098.??? 1(ソラ視点)
「では。優は、今もそこで……?」
「
「これは……? ぁ、ああぁ……優……優が生きてる……」
「お父さんとお母さんも優と一緒に……」
「残念ながら。オキナさんとオウナさんは先日……。守りきれず。申し訳ございません……」
「ぁ……そ、そうですか。……い、いえ。せめて優が無事なことは、二人も救いでしょう……」
「息子さんを守って。とても素晴らしい方々でした」
「……残念ではありますが、助けていただいたあなたが謝る必要はないでしょう。むしろ、優がまだ生きていたということが分かって……うっ……」
「……」
□■□■□■□■□■□■□■□■□■
「ふぃ~……」
私は久方ぶりに見た自動販売機から、がしゃこんっと音とともに出てきたジュースを取り出し口から出し、プルタブに指をかけてぷしゅっと久しぶりの軽やかな音を聞く。
ごくりと飲んでみると、なかなか。フォールセティでは味わえない炭酸。黒い飲み物が喉を軽く焼くようなしゅわっと感を久しぶりに感じて、「くぅぅ」っと、ビール飲んだおっさんばりに声をあげてしまった。
これどうやって作ってるのかしら。企業秘密って言われて長いこと経ってるけど、この味再現するためにレシピ盗んであっちの世界で再現してやろうかしら。
いや、その前に、サイダー作って流行らせることが最初かしら。あっちもこっちも今は夏。夏に似合うもんねあれ。
くふふっと笑っていると、視線を感じだした。
なんか、ぼーっとみてる男どもが複数人、足を止めて私を見ていた。
おっといけない。
周りの目も気にしないとね。
じろじろ見てくる男どもがうっとおしい。美味しかったから声出しちゃうのは仕方ないでしょうに。
いつもつけてるお面は頭に装着してるからか、久しぶりにお面付けずに太陽の光を浴びた気がするわ。
季節が夏だから、お祭りにこれから向かうかのような浴衣を着て今は自販機そばのベンチに座ってるわけだけども。まーこっちは暑いわね。どれだけ温暖化してんのよと、思わず空で光り輝く太陽さんに文句いってやりたい気分。
久しぶりの都会。
巾着をくるくると廻しながら足をぶらぶらさせてのんびりする。
ちょっとばかしいいことしたと思う反面。ちょっとばかし心に刺さることをやってきたもんだから、久しぶりにいろいろ考えさせられたわ。
「生存者分は終了っと……」
久しぶりのこの世界。
私がいたころは、コンクリートジャングルなんて呼ばれていたけど、ほんっと、このコンクリートで固められた地面のせいで暑くなってる気がするわ。地面に卵置いたらじゅーっていい感じに目玉焼きになるんじゃないかしら。フォールセティではありえないわー。
見上げてみると、じーじーとか、つくつくぼーしとか、みーんみんみんみんみーんとか、すぱしーば、すぱしーば、んーとか聞こえてくるけど、夏の風物詩セミ爆弾を食らう前には戻りたいわねわたしゃ。
「生き残りの家族には挨拶しとかないとね」
私は、この世界でアズちゃん達生存者の親族に接触することにした。
流石に、死亡した人たちまで探して声かけてご愁傷様です、なんて言えるわけもないからね。
……言われたほうも、憤慨するわね間違いなく。
まだ生きてるあの子達だったらいくらでも話ができるし、証拠もある。
異世界にいるみんなの写真撮っておいてよかったわ。それに彼女たちからこっそり奪って——こほんっ。拝借したスマホとかも提出したらそれは証拠になるでしょ。あっちだと電池切れちゃって使い物にならないからねこれ。せいぜい電池あったらメモ帳とか写真みたりの思い出に使えるかもだけど、消耗品だからね電池。
シレちゃんとハナちゃんのところは、比較的あっさり話が終わった。
だってあそこの家、別世界に比較的理解のある家柄だったから。
びっくりよ。あの子達の世界の大富豪で大財閥、『華名財閥』の関係者だったんだから。
そりゃあそこの財閥後継者が
異世界が本当にあるとわかっているから研究しているって話もあるからね。調べた結果が実を結んで異世界に行き来できるようになるのはいつのことかしらねー。少なからずあの子達が生きてる間にはないわねこりゃ。
キッカちゃんのところは、なんかすっごい異世界って単語に嬉しそうにしてて、家族揃ってそこに行けないかと懇願されちゃったりするハプニングもあったけど、アズちゃんところは、もー思いっきり盛大に怒られたわ。
私がやったわけじゃないのに、くすん。
でも最後はしっかり理解してもらえて、スマホに動画撮影のメッセージを残してくれたからよしとしましょう。
おチビちゃんのところは、まあ、朗報というか希望というか……。おチビちゃんが生きててよかったっていうことが強すぎて。
本当は会って抱きしめたかったんだろうなぁと思うと、心苦しかった。
遅くに生まれた一人っ子だったみたいだから。
もうちょっと頻繁に来て、近況とか、メッセージとか、動画とか。いろいろ共有してあげようかなとか思った。
ほんとは……こっちの世界に戻してあげられたら、いいんだけどね……。
リスク高いから、やってあげようにも、ね……。
……あ、そうだ。
こっちに来たついでに、みんなのスマホの充電だけしといてあげよう。
後でどっかの喫茶店にでも入って充電してあげないと。……あ、数あるからさすがに恥ずかしいわね。なんだったら電気街で萌え萌えきゅんしつつ待ってる間にチャージャーで充電でもしようかしら。あ。そういえば最近はコンビニでチャージできるんだっけ? だったら久しぶりのコンビニ弁当食べながら全台一斉にチャージしてあげようかしら。チャージャーはあっちでの充電用におまけ購入してあげてお土産でもしちゃいましょう。
後は萌え萌えきゅんをどうするかね……。
……帰ったらミィ達にやってもらおっ。
「さーてと。もうひとふんばりー」
飲み干したジュースの缶を、狙い定めてシュート。
弧を描いてゴミ箱に……あ、最近のゴミ箱って、ちゃんと上蓋がついてるのね。入るわけないわこれ。
な~んて思ったら、大間違い。
『疾』の型っていうこの世界特有の風の魔法みたいな型式って力を使って、ゆらりゆらりと缶を操作して見事にゴール。
満足満足と思いながらベンチから立ち上がる。
さぁて。爆心地の現場でも見に行こうかしら。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます