094.『喫茶・スカイ』は今日も騒がしい 3
今ここにいるのは、キツネさん、ミィさん、マイさん、ラーナさん。そして私たち四人の計八人。
二階建てとはいえ、八人が住むにはさすがに小さいような気もする。
この世界では、複数人で一部屋に止まるのも当たり前だと冒険者をやっていて理解もしたのだけども、にしては、一階が喫茶店として使われていて居住スペースはなく、八人は多すぎるような気もした。
私のいた世界では一人部屋っていうのも当たり前のようなものでもあったからかもしれない。むしろ私がそういう経験しかしてきていないからそういう気持ちがあったのかもしれない。だって私、一人っ子で一人部屋もらってたし。
キツネさんが店内に入るのを追いかける。
木製の丈夫そうな階段を上がって二階にあがると、扉のついた四部屋しかなくて、ちょっとしたスペースも物置と化していた。
その四部屋も荷物置き場のようになっているようで、ミィさんとマイさんはそれぞれ別の部屋の扉を開けて私たちの荷物を運んでいる。
もしかしてこの四部屋が私たちの部屋なのだろうか。
「はい、あんた達、ここ触ってー」
そうなるとキツネさん達はどうするんだろうと思っていると、キツネさんがミィさんとマイさんが入っていった扉と、まだ未開封である扉に私たちに触るよう促した。
やっぱりこの部屋は私たちの部屋なんだと思って、みんなでばらばらに部屋の扉に手をかける。
「はい、終わりー。じゃあ、扉をぐいっとあけてみよー」
なんだかにこにこしていそうなキツネさんが、みんなに一斉に開けるよう促した。
私とシレさんが触っている扉はミィさんとマイさんがそれぞれ入っていった扉。ミィさん達が戻ってこなくてなんだか長いこと部屋にいるけど、ミィさんとマイさんが中にいるんだろうなと思って、何気なく扉を開けた。
「「「「あ」」」」
と、開けた扉の先で全員声を上げたのは、中にミィさんとマイさんがいたりいなかったりしたからではない。
全員が、すぐさま扉を閉めた。
「……なんで?」
「これ、どうやって……」
「今、すごいもの見た」
「……えーっと……なんでこんなことに?」
もう一度、みんなして扉を開いてみる。
扉の先。
そこは——
「はいはーい。領都へひと戻りおつかれさまー」
領都。
そこは、領都にあるキツネさんの家。あの豪邸のエントランスホール。
目の前の左右のらせん状に二階に上がっていく階段のこの間取りは忘れない。二階に上がった先にある部屋がとんでもなく広い食堂なのも、階段下から豪華なお風呂に向かえるこのホールは、数週間、私たちを癒してくれた、お家と呼べるべき場所だ。
もう一度ばたんっと閉めてみる。
深呼吸してもう一度開けてみる。
「あなた達、何をさっきから扉の開け閉めをしてるのですか」
「わっ!?」
開けた先に目の前にミィさんがいてびっくりして扉をあけたまましりもちをついてしまった。
「いたた……」
「……あの、キツネさん。これがあるなら、私たち旅しなくてもよかったんじゃ……」
ハナさんがミィさんと同じく扉の先から声をかけてくる。
すでに私以外は領都の豪邸のホールにいて、慌てて立ち上がってホールへと。
扉を閉めてからぐるりと見渡してみると、やはり間違いなく領都のキツネさんのお家だ。
「んー。空間支配系の能力はちょっと難しいからねー。一度塞いじゃうともう一度かけ直さないとだめなのよ。前回領都来るときに塞いじゃったのよね。悪用されると嫌だから。空間支配系は男の姿のほうがやりやすいからさっきまで調整してたのよー」
「つまり、この扉を壊して能力をなくせば、もう一度旦那様は男の姿になっていただけるということですね」
「ミィ!? そこまでやるのっ!?」
気づけばゆらりと拳を握りしめて扉に立ち向かうミィさん。なぜか隣に喜々としてラーナさんもどこからか取り出したどでかい剣をぶんぶんと素振りして扉を壊す気満々なんだけど。
それ壊されたら私たちみんなもう一回領都から王都へ行かなきゃだめですよね!?
キツネさんがミィさん達の頭を軽く撫でると、「ふわぁ」と変な声を出して蕩ける様に崩れ落ちた。
それだけで二人を倒すなんて、なんていう力なんだろうとか思うけど、撫でられたのがすごい気持ちよかったんだろうなぁ。今度撫ででもらおうなんて思っていると、
「これも、能力——魔法、ですか……?」
ハナさんが喫茶店と屋敷を行き来し、不思議そうに確認していた。
「そうよー。空間と空間をぎゅっと圧縮して繋げる技術っていえばいいのかしら。空間魔法ね」
「え。魔法って火、水、風、土、光、闇の六属性って前に言ってませんでしたか?」
「んー? それと複合魔法って教えたわね。空間魔法は複合魔法、と言えばいいのかしら。基本属性はそれで合ってるのよ。あー……難しいわね」
「旦那様」
「ん? どったの、マイ」
「空間魔法は旦那様以外で使える方を見たことないので、恐らくはオリジナル魔法、オリジナルの属性かと思われます」
……
…………
………………
「……え、そうなの?」
使ってるキツネさんが驚いてますけど、本人が驚いてたら私たちはどうしたらいいんだろうかと思う。
「【ボックス】も当たり前に使われていますが、あれも旦那様にしか使えません」
「そう……な、の……?」
「そうですよ」
キツネさんが、明らかに衝撃を受けたようなポーズをとった。しばらくして、ふと考えるように腕組みしてから私たちを見た。
「だってさ」
「「「なんとなくわかってました!」」」
【ボックス】が超特殊な能力だってこと、冒険者を初めて色々知った時にはわかってました。キツネさんしか使ってるとこ見たことなかったし!
後、どうでもいいことなんだけども。
キツネさんのお面でキツネさんがどんな表情浮かべてるかわかるようになってきたんだけど、そろそろ末期かもしれない。
「まあ、そういう話は後にするってことでその辺りでやめといて。かなりまじめな話しするから聞いてもらえる? このために急いで繋げたってのもあるんだから」
キツネのお面が少しだけキリっとした気がして、本当にキツネさんが真剣な話をするんだと感じて、私たちは扉を閉めてキツネさんをじっとみる。
ミィさん達も何か察したのか、蕩けた姿から戻って姿勢正しくキツネさんを見た。
「あのね……」
キツネさんが私たちを一通り見ると、キツネ面が、悲しそうな表情を浮かべた。
「オキナさんとオウナさんが、先日亡くなりました」
「「「え……」」」
思わず、その言葉しか、出なかった。
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