第四章:王都で起きたいろいろは、私たちを成長させました! え、成長してますよね!?
学園というその場所で、なぜか彼は叫んだ
091.王都というその場所で
この世界は、とても広い世界。
どこまでも進んでも続く大陸、どこまでも広がる大海原。
どれだけの広大な土地なのかは、端から端まで進もうと試みる勇敢で無謀な勇者がいないからこそ、誰にもわからない。
創造神・フォールセティが創り出した、誰も世界の果てを見たことのない、世界。
創造神が創りし剣と魔法の世界
【フォールセティ】
そんな世界に、なんの因果か、異世界から転移させられてしまった私たち。
知り合ったヴィラン王爵令嬢ナッティさんが、卒業間近の王立学園で何事もなく過ごすための従者兼生徒として一時編入をして、ほんの少しだけ失ってしまっていた学園生活を新たに満喫することができ、今ではこの世界のことをいろいろ理解できるようになった。
例えばこの世界——ナニイット大陸がとても広くて、私たちのいるモロニック王国近隣諸国は理解できているけども、その諸国から向こう側にはまだまだ未開拓の地域や別の大陸があることや。
それこそ先日、どこぞのキツネのお面を被った巫女装束の女性が、ヴィラン王爵の名を騙って発表したどでかい発言――
――『【封樹の森】の向こう側には、別の世界が広がっている』
とかも、別の大陸情報として巷を騒がせている。
モロニック王国は東西南北をそれぞれ別の国が囲んでいて、それ以上領土を拡げることができない王国だと知った。王国も無理に拡げたいわけでもないこともあって、平和そのもの。
その平和を護っているのが、東西南北の辺境伯という肩書をもつ、選帝侯達。
それぞれの地方に、王国の王を決める権限をもつ、選帝侯。
その辺境伯が護るそれぞれの地方と密接に関係する主要各国。
北方は豊沃な牧草地帯と草原の国。
この世界を創ったとされるフォールセティ神を信仰する【シンボリック教国】が統治し、その草原に争いを好まない遊牧民が住まう国。
南方は砂漠と大海原の国。大陸中の財を回しているとまで言われる、商魂逞しい種族が作り上げた、自由国家ヒノムラが治め。
西方は大霊峰と山脈地帯に大量の資源と魔物を抱え込む国。
中央国家モロニック王国を手中に収めてナニイット大陸を支配しようと企む、モロニック王国と戦時中の国家。モロニック王国の間に、緩衝材のような役割をもっていたフレイ王国を滅ぼし吸収したインテンス帝国。
東方にはいまだ人の手が触れることを拒む未開拓地域に、一攫千金を求めて冒険者が群がり騒ぐ【封樹の森】の監視者の国。
領都ヴィランを中心とした、王国の属国。領都ヴィラン。
そして、ナニイット大陸の、大地と台地に恵まれた中央に、それらを纏める王の住む城と、絢爛豪華な都を有するモロニック王国。
この国のことや、ナニイット大陸のわかっている範囲での領土やその関係性がわかってきて、学園に入ってよかったと思う。
そんな学園で学びに学んで、今は、冬。
私たちの世界と同じ一年三百六十五日の、季節あるこの世界は、私たちの住んでいた世界とは違うこところもある。
それは、学園の卒業時期。
新年を迎える二週間ほど前に、学園の卒業式と卒業パーティがあるってこと。
学園の貴族と平民が参加。王様が常に主催者としてその場を祝う、卒業パーティ。
ある意味、これから先、豪華絢爛権謀術数渦巻く貴族の世界へ踏み出すことへの祝いと労いの、お金がかかった豪華なパーティ。
晴れの舞台ともなるその場所には、生徒たちの親——モロニック王国の上位も下位も関係なく、貴族の当主や関係者、時には他国の王族なども参加する、王国の一大イベントの一つとして数えられる学園卒業パーティでは、お相手探しや関係構築も定番。
騒がしくも優雅なパーティ。
そんなパーティに、ナッティさんの従者として編入した私たちも、共に参加を許された。
きっと、王様と知り合いだったりとかするからなのかもしれない。
学園に入って、仲良くなった同級生と、共に楽しく話をしたり、これからの未来や夢を語り合ったりと、楽しく過ごす短い時間。
「みんな、聞いてくれっ! 私の、想いをっ!」
そんな、卒業パーティの中で。
一際、注目を集める、見知った声が。
響き渡って、しーんと、一瞬で人の出す音が掻き消えた。
声を出したその主に、もっとも高い場所で座ってパーティを楽しんでいた王の顔が、歪む。
その声の主が、王にとって、近しい立場の人だったから。
「ナッティン・ヴィラン公爵令嬢っ! この国の王太子である私ことカースに、お前は相応しくないっ! よって、お前とは、この場で、婚約破棄する!」
なんて。
いまだ王爵令嬢ではなく、公爵令嬢だと言っているそんなおバカな、この国の王太子——カース・デ・モロン殿下が叫んだこの状況に。
「……ほんとに、あるんだ……」
「漫画とかアニメの話かと思ってた……私たちの世界で似たようなパーティに参加したこともあったけど、さすがになかったわよ……」
「アマチュアラノベ界でもすごい数のそれ系あった。すごい。ほんとにやらかしおった。尊敬する。ダメなほうの意味で。ちなみにシレさん、自慢?」
「ち、違うわよっ!?」
「皆さん、なんだかんだで若干巻き込まれ風ですよ私たち」
と。
その馬鹿殿下に叫ばれた女性と、その馬鹿殿下と取り巻きの周りが人払いし、ささっと人が離れて断罪劇の舞台が整ってしまっていた。
私たちはその流れに乗れず、舞台の中央辺りに残ってしまった。
注目の的。恥ずかしい。
え、場違い? 大丈夫。一応従者だから。
「今、なんと……?」
その叫びに、叫ばれた女性は、高級そうな扇子で口元を隠しながら、ぼそりと。
ヴィラン王爵。
領都ヴィランを王国の壁として。東に広がる難攻不落の【封樹の森】からの脅威的な強さの魔物を封じ込める王爵領の主。
モロニック王国の王を決める権限を持つ、四人の選帝侯の内の一人、東の選帝侯。
そんな重々しい肩書きをもつ、本モロニック王国の唯一の王爵と呼ばれる、王位継承権を持つドーター・ヴィラン王爵の一人娘。
ナッティン・ヴィラン。
私たちが、「ナッティさん」と親しみをこめて呼ぶ、私たち異世界人のかけがえのない親友は。
「何度でも言ってやろう! この国の王太子である、私こと、カースに、お前は相応しくない、と!」
そう再度言われて。
涙をぽろりと一滴流しながら。
「……うれしい」
と。一言。
不名誉とは別の意味で。
心底嬉しそうに辺りをざわめかす発言を発した。
王国のありとあらゆる貴族の令息令嬢と親がいる中。
学園卒業者の生徒たちと周辺諸国の来賓たちが溢れたその中。
綺麗なシャンデリアが煌めき照らす、ロココ調デザインともいえる豪華絢爛な卒業パーティの場は、彼の一言によって。
修羅場と化した。
……まあ。
ここに至るまでのいろんなこと。
すこーしずつ、私こと、アズとその一行が、ナッティさんの後ろで頭痛もしてないのに頭が痛いと思ってしまい、険しい顔してこめかみを揉んでしまう程度の悩みの種と今までを、思い出してみよう。
そう、それは。
私たちが、この王都へと、辿り着いてからの話——
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