100.??? 3(ソラ視点)
「大変申し訳ございませんでした! 始天様!」
俺は、フォールセティに戻ろうと、いつもの中継地点に入ったところで、盛大に歓待を受けた。
土下座、という、歓待。
目の前に三つ折りつついて頭を下げている女性がい……待て。それだと、土下座というより、古めかしくも玄関前で旦那を待つ妻の挨拶だぞ。
水色の髪をした、その髪の毛が常に瑞々しく波打つようにさらさら流れている。
今は彼女がいつも自慢としているその長い髪は、見事に床にくっついてしまっていた。
「顔をあげろ」
綺麗というものを凝縮したような、その女神たる顔を地面に押し付ける必要もない。
びくりと体を震わせて震える彼女は、いまだ顔をあげない。
ここは白い世界。
もう、そう形容するしかないほどに、真っ白い世界。
世界を行き来するときに使う中継地点、主に
誰も見ているわけでもないのだが、美人さんをそのまま土下座させて、その前に、どでんと腕組んで立ってる俺。
しかも俺は面倒そうで、上から威圧するかのように見下ろしている。
……うむ。
どう見ても、俺が悪者だ。
「もー。フォールセティ、ほんとそういうの勘弁して……」
ぽんっと私から音をたてたらあら不思議。
いつものキツネのお面被った巫女装束の私の登場!
「で、でも……始天様にご迷惑をおかけしているのは確かですし……」
「迷惑? 迷惑なんてかかってないわよー」
ちょっと、どう言うことよ。男の私ってそんなに怖いのかしら。そりゃちょっと面倒そうにいつもしてるけども。
女性の声になったからか、ほっとした様子で顔を上げた目の前の女神様。
綺麗だから女神様といっているわけじゃない。
本当の女神様——フォールセティという世界を生み出し管理している神様。その名もフォールセティ。
私が使徒やってる創造神様のほうが格が遥か上だから、フォールセティとは使徒といえど、ちょっとだけ私のほうが偉い。
えへんっと、胸張ってみたりするけど、結局私が見下ろしてる風なのは変わってない。
誰かに見られるわけでもないけども、ちょっと本気でそろそろ立ち上がってほしいんだけどもっ!
思わずきょろきょろと辺りを見渡すほどにはあたふたしてしまう。
そんなことをやっていると、やっとすっと顔をあげてくれたフォールセティ。
ちょっとうるっとした瞳が見る人に欲情を誘いつつ、ちょっとくすりと笑っているところに、「あ、こいつ途中からわざとやってたな」と悪戯心を感じた。
男どもがみたら一発で、一瞬で服を脱ぎ去って飛び込みダイブしちゃうレベルの美しさと妖艶さを感じるけども。私にはそういう誘惑は効かんのだからなんともない。
「……はっ。あんたまさか、男モードの私を誘って……」
「残念です。始天様は色っぽい殿方のほうが魅力的ですのに」
すくっと立ち上がるフォールセティは、「女性の姿も魅力的ですよ」と、今の姿の私にフォローを入れてくれる。
けど、今にも見えてしまいそうな薄着と、要所を守るようにまとわりつく薄手のきめ細かで柔らかそうな羽衣を見ていると、そういわれても全然フォローになってないわねと、女性的なところで負けを感じてしまうのがちょっと悔しいわ。
モロニック王国の北方に位置するシンボリック神教の神殿に、目の前の女神の想像上の神像があるけども、まー、動かなければそっくりそのものだけど、動くと異性を誘惑するような煽情さに幻滅するんじゃないかしら。
……いや、もっと別の信徒が増えちゃうかもしれないわね……。
「てか、あんたは何に謝ってたのよ」
ぽんっと音を立てて白い世界に現れたのは、木製の丸机と椅子。
そこに腰かけると、フォールセティが用意したコーヒーカップにいい香りのする紅茶が注がれる。女神様に淹れてもらったありがたい紅茶を、くいっと一口飲みながらさっきの土下座について聞いてみる。絶対女神様のところの宗教的にあり得ないしね、あれ。
「本当に申し訳ございません。あのようなところで召喚されるとは思ってもおらず」
「ああ~……そういうこと。こっちの神様と話し合ったものの、どこで召喚されるかはまったく把握してなかったことなのね」
「その結果、あのようにほとんどの命を散らしてしまいました。本来であれば私が現世に向かい心からの謝罪をすべきところ、始天様から行っていただき……」
「それは私が保護したんだから当たり前でしょ。それよりも、召喚先を指定できなかったの?」
「あの国は、私への信仰心がまったくないので、啓示をしたところで意味もないことですから」
ああ、なるほど。インテンス帝国だからね。
これがフォールセティの信徒の多い、モロニック王国やシンボリック神教国だったら必ずあんな危険なところになんか召喚させないわね。もっとも。召喚そのものをすることはないんだろうけども。
フォールセティが、「一応、シンボリック神教国の教皇と巫女や王公爵には声をかけましたよ」と言ってるけど、声かけるって、普通にいってるけど、とんでもないことだし、別の国だから信者が騒ぐだけでしょ、絶対。
「……あ。もしかして。騒いでるのね……」
「はい、それもまた申し訳なく……」
あいたたたー。
思わず頭痛もしてないのに頭押さえちゃったわ。
今頃勇者はどこだ、保護しなきゃって、騒いでるわね間違いなく。
うわぁ……面倒なことしてくれたわね。そりゃ謝るわ。うん。
世界中であの光見えたらしいから、ヴィランが盛況になりそうだわね。ドーター大丈夫かしら。
「今更冗談でしたーなんて言えないものね、私じゃないんだから。もう、みんなが召喚の柱見ちゃってるから冗談でもないしね」
「私が始天様のように人を愉快に楽しませることができる性格ではないのが悔やまれますね」
フォールセティを「いい度胸ね」とぎろりと睨むと、頬に手を添えて、「あら失言でした」と惚けたような表情で謝ってくる。
私も怒ってるわけじゃないし、別にいいんだけど。そういうところにも色っぽさとあどけなさを感じるのがちょっと腹立つ。
「まー、でもいい情報もらえたわ。戻った時に北方に警戒しておくわ」
「はい、是非。私の愛し子をお願いいたします」
異世界から召喚された異世界人は、総じてフォールセティの恩恵を受ける。そのため、世界からは神の愛し子と呼ばれる。
アズちゃん達を心配していることがそこからわかって溜飲も下がった。
戻るのがちょっとだけ憂鬱になったけど。
とっとと戻って萌え萌えきゅんしてもらわないとね。
「絶対そうだと思うわよ」
「え、でも、だったらどうして教えてくれなかったんだろう……」
フォールセティと
ぞくりと不穏な気配を感じたので、すぐさま女性の姿にぽんっと戻り、階段を降りていくと、階段をすごい勢いで登ろうとするミィ達と会った。
……あんた達、まさかと思うけど、ちょっと前まで私が男だった気配を感じて登ろうとしてた……?
驚いて固まる私の耳に、更に四人娘の声が入ってくる。
「でもそうじゃなかったら、どうしてキツネさん、私たちのステータスが見れたって話になるでしょ?」
「キツネさんだから見れる何か特殊な力があるとかも考えられるけど。ほら、私の鑑定みたいな能力とかで」
「あれは人に対しては効果ほとんどないでしょ」
「そうなんですよね……でも、すぐに人の名前とかわかるので覚えやすいですよね。お野菜とかの名前もわかって面白いです」
……ん?
私のことでなんかもめてる??
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