じゃないかしら」

「え……?」


 どう考えても、怪しいとしか思えない。

 私はそう思ってたんだけど、アズちゃんとキッカちゃんは違ってたみたいで驚いている。


「シレさん、さすがにそれはなさそう」

「でもそうじゃなかったら、キツネさんがどうして私たちのステータスが見れのかって話になるでしょ?」


 キツネさんは、私たちと同じくステータスが——私たちの称号が見えていた。

 それだけじゃない。


「……言われてみたら、確かに、キツネさんの言ってることって、私たちの世界の話かも……」

「ステテコパンツとか、あぶない水着とか?」

「そうだけど、そういうとこだけ覚えてるね、キッカ……」


 節々に。当たり前のようにキツネさんが話していた内容の中に。私たちがそれに当たり前に返していたけど。

 私たち、異世界人しか知らないであろうことを、キツネさんは言っていた。


 キッカちゃんの話に、普通に答えてた。なんでガチムチリバなんて理解してるのキツネさん。腐死鳥って何の話よそれ。

 タンス漁ってアイテムゲットとか、出てきた下着を装備したりとか。皮の鎧が汗くさいって話もしてたけど、それってきっと実体験ね。

 他にもキッカちゃんが言ってたあぶない水着とか。着たことのあるのかしら、キツネさん。

 賢者なのに大魔導士って名乗ったりしてる子が、鳳凰を四本の指で吹き飛ばしたりとか言ってたけど、よくわからないし。

 最強の剣聖と将軍様な剣豪って、片方、歴史で習う、室町さんとこの将軍様のことよね。

 世界樹の葉で生き返って魔に堕ちた勇者の末裔を倒すってのはよくわからなかったけど。


 ……絶対、ゲームとかアニメとか、向こうのサブカルチャーの話じゃない、これ。


「キツネさんだから見れる何か特殊な力があるとかも考えられるけど。ほら、私の鑑定みたいな能力とかで」

「あれは人に対しては効果ほとんどないでしょ」

「そうなんですよね……でも、すぐに人の名前とかわかるので覚えやすいですよね。お野菜とかの名前もわかって面白いです」


 アズちゃんとハナちゃんは、物の情報が見れる鑑定が使えるようになっていた。

 私たち異世界人としてはとても重宝するスキル。

 ハナちゃんの称号が、薬師って聞いたから物を見るという意味で鑑定ってのはわかるんだけど、アズちゃんが覚えるのは、やっぱり勇者ってすごいって思う。

 本当はその鑑定でキツネさんの情報とか見れたら一発でわかってた話なんだろうけど、見れなくてもよかったなぁとか思う。

 だって、鑑定とかで人の情報みれたら、すっごく失礼な気がするし。


「んー? 何の話してんの、あんた達」


 ひょこっと。

 二階から降りてきたキツネさんが、顔面に抱きついてきたラーナさんをむんずっと掴んでは𦚰に抱えて一階へ。ぽすっとラーナさんを下ろして「飲み物ちょーだい」というと、ラーナさんが嬉しそうにキッチンへと入っていった。


「キツネさん、正直に答えてもらってもいいですか?」


 私は、私たちの近くの丸机に座ってラーナさん作のジュースをマイさんから受け取って飲むキツネさんに聞く。


「んー? なぁに~? 改まって」

「キツネさん」






   「私たちと同じ、異世界人ですよね?」






 聞いた。

 その言葉に、ここにいた誰もが、静かに、キツネさんの答えを待つ。


 シーンとした、静寂。


 その静寂を破ったのは。




 ことり。という、音。


 立ち上がって近づいてきたキツネさんが、どこかから取り出して私達の席に置いた、その機械が置かれた音。



 それは、私達の、スマートフォン。


 いつの間に。

 と思ったのと。


「キツネさん……泥棒」

「拝借しただけよっ!?」


 人の許可無く所有物を持っていく。

 それを、人は。



 窃盗っていうんですよ、キツネさんっ!

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