083.馬車にゆられてゆらゆらと 3(ソラ視点)

 二人がどういう話し合いをしたのか、どれだけの距離で話し合ったのか、とかは後で考えて捗らさせてもらうとして。

 帝国が、何年か前にフレイ王国を吸収して少しだけ大きくなったのも関係してそう。国力があがるとそれだけ攻めたくなるだろうし。


 北の草原の先には草原の民率いる民族国家があって、南は砂漠と商売の共和国。東は『封樹の森』。西はインテンス帝国。

 モロニック王国って、これ以上領土拡げられないのよね。

 だからヴィランの先にある未開拓地域でもある『封樹の森』を開拓してその先にいきたいのだろうけども。まー、フォールセティの人たちじゃあの森を抜けるのは無理よね。

 何年、何十年とかけて少しずつ切り取ってほんの少しの領土を拡げるくらいで勘弁しとかないと、拡げすぎたらひどいことになると思うし。


「それはそれとして。シテン殿」

「なによ」


 ちょうど考えていた話がそろそろ来るのかなと感じて、私は居住まいを正す。私とドーターの会話を微笑みを浮かべながらお茶をしていたなっちゃんも姿勢を正す。


「先日教えてくれるっていってた件になるんだけども」

「『封樹の森』の先の話?」

「そう。僕としてもこうやって和やかに雑談し続けたいのは山々なんだけどね。なんだったら今日一日僕と寝室で語り合ってくれると嬉しいのだけれど」

「男と寝室で寝るとかぞっとするわ」

「残念。無理強いはしないよ。で、あの森の向こうには、何があるんだい?」


 無理強いもなにも。最初から興味ないんだってば。

 本格的な話を聞こうとするときにそういうのをぶっこんで来ないでほしいわほんと。


「……別の世界よ」

「……え?」

「フォールセティとは違う人が住む世界。ノヴェルって世界があるわ。あー、ちなみに、別の世界って言い方してるけど、大陸が別って意味って考えたほうが分かりやすいかもね」

「別大陸か……。僕たちとは違う種族がいるってことかい?」

「いんや。何も変わらないわね。強いて言うなら、人くらいしかいないかな。亜人って区別されてるような種族はあんまりいないわよ。魔物はいるけどね」


 というか、まー。

 そんなこともあって、森を開拓していって、向こうにつながったとしたら、今度はフォールセティとノヴェルで戦争起きる可能性もあるのよね。

 だからあんな深い森があるって考えてもいいのかもね。

 森で遮っているから互いに交流もなく、別の世界が築かれているって考えてもいいかもしれないわ。


「……それで、なんだけど」

「……なによ、神妙な顔して」


 先ほど以上に深刻な顔をしてこちらを見るドーターに、なっちゃんも何事かと驚いている。


「その、先日話のあった、『グレン』という者についてなんだけども」

「ん? 紅蓮がどうかした?」

「その人が、情報源なのかな?」

「そうよ。紅蓮は通称。正しくはあんた達流に言うと、ユミ・アオヤナギ。ノヴェルにいる私みたいなキツネ目の男よ?」

「お、男……」


 私がそういうと、ドーターはひどくショックを受けたように目を見開いてわなわなと震えだす。


「そ、そ……」

「なによ、紅蓮になにかあるの?」

「そ、その……グレンという男は、シテン殿と懇意にしている人なのか!?」

「…………」




























「……はぁ?」



 こいつ、なにいってんの!?  私と紅蓮がなんかあると思ってるのかこいつはっ!

 見たこともない相手に嫉妬? まさか嫉妬!?

 そりゃあんたに比べたら紅蓮のほうがかっこいいわよ。こういうことしないからねっ!

 というかあんたに嫉妬されるような関係でもないでしょ、私はっ!



 と。


 思わず、なっちゃんが私をなだめてくれるほどに、お叱りしちゃいました。















 そんな、私の中でドーターの株がダダ下がりした数日後。



「いってらーっしゃーい」


 ひらひらと、私は馬車に乗る四人娘を手を振りながら見送る。

 ハナちゃんが私のほうをちらっと見て、なんだか微妙そうな顔をしていたけど、多分あの子、今の私の心境に気づいたわね。


 そう。

 まるでどこかへ売られていく子牛を見送るどなどなどーなーどぉーなぁー

 そんな気分。


 ……いやいや!

 そこらの貴族が用意できないほどのおっきくて豪華な馬車なんだからそんなわけないし!

 ハナちゃん達だけならジンジャーとかが借りたりしてぼろい馬車なるかもだけども、一緒になっちゃんだって乗るんだから適当な馬車なわけじゃないしっ!

 荷台がある馬車でもないんだからっ!


 ……あれ?

 なんだろう。アズちゃん達も乗り込むときに、こっちを見て少し悲しそうな顔してるんだけど。


 あ、もしかしてみんなしてそんな感じ!?

 いやいやいや、周りに数人のなっちゃんの護衛騎士もいたりするんだし、どんだけ豪勢な「どなどな」よっ!


「どなどなじゃないからねーっ!」


 私は、ほんの少し哀愁が漂うような馬車に向かって声をかける。


 これから先、二週間ほどかけて王都へ向かう彼女たち。

 彼女たちに領都であったいろんなことなんて忘れて、王都の学園で楽しいことが待っているよう願い、私は踵を返して領都へと戻った。



 私も、そろそろあの子達のために準備しないとだし、ね。



 さて、と。

 ドラゴンでも一狩り、いきますかっ!

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