082.馬車にゆられてゆらゆらと 2(ソラ視点)

 ミィとお酒飲む飲まないでコップの攻防をしていると、四人娘から、素朴な疑問を問いかけられた。


「キツネさんも、ああやって討伐した魔物の部位を切り取って納品してたんですか……?」

「キツネさん、ドラゴンくらいならあっさりとってそう」

「ドラゴンを倒したときって、どこが討伐部位になるんですか?」

「なんでドラゴン前提なのかと思うけど。……ドラゴンはどこも捨てるところもないから、綺麗さっぱりと余すことなく素材行きよ?」


 私がそういうと、四人娘は一斉に「え、じゃあ全部運ぶってこと……?」と驚いている。


「あのねあんた達……。ドラゴンがどれだけ大きいと思ってるのよ。小さいもので二メートル、大きいので五メートルは超えるのよ? それがその体躯に似合った翼をばっさーって広げるんだから、どかいのよ。あと、どれだけ威圧感あると思ってんのよ。普通は倒さないわよ。天災とか言われてるのもいるんだから」

「え、じゃあ、キツネさん、ドラゴン倒したこと、ない?」

「んなもん、翼広げる前にさくっとよ」

「「「「倒してるじゃないですかっ」」」」


 誰も倒してないとは言ってないわよ。

 でも最近はドラゴン倒してないわね。そろそろラーナにドラゴンのお肉料理とか作ってもらいたくなってきわね。一狩りいってこようかしら。

 探すのが面倒なのよね、ドラゴン。


「どうやって運ぶんですか? やっぱりみんなで切り分けて運ぶとか」

「【ボックス】に取り込めば全部勝手に内部で処理されて区分けされるからそんなのいちいちしなくてもいいのよ」

「「「「【ボックス】優秀!?」」」」

「後、ゴブリンとかコボルトとかは素材にできないし、繁殖力すごくてどんどん増えていくのよ。討伐した証拠ないと討伐しましたって嘘つく輩もいるからああいうの必要なだけなんだけどね。そこそこ上がってきたらそんなの生臭いし気持ち悪いし持ち歩きたくないから切り取って持ってくる冒険者もそんないないわよ。ギルド員も、渡されて処理するのも面倒だしね」

「「「「まさかのいらない証明!」」」」


 四人揃って同じことで驚くとか、ほんと仲いいわね。


「まー、冒険者の誰もが通る道だと思いなさい」


 そんなことより、とっとと豚さんジェネラルのお肉に舌鼓しなさいよ。



 ……って、なんでそこでまた青ざめるのよ。






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「――ってなことがあってねー。順調に育ってるわよあの子達」


 ヴィラン城。

 ドーターに呼び出された私は、ドーターの執務室でドーターの娘のなっちゃんとともに優雅にお茶をしながらドーターに近況報告していた。


「それはいいね。ナッティ、明後日には王都に向かうって聞いたけど、彼女たちも護衛カウントして問題なさそうだね」

「はい、お父様。こちらの準備はできておりますので。それで、カース殿下はどのように処置されるのですか?」

「当面放置」

「……わかりました。私の可愛い令嬢達が毒牙にかからないよう目を光らせます」


 なっちゃんは相変わらず女性大好きよね。そのうち王国の後継者を生んだりとかしなきゃいけないと思うんだけども。

 カースより周りに女性で固めてそうだわ。そういう意味ではカースと似合ってるのかもね。


「ドーターも大変ね」

「ナッティが王妃になるから、僕もそろそろナッティ以外の子を儲けて代替わりも考えたりしなきゃいけないんだけどもね。このままだと養子を教育してこの領都の後継者にしなくてはいけないんだけども。どうかな?」

「じゃあそうしたら?」

「……養子はいろいろ大変だから、直系が欲しいのだけども」

「じゃあどっかの令嬢捕まえて再婚しちゃいなさいよ」

「シテン殿……」

「わたしゃやーよ。わたしゃ一人で生きていくのよ」


 がくりとドーターが項垂れるけども、いい加減私に希望を見出すのはやめてほしいもんだけどね。脈ないんだから私には。

 それに、例え脈があったとしても、使徒として体の創りも違うから、人間との間に子を儲けることもできないから結局養子になるんだし。まあ、そこはやりようはあるにはあるんだけども……する気もないからどうでもいいし。


「ソラさんが男性だったらよかったのに……」

「なっちゃんもなにいってんのかな!?」


 ほぅっと、自分の頬に手を添えて熱いため息を出すなっちゃんに驚きを隠せない。男性だったらとか言うけど、男性だったらどうなんのよほんと。


「まー、それはそれとして。あんた、ヤッターラ伯爵に圧力かけたでしょ。バカインにも被害及んでたけど」


 アズちゃん達がトレインに巻き込まれてから数日後。

 バカインが領都から追放となった。ギルドに通達があって、合わせて冒険者証の剥奪を添えて。

 私はその場にいなかったから、多分メリィちゃん辺りがやってくれたんだろうけど、まー、自業自得ではあるのかねぇ。勇者風イケメンだけど、ざまぁされるほうの勇者風イケメンだったってわけね。


「ああ、そりゃあ、ね。シテン殿に失礼な考えを持ってたみたいだからね」

「それを口実にされると、私がとんでもない暴君みたいに聞こえるんだけどー?」

「これはこれは。他意はなく申し訳ない。単純に、ヤッターラ伯爵家が粗相が多かったのと、西の選帝侯タジー公からもヤッターラの苦情について嚙まさせてほしいときてね。ヤッターラは、両国の二重スパイをしてもらっているけど、最近は帝国寄りになってきているみたいで、切るにしてもいい口実が欲しかったみたいだね」

「ああー……公爵同士の密談ってやつね」


 帝国寄りという言葉に少し引っかかる。

 まさかと思うけど、ヤッターラが帝国の兵士を王国に招き入れて、それで勇者召喚を『封樹の森』でやったんじゃないでしょうね。


 ……ああ、多分きっとそういうことなのね。だから寄り親でもある公爵が動く、と。


 しっかし……タジー公爵って、確か、病弱さを感じるくらいの優男じゃなかったかしら。なのに常に笑顔できらっきらしてた気がするわ。

 そんな人が腹を探るような感じで動いて、自分たちが今まで有用に使っていた伯爵家を取り潰し、または降格させて力を削ごうとかしてると思うと、国の政治って怖いもんだわねー。

 多分、国王のワナイ君も一枚噛んでそうね。


「……ドーターとタジー公って仲いいんだっけ?」

「仲がいいほうじゃないかな。ほら、西ってインテンス帝国があるから常に前線で、僕の軍隊がよく行ってるからね……あれ? まさかシテン殿、タジー公みたいな人が好みなのかな?」


 ああ、言われてみれば。

 森から出てくる魔物の最前線が東のヴィラン。西のタジー公爵領が人との戦争の最前線だったわね。

 西って魔物より人との争いのほうが多いのよね。だから領内の結束がすごくて、元々は霊峰の豊富な資源や自然の取り合いから帝国との争いになってたんじゃなかったかしら。

 魔物も霊峰から生まれてるんだったわよね。霊峰とか言っておきながら内部にたんまり瘴気を抱え込んでるのよね。あれ、絶対ラスボス的な何かが隠れてるパターンよ。


 ……んで。なんで私の好みの話になるのよ。


「いや、好み云々ではないけども」

「じゃあどういうのが好みなんだい? 僕かな?」

「男には興味ない。むしろ、あんたとタジー公の絡みがどんなんだったか興味あるわ。あんたが攻めたの? それともあっちが攻め?」

「何の話!?」


 何の話って、こっちの話よ、こっちの話。

 あんたは気にしなくていいのよ、ほんとに。いやほんとにね。

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