085.馬車にゆられてゆらゆらと 5(アズ視点)
※注意
本エピソードにおいて、ヤンスはもっとヤンスってますが、アズがヤンス道にてヤンス語をヤンスってるので翻訳されて本エピソードは展開されております。
ヤンス語で見たい場合は、皆さんが脳内変換でヤンスってください^^
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「ヤンスさん、ヤンスさんは、ジンジャーさんとシレさんのこと、どう思いますか?」
「え、あの二人でヤンスか?」
ヤンスさんに、持ってきた水筒に入っていたお水を木のコップに入れて差し出すと、ヤンスさんはお礼を言いながら私の隣に座って受け取ってくれた。
ぐいっとお水を一口飲んだヤンスさんは、空をじっと見て私の質問への答えを考えてくれている。
なにこのイケメン。横顔とかもすごいんだけど。
……と、そんなヤンスさんの横顔を、私は見つめてしまう。
以前ゴブリンの襲撃の時に至近距離で見たヤンスさんの素顔。その素顔をいつもフードで隠してるヤンスさんは、時々フードを脱ぐようになった。
気心が知れたというのかな? 私たち以外がいるときは脱がないんだけども。それがちょっとだけ、ヤンスさんの他の人が知らないところを知っているってことが嬉しかったりとかなんとか思っちゃってる自分は、多分本気でやばいんだと思う。
でもでも。
この燃えるような赤いさらさらの髪と整った顔立ち。瞳も今は暗い中で焚火の光に当たってるから色味が違って見えるけど、普段は青と紫の中間くらいの薄い瞳が魅惑的で。いつも優しそうな笑顔を向けてくれるヤンスさんがかっこよすぎる。
体もスリムに見えて実は硬くて筋肉がしっかりしてそうなところで細マッチョなんだなとか。でも冒険者だから筋肉質なのは当たり前かなんて思ったもするけども、でもそんな人が先日私を抱きしめてくれて、その胸元に顔うずめてたとかそんなこと思うと……
「あー……うー……」
「? どしたでヤンスか?」
「なななんでもないでヤンスよっ」
横顔を見ているだけでも、恥ずかしくて顔をまともにみれなくなってるでヤンスよ。
「そ、それで、ヤンスさんとしては、シレさんとジンジャーさんはどうですかっ!」
慌てて元の路線へと戻すと、ヤンスさんは少しまた考えるしぐさをする。
しばらくして、
「んー……二人とも、いい人でヤンスからね。くっつけばいいのにでヤンス、と思ってるでヤンスよ」
と、少し苦笑いをして答えてくれた。
「やっぱり、ヤンスさんもそう思いますよね」
「むしろあの二人、あんだけ意識してるでヤンスから。ジンジャーさんなんて自分がシレはんのこと好きってこと、隠せてると思ってるでヤンスからね」
「え、そうなんですかっ」
「そうなんでヤンス」
それは驚きだった。
ああ、だから進展ないのね、なんて思ったけど、ふと思ったらシレさんも別にジンジャーさんがタイプだって言ってたのであって、好きっていうことは言ってなかった気もするけど……。
ああ、でも、シレさんは間違いなく好きだろうから、時間の問題なのかな。
「アズはんは、二人がどうなって欲しいでヤンスか?」
「え? 私ですか? そりゃもう……シレさんが幸せになってくれたらそれで……」
そういったところで、私は、ふと思った。
私がシレさんに幸せになってほしいっていうのは、本当。優しい人で、異世界に一緒に飛ばされてしまった仲間としても、友達としても、まだまだ短い関係かもしれないけど、それでもこれからも一緒にいたい人とは心から思っている。
でも。
二人が恋人同士になって。
もし、この世界から帰れるとか、離れ離れになることが決まってしまったとき。
二人は、どうなるんだろうか、と。
自分のことでもないのに、二人がそうなったとき、どうなるんだろうかと、今は戻れもしないし、戻る方法だってわからないのに、ふと、そんなことを思ってしまった。
それは私が、まだ生まれ育った元の世界に戻りたいと思っている証拠でもあるし、本当はこんな世界より元の世界のほうがいいって思っているってことなんだと思う。
殺伐、と言えるほど、この世界を知っているわけでもないし、それでも嫌な思いもしたし死にかけたりとか怖い思いもした。人の暴力を間近に見て、嫌いだと思った。けど、楽しいこともあった。キツネさんと出会ったり、ミィさん達やメリィさん、セシルさん達。この世界で出会って優しくしてくれる人だっている。
それに、ヤンスさんにも出会った。
だから、すべてが嫌ってことではないけども。
それでも、やっぱり。
私は、私が元居た世界に戻りたいって思っているんだと気づいてしまって。
考えようとしていなかっただけだと思うけど、それでもそう思っている自分に気づいてしまった。
帰りたい。
でも、帰れない。帰り方もわからない。
お母さんやお父さん、家族や友達にもまた会いたい。
そう思ったら、どんどんと気持ちが沈んでいく。
ぶるりと、体が急に寒気を感じて震えだす。
悲しくなって、涙が止まらなくなった。
「アズはん」
呼ばれて俯いていた顔をあげると、ヤンスさんが正面に立っていた。
ヤンスさんは片膝立ちのようにしゃがみ込み、私と目線を合わせると、持っていたコートをかけてくれる。
ヤンスさんがコートをかけてくれようとしたとき、至近距離に顔が近づいてきてその瞳に吸い込まれるように見つめてしまう。
綺麗な瞳。
その瞳は、ヤンスさんをじっとみてしまっている私を映し出す。でも、その瞳に映る私はその瞳から目を逸らすようなことはしない。
しないのではなく、できないだけだけど。
唇が触れそうになるくらいあまりにも近くに寄ったヤンスさんの顔は、ほんの短い時間を経て離れていく。
触れてもいないのに、少しだけ、それが寂しく思えてしまった。
ぼぅっと見つめる私の目に映るヤンスさんは、少し恥ずかしそうに笑顔を私に見せて言う。
「まずはアズはんが風邪をひかないように、あったかくするでヤンスよ」
「……ありがとうございます……」
そのコートは、どことなく。
ヤンスさんの、香りがして、少しだけ、ほっとした。
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