099.??? 2(ソラ視点)
アズちゃん達がどうして転移されたのかもなんとなく理由が分かった。
アズちゃん達が転移されたあの日。
とある大型ショッピングセンターで大規模爆発があった。
それはテロともいえる大きな惨劇として、数か月経った今もニュースで報道されているそうだ。
生存者は結構な数いるそうだけど、ショッピングセンター内のフードコートで炸裂したその爆発は、爆心地となったフードコートにいた従業員やお客様を跡形もなく消し飛ばしたらしい。
それこそ、肉片さえも衣服の欠片も残さずに。
「ってのが、この世界での報道結果よね」
私は、まだ数か月しか経っていない、今も生々しくその場で黒焦げを披露する倒壊寸前のビルを見た。
中に入っていたテナントだって全部移動になるんだろうなぁとか、なんとなくそんなことを思い浮かべたりする。
ま、肉片なんてあるわきゃないわね。こっちの世界では。
だってみんな、フォールセティに異世界転移しちゃってるんだから。
「……まあ、ほとんどがあっちの森で肉片散らばらせちゃってるけども」
早いか遅いか。
この爆発に巻き込まれて死んでこっちで肉片まき散らしていたか、フォールセティで狼ちゃんやら番犬ちゃんやらに食べられてあっちで肉片まき散らしていたかの、ほんのちょっとの違いよね。
「……フォールセティが、助けたのね」
恐らくは、私の創造神様もこれに関係しているのかもしれない。
あちらの神、フォールセティがこっちの神でもある創造神様に頼んで、近場で大規模災害で死ぬ予定の命を救いあげるよう嘆願したんだろうと考えている。
異世界転移の禁忌を犯そうとした馬鹿な帝国に無慈悲に連れていかれることになる、この世界の死んでもない誰かを無差別に連れていくよりかは、この爆発で死ぬ予定の一斉を連れてきたほうがいいって判断なんだろうなぁ。
「転移しちゃって、生き延びられたなら、それはいいことよね」
死んじゃってるのがほとんどだけども。
あの子達と、あと帝国に連れていかれた男の子にしちゃ、いいことだったんだろうなって思うことにしよう。
後、生きてることを知れた、ご家族の皆さんは、かな。
「で。調べてもらった結果、どんな感じだった?」
私は黒焦げになったビルから目を離して、背後に立つ人に声をかけた。
一人は印象がどことなく薄い男性。私を見てにやりと口角をあげたのが若干気持ち悪さを感じたけど、なかなかの色男だから見る人が見たら気持ち悪いんじゃなくて好印象なんでしょうね。わたしゃ、なんかぞくりと背筋に嫌な悪寒が走ったけども。
もう一人は、私を見て驚きの表情を浮かべて「かな、かな」と慌てている女性。何をそんなに驚いているのかわからないけど——
「——はっ、まさかこのお面かっ!?」
ばっと自分の顔に触れる。
いつも通りの感触。いつものキツネのお面だ。さっきまで頭につけてたけど、なーんか視線がうざったいからお面つけたのよね。なんなのかしらあの視線。じろじろ人のこと見るのもいいんだけど、顔をぼーっと見た後はちょっとだけ視線が下にいくのよね。それもまたいやぁな気分になるなわけ。ナニをみてるのよ、ナニを、と。
それはそうとして、前にアズちゃん達に言われて知ったことがある。
それは、
このキツネのお面が、
怖い!
ということ!
今回も、その類で初めて挨拶を交わす子に怖がられたんじゃないかと、心配でしょうがない。
「いや、そのお面は特に気にならん。いつも通りだ」
「なぁんだ、てっきりお面が怖いのかと思ったわぁー。違うじゃないのよ、だったらあんたのお嫁さん、さっきから何をあわあわしてんのよ」
「い、いや、だって、だって! いっくん、まさかと思うけど、この人の巫女装束をあたいに着させてたのかな、かな!?」
「ん? ああ、そうだな。どうだ? 最高の一品だろう?」
……
…………
…………………………
いま、この男は何を言った……?
私の巫女装束を着させた……? 着させて何した……? やることっていったら一つでしょあんた。
背筋に走った悪寒の理由が、少しわかった。
しまった。あんな浴衣着てたらどこにいっていたのかと問い詰められそうだったから、ここ見終わって帰るつもりでさっき着替えていつもの服装にならなきゃよかったわ。
……あれ? 浴衣着ててもこの男にはにやりってされてたかも?
きっと浴衣着てたら今度はこの子が浴衣着せられる運命になってたかもしれない。その可能性を潰せただけでもよしと思うべきなのかしら。
「いやまあ……私の作った服だから、褒められるのはうれしいんだけどもさー」
「改良に改良を重ねるとか言って何度も何度も着させられ続けたこっちの身にもなってほしいかな、かな!」
うん、そりゃ、まあ……それを、自分の恋人に使うってのは、ちょっとねぇ……なんか、ねぇ?
でも多分。
あんたも十分気に入ってるでしょ。じゃなかったら今着てる服、私と同じ巫女装束なわけないし。
「まあ、改めて。初めましてよね。そこのどうしようもない男とは何度か会ったことあるんだけども、あんたとは初めてな気がするわ」
「は、はじめましてかな、かなっ! その節も今もお世話になっているかな、かな!」
「はい、よくできました」
なんかあたふたしながらお礼をいう女性が可愛かった。なので頭をなでなでしちゃろうではないか。よいではないか、よいではないかー。
「で、この爆発の理由、わかったの?」
なでなでしながら横の男に聞いた。
彼女たちが、本来であればこっちの世界で死んでいた理由。
大規模爆発。
本当にテロなのであれば、それはそれで、こんな平和な国で何を起こしているのかと、そりゃ大ニュースだわ、と思わなくもない。昨今物騒になってきたと言われたらそれはそれで終わりだけど。やっぱり、納得したいわけさ。
「人が何かをしたという痕跡はなかった」
「ふむ。じゃあ、何か別の要因? 人為的ではないとしたら、経年劣化とかそういうのでってことはあるの?」
「いや、できたばかりの大型ショッピングセンターだからな、そういうのではなさそうだ」
「はー……ってことはあれか」
フォールセティが、異世界転移されるべき本来の指定場所を無理やり集めたのは、しっかりと発動する移送魔法陣だった。
でも、中には、しっかり発動しない魔法陣もあったんじゃなかろうか。
フォールセティも、創造神様も、変えることのできる未来を見ることができる。
その未来予報で知った、このショッピングセンターのフードコートで発現する、移送魔法陣が、もし、不発するものだったら。
移送は不発するけど、魔法陣は発動する。それはフォールセティにあってこの世界にはない魔法という概念が一気にこの世界になだれ込むということだ。
元々の世界にない力が一気に溢れ出したらどうなるか。
……結果は、この通りってわけ、ね。
だから助けるために、ここに集中させたってことね、世界に散らばるはずだった異世界転移の魔法陣を。
もしそうしなかったら、アズちゃん達は肉片びっしゃーっだったってことね。
……いいんだけどさ。
もーちょっと、この誘爆するのも防いだりとかできなかったもんなのかねー?
「心当たりあるのか?」
「あるっていうか、ありすぎね。理由はなんとなくわかってきたから。調査はもう大丈夫よー。ありがとさん」
ひらひらと手を振ってお礼をする。
その手をがしっと急に握られたもんだからびっくりして見つめちゃうけど、なんでこの子に見られるとぞわっと怖気が背中に走るのだろうか。
真剣な顔してじっと見られるので、私も何事かとじっと見てみる。
「次はそのお面、コピーしてもいいか?」
……
…………
…………………………
うわぁ……。
恋人の前でそういうの言うかぁ。
こいつは真正の変態だわぁ……。
「……いっくん、それ、あたいに着けさす気かな、かなっ!? あんたあたいというよりそのキツネの人が好きなんじゃないかな、かなっ!」
「いや、それはない。お前がつけるからいいんだ」
「うわぁ……そういうの真顔でいうのやめてほしいかな、かなぁ……」
……仲がいいことで。
きりっとした本気の回答をじっと見つめられてされて、顔真っ赤にして恥ずかしそうにしているのもまた良きかな。
ほれ、なでなでしてやろう。よいではないか、よいではないかー。
とりあえずコピーする云々はどうでもいいとして、お土産も、しっかり持ったし。疑問もちょっとはすっきりしたから、とっととフォールセティにもーどろっと。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます