093.『喫茶・スカイ』は今日も騒がしい 2


 美味しいコーヒーをだされ、——キツネさんに、ではなく、ラーナさんが淹れてくれたくれたのでもう美味しくて美味しくて……決して、キツネさんだと美味しくないわけじゃないけど——のんびりとこの喫茶店近辺のお話をしていた。


 この喫茶店は、キツネさんが領都や別のところにいて留守にしている間は開かないことから、知る人ぞ知る、通なお店で知られているって話をナッティさんから教えてもらった。

 今日は開店していることさえ誰にも伝えてもないので人はこない。のんびりしていいと聞かされたけど、離れて座ると会話もできないかもだから、みんなで同じ机を囲んで話をする。


「コーヒーが美味いからねー、なかなか人気なのよここ」

「王都でもここだけですから、コーヒーを出すお店は。ミィさん達目当てももちろんいますよ。むしろそちらのほうが多いかしら」


 ナッティさんは一匙砂糖を入れて、ミルクも程よく入れたコーヒーを優雅に飲みながらこのお店自慢のコーヒーを堪能している。


 第一内壁と呼ばれる、王族と上級貴族の住む町の外にあるけども、なんだかんだで上級貴族の人も来たりする喫茶店みたい。って……それすごいことじゃない?


 あ、ナッティさんが上級貴族だから、それは間違いないんですね……。

 そこに更に美女が接客するなら、どんな客層なのかも少しわかってきたかも。


 他にも、時々王妃様が王城にキツネさんを呼ぶことがあるみたいで、その目的がコーヒーだったりするみたい。

 呼ばれたときはコーヒー片手に参上するみたいだけど、なんとなく領都で起きた引き留めとかもあるんじゃないかなって思ってる。

 あれって、膿だしみたいなものって聞いたから、王城にもキツネさんを知らない人がいたり、横暴な人を見定めるために使われたりもするんじゃないかな。

 キツネさんもなんだかんだで協力してるみたいだし。ミィさん達に群がる輩も一掃されてそう……。


「このコーヒー……飲んだことがあるような……ハナちゃん、わかる?」

「えっと……そこまでコーヒーを飲んだことがなくて……でも、美味しいのはわかりますよ」


 シレさんとハナさんが、出されたコーヒーをテイスティングしている。でも美味しかったのか、すぐにやめて普通に飲むことにしたみたい。


「アズ、私たちにはわからない世界」

「うん、コーヒーなんてそこまで美味しいと思えない……」

「子供の舌」

「うう……言い返せない。キッカも同じでしょ」

「正解」


 キッカとそんなことを言いながらちょっと砂糖とミルクを多めに入れて甘めにして飲むと、思いのほか美味しかった。

 流石にブラックは飲めないけども、これくらいなら私も好きになれそうだと思った。


「砂糖、一応、王都でも高級品です」


 ミィさんにそう言われて、砂糖を入れる手が止まる。


「さすがに五匙は入れすぎ」


 はい。入れすぎました。すいません……。

 でも私は甘いコーヒーが好きです。

 はい。贅沢です。











「では、そろそろ私はここで」


 のんびりとしながら界隈の話を聞いて、これからみんなでキツネさんがなんで男の姿していたかとか問い詰めようとしたところで、ナッティさんが席を立った。

 上級貴族として、王都に来たらやることが山積みみたいで、戻らなくてはいけないそうだ。

 それにナッティさん、王太子の婚約者だから、次期王太子妃候補で、ゆくゆくは王妃様なんだよね。王太子がアレだから、教育とかで忙しいんだろうなぁ。


「ソラさん、私は来週から学園に通いますが、その時はお迎えにあがればよろしいですか?」

「そーねー。よろしくー」

「お礼は今度男の姿で遊んで頂ければいいですよ」

「あんたもどんだけ男の姿が気に入ってるのよ……デートくらいならしてあげるわよ」

「それは女性の姿ででもお願いしたいですね」


 そんな冗談を言い合いながら、ナッティさんは外で待っていた護衛の人たちとともに、馬車に乗って帰っていった。

 護衛の人たち——ここまで共に旅をした騎士団の人たちにお礼を言って手を振っていると、ふと、気になることがあった。


「……ねえ、キッカ」

「なに、アズ」

「私たち……ナッティさんのところにお邪魔させてもらうんじゃなかった……?」

「……あ」

「……なんで私たちは、当たり前のようにここでお見送りしたのでしょうか……」


 ハナさんが、手を振っているポーズのまま固まって、青ざめていた。


「い、いそごう!」

「って、あれ!? 庭に私たちの荷物置いてあるんだけど!?」


 急いで馬車を追いかけようとしたら、庭の端に私たちの荷物が丁寧に置かれていた。

 これは、どう考えてもここに置いていくという意思。しかも数が足りていない。

 私たちはなにか悪いことでもしたのだろうかと泣きそうになる。

 キツネさん達がいるからどうしようもないわけじゃないけど、私たちはナッティさんの自宅を知っているわけでもない。王都のどこかに屋敷はあるんだろうけど、領都のように豪邸が立ち並ぶ高級住宅街のどれかであって、それがどこなのか、聞いても絶対誰も教えてくれないだろう。

 だってナッティさん、かなりお偉い人だから。私たちみたいな下っ端冒険者が本当なら会ってくれるような人じゃないはずだから。


「ちょいとお待ちなさいな。……おーい、ミィ、マイー。荷物まだ残ってるわよー」

「これは失礼しました。皆様のお荷物、すでにお部屋に運んでおりますよ」

「ごめんなさーい、今運びますね」


 キツネさんがむんずっと私たちの首根っこを掴んで引き留めた。

 ミィさんとマイさんが喫茶店から出てきて、私たちの荷物を店内へと運んでいく。


「……え??」

「あんた達、どこに行く気よ」

「だって、ナッティさんの従者として学園に来週からいくんですよね? だったら私たち、ナッティさんのお家にお世話にならないと」

「まー、それでもいいけど。学園行く時に迎えきてくれるって言ってんだし、落ち着きなさいな」


 キツネさんはそういうと喫茶店を親指で指差した。


「一応。あんた達の保護者は私なんだから、あんた達はこっちよ」

「へ?」

「喫茶店。喫茶『スカイ』へようこそ~」


 私たち、キツネさんの経営する喫茶店で寝泊まりするんですか?

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