074.王都出立前 5(ハナ視点)
「おい、カインの仲間の姉ちゃん達っ! アテにしてもいいかっ!?」
「こっちもアテにさせてもらうから大丈夫!」
逃げ場を失った私達。そして向こうの団体も同じく逃げ場を失った。
向こうの団体――ジンジャーさんとヤンスさん。バカインの元パーティのセシルさん、ローザさん、リディアさんのすぐに互いを庇いあい連携しあおうとするその姿に、一流の冒険者っていうのはこうも私達と違うのかと驚く。
「ヤンス! シレ達があぶねぇ! お前はこの包囲を抜けてあっちに加勢にいけるかっ!?」
「いけたらヤンスしねぇでヤンスが、何とかヤンスってみるでヤンス!」
「ヤンス君の言ってる意味わかんないけど、道作ればいい!?」
「ヤンスのためにヤンスをヤンスってくれればいいでヤンス!」
「ヤンスヤンスばっか言って! あんたどうしたいのよっ!?」
「キレられたでヤンスっ!?」
……ん?
本当に、連携取れてる?
私達の傍には、数えてみれば二十体の緑色の肌をした小鬼。ゴブリン。
二足歩行の魔物と戦うのが今回が初めて。今から人型と殺しあうのかと思うと、心の準備が欲しいとも思う。
人を殺すような、殺したことはないけど、そんな感覚。
これから殺すんだ、という感覚は、突進するしか脳のないウサギ相手には思わなかった感情だった。
その感覚は、すでにキッカさんは味わってるんだろうと思う。キッカさんは覚悟が決まったように真剣な表情で持っていた武器、ソードを構えてゴブリンを威嚇している。
ジンジャーさんは私達のことを思って、数体を相手にして私達に準備をさせてくれようとしたんだと思う。
でも、ジンジャーさん。それもほんの少しずれてるんですよ。
もしジンジャーさんのやりたいことが実践できていたとしたら、私はそっと言おうかと思っていた。
私達は、そもそも、日常的に殺生だと感じることのない世界から来たんだ、と。
そんな私達――ううん、違う。私以外の三人が、そうやって生き死にを感じてしまう状況にうろたえるだけしかないっていうことが、ジンジャーさん達、こちらの世界の人達には分からない感覚なんじゃないかって思っている。
人が簡単に死ぬ世界。
それは勿論前の世界でも一緒。でも、身近で起きているかと言われると、ニュースや記事で見るような当事者ならびに関係者でない限りはそんなことを「ふーん」とただ受け流してしまう程度の世界と、常に魔物と戦い群集となって立ち向かうことで生きている世界とでは、死というものの重さが違うのではないだろうか。
私はこの世界にきて、あの森で死にかけて。そして助けられて今こうやって冒険者として魔物を殺生することでそう考えるようになった。
でも。
「ステータス」
-----------------------
Name :
称号 :僧侶
薬師
異世界からの来訪者
-----------------------
私は私だけに見える半透明のプレートを表示させて自分の称号を見た。
アズさんは勇者。
キッカさんは剣聖。
シレさんは賢者と聖女。
私は――
『――ハナ様の役割は、盾と補助、ですね』
ヴィラン城でキツネさんに冒険者になれといわれ帰宅して、キツネさんの家でマイさんから言われた私の役割。
これから一緒に冒険者として旅をする皆とは違って、何も華々しくない私の称号。
その中で活路を見出す役割。それがマイさんから言われた【盾と補助】。
『よく考えてみてください。キッカ様は剣聖という称号から分かるように、剣を使って戦う前衛。ですが、シレ様とアズ様は弓と魔法、回復。後衛です』
『……守る人が、いない? だから私は、その二人を守る盾……?』
言われてみると、どれだけバランスが悪いパーティなのかと思った。
私達の世界でもあった小説やゲームの世界でのことを、私達がこの世界で生きていくために使って適切なのであれば、少なからずシレさんの魔法は、詠唱等が必要かもしれない。それこそ無防備になる可能性が高い。それを守るのは誰? アズさん? アズさんだって射手だ。もしかしたら最後衛として遠くから援護する役目だったりする。では、キッカさん? キッカさんが攻めなければ勝てるものも勝てない。
『……消去法でも、あるんですね』
『消去法です。でも、ハナ様はもっとも輝ける可能性がある』
『輝ける……?』
『考えてもみてください。ハナ様の称号は――』
「――アズさん、シレさん、私の傍へ!」
囲まれているから近くにいてもらうくらいしかその役割は果たせない。
私が出来るのは、後衛である二人が戦えるようにすること。キッカさんを助けるために二人が戦い、更に私が――
「シレさんは皆さんに補助魔法を、主に防御を重点的に! 時々でいいので攻撃魔法を織り交ぜられる様ならお願いしますっ!」
「ハナさん、私は?」
「キッカさんはもちろん――」
状況把握をしながら、適切に指示を出して二人を守る。壁となる。
私は司令塔。
そして時に皆を守る盾となり、臨機応変に僧侶としてシレさんの魔法の補助をする。
それが、このパーティでの私の役目。
「かいぃぃぃーーーん、きぃぃぃーーーーっくっ!」
この状況を作り出したバカが戻ってきて私達の群れの一体に蹴りを繰り出した。
様になったジャンプキック。まるでヒーローものの主人公がやってそうなキック。
……で?
だから、それが何の意味があるの?
今更この状況を作り出したバカが戻ってきて、今更助太刀して戦おうとして、何の意味があるの。
実際、そのキックをもらってゴブリンは倒れたけど、すぐに起き上がってキックしてきたバカに襲い掛かっていく。
「ギィィッ!」
「ははっ! シレっ! 今助けるからっ!」
ゴブリンが報復とばかりにバカに棍棒を振り回す。腐ってもヴィランの冒険者であるバカは、笑いながらその攻撃を避け続けている。舐めたプレイのようにも見えるその行動は、見ているゴブリンは怒りの感情を昂ぶらせ、バカの仲間だと思われている私達へとその矛先を向ける。
助ける? 今このバカはそう言った。そこに一人以外含まれていなければ、自分が起こしたこの状況で助けると言った。
まさかこいつは……。
「バカイン! あんたなにやってんのよっ!」
「リディア! 君もここにいたのかっ!」
「いたかじゃないですカイン様! 貴方が今行ったことは冒険者ルールとして逸脱していますよっ!」
「ローザ、仕方ないじゃないかっ。俺がかっこいい見せ場をシレに見せるためにはこれくらいはしないとっ! 大丈夫! 少し多いけど、これくらいなら俺達だけでも十分倒せるさっ! 報酬もたっぷりもらえる! いいこと尽くしだろっ!」
「……ジンジャーさん、ヤンスはここまでのバカをみたことがないでヤンス……」
「あぁ……。お前等、よくこいつらと一緒にパーティ組んでたなぁ……」
「「「ほんとに私達もそう思いますっ!」」」
ただ。シレさんの前でかっこつけたいがために。
まだ冒険者になって浅い私達に魔物をぶつけてきた――ネット用語で言うなら、トレイン。ゲームならトレイン
ああ。もう――こいつは、正真正銘の、バカ貴族だ。バカインだ。
バカイン。死んでしまえばいいのに。なんだったらこの機に乗じてメイスでぶん殴ったら死なないかしら。
この状況を作ったバカに、私はちっと聞こえない程度の舌打ちを鳴らして、先走って襲いかかってきたゴブリンに怒りの鉄槌をぶち当てる。
私の持っていたメイスの当たり所がよかったのか、ヒットした場所がこめかみ辺りだったからか。
メイスは私の手に、体に、人と同等の姿をした存在を殺したという重々しい感触を伝えてくる。
ぱんっと吹き飛び内部を撒き散らしたゴブリン。そのゴブリンが体ごと遠くへ飛ばされて地面を何度か転がり動かなくなったところをみて、私は覚悟を決める。
「――キッカさん、思う存分、暴れてくださいっ! アズさんは打ち漏らしを撃って牽制! やっちゃっても構いませんっ!」
「了解」
「は、はいっ!」
ああ。多分。
多分、私とキッカさんは、これからもこの感触を味わいながら戦っていくのだろう。
せめて、シレさんとアズさんがこの感触を知らないままであることを願いつつ、私は二人を守る。
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