073.王都出立前 4(アズ視点)


「皆さんここにいたのですね」


 私達が薬草採取を終え、ジンジャーさんがこれからのことを脱線しつつ話しているとき、私達に近づくパーティがいた。


「あー、こんちわー。ねぇねぇお嬢さんたち、ここにカイン来てない?」


 それは三人の女性。


 一人は、拳と胸元を鉄のプロテクター――エルダーウルフの毛皮と合金でできた胸当ての軽装の格闘家の女性。相手を素早く翻弄しながらヒットアンドウェイが似合いそうな人。

 もう一人はシスターのような格好をした女性。持ってる鉄の棒ことメイスは、その清純そうな見た目から何を殴るのか心配。

 もう一人は魔法使いのようにローブと杖を持った女性。とんがり帽子も似合ってる。


 私達――というか、シレさんにしつこく纏わり付くカインのパーティメンバーの人達。とはいっても、カインがとびきり嫌いなだけで、私達は皆さんとは仲良くさせてもらっている。

 今回はたまたまこの場所で会ったけども、いつもは別のところを狩場として主に魔物をハントしている人達だ。



「いつもながらカインが迷惑かけてるみたいでほんとにごめんねー」


 そういう格闘家の冒険者、セシルさんはいつも私達の心配をしてくれる姉御肌の人だ。最近冒険者ギルドで顔を合わせることが多くて、キッカがセシルさんに戦い方について教わってるみたい。私もよくその話に混じらせてもらっている。


 ……弓、上手くなりたいからね。


「いつになったら諦めるのかって面白みが出てきてますけど。流石にもう面白みはないですよね……」


 回復魔法が得意そうなシスター風の冒険者は、ローザさん。得意そうではなくて本当に回復魔法が得意で時々シレさんが魔法について話をしてる。シレさんがカインに使った魔法が凄かったみたいで、そこ繋がりで今は魔法を互いに教えあう仲だったりする。


「あのバカインにパーティ解散したって話をしにきたんだけど、どこにもいないのよ」


 私達のイメージ上、魔法使い!ってイメージの格好をしているリディアさんがカインを探している理由を説明してくれる。

 ちょっとツンなところがあるけど優しい大人っぽいお姉さんのリディアさんは、ローザさんも交えてシレさんとハナさんと冒険者ギルドで魔法談義に華を咲かせてることがある。もっとも、それさえもカインに邪魔されてて最近険悪だったんだよね……――



 ――って、さらっと聞き逃しそうになったけど、そのリディアさんが、びっくりするようなことを言った気がした。


 何を言われたのか、ちょっと思い返してみる。

 確かに、言った。言ったはず。


 パーティ解散、と。

 ……え? パーティ解散って、冒険者パーティの解散?


「いや、アズ。あんた何驚いてるのよ。当たり前でしょ。これだけないがしろにされてたら、ねぇ」

「え、だってリディアさん、カインのこと……」

「……はぁ!? ちょっと待って! 私あいつとは何の関係もないわよっ!?」


 リディアさんだけじゃなくて、セシルさんもローザさんも、カインとそういう関係だからかと思ってた。


「あのねぇ……一応幼馴染ってだけよ私達は。あ、でもセシルは違うわね」

「あー、私は子供の頃にカインの婚約者だったけど、その後解消してるから。なんだっけ、解消理由……ああ、伯爵家にはがさつな女は必要ないとかだったかな」

「婚約者!? 解消!?」


 セシルさんはヤッターラ伯爵家に隣接する子爵家の次女だったそうで、三人ともカインとは幼馴染だって教えてくれた。ローザさんはヤッターラ伯爵家直轄地の町のフォールセティ教会の牧師の娘で、リディアさんはヤッターラ家専属家庭教師の娘さんだったそう。

 よく四人で遊んでいることが多くて、カインがヤッターラ家を継ぐこともないので、一緒に冒険者になろうと約束して、伯爵領地から辺境のヴィラン領で冒険者として名を挙げることを目標にパーティを組んで今に至るそうな。


「まあ、最初から、私達みたいな気心知れた女じゃない人を見ると、助けてあげるとか甘い言葉で誘惑することはあったんだけどね」

「顔だけはいいですからね、カイン様は」

「そう、顔だけね、あのバカインは」


 みんな、カインのこと嫌いなんですね。あ。だから解散に至った、と。


「ほんとはねぇ……これからも頑張ろうとか思ったんだけど。こうまで冒険者の仕事をせずに一人シレのとこに来て邪魔してるってとこを見るとね」

「……なんか、ごめんなさい」

「シレさんが悪いわけじゃないのよ! どう考えてもフられてるのにまだ未練がましく付き纏っているカイン様がおかしいんだからっ」


 それには本当に同感。

 なんであんなにシレさんに付き纏うのか本当に理解ができない。

 ストーカーにも思えるカインに、誰もがローザさんの言葉に頷いてしまう。


「まあ、シレちゃんには? 心強い騎士様がそばにいらっしゃるようだけどもぉ?」

「せ、セシルさん……っ」

「ん? シレにそんな騎士がついてるのかぁ? 公爵様のところの騎士なら安心だなぁ」

「……」


 ああ、これは……。なんだろう。この、ジレジレを通り過ぎた朴念仁ジンジャーは。

 流石にシレさんが可哀想だった。



「ヤンスさん、ジンジャーさんに説明よろしくお願いします……」

「ヤンスがでヤンスかっ!?」


 優しい優しいヤンスさんが、ジンジャーさんを連れてちょっと離れたところへ。

 セシルさん達も説教ついでにジンジャーさんをからかいにいって、その後はカインを探すみたい。

 でも、こんな広い平原で、カインを探すことなんてできるのかな。隠れているとしたら少し離れたところに点々とあるおっきな森くらいだけど……。


「セシルさん達、どうやって探すんだろう」

「なんかスキルとかあるのかしらね?」

「シレさんのそばにいれば高確率で会えるから近くで探すんじゃないですか?」

「うわ、ハナさん、それ当たってるかも」


 シレさんが嫌そうな顔をしているけど、カインホイホイってぼそっとキッカが呟いたら噴き出して笑ってくれる。

 やっぱりこうやって笑いあわないと楽しいものも楽しめない。

 私達はやっと冒険者になって、これから色々経験していくんだから。楽しみながら学んでいくことは重要だと思う。


「――っ!――ぃ――!」

「……ん? 何の声?」


 最初はヤンスさん達がジンジャーさんを説教している声かと思ったんだけども、何か違う。

 それとともに、地面が揺れるような振動も少なからず私達の足は感じていた。


「……まさか……」


 何か感づいたセシルさんが、遠くを見るように目を凝らした。見ている先は平原の遠くに見える森。

 そこから大量の砂が波のように押し寄せてきていた。


「なに、あれ……」


 その先頭に人影が。

 なにかに追われているようにこちらに向かって走ってくるその人は、みたことのある人物だった。


「おーいっ!」


 気楽な感じでこちらに向かって走りながら声をかけるのは、先ほどから探していたカイン・ケル・ヤッターラその人だ。

 その背後に、砂埃を巻き上げて。

 その砂埃の正体がうっすらと見えてきたとき、私達は一斉に青褪めた。


「な、なんで……」

「なんであんなに……」


 魔物。

 それらが粗末な棍棒を振り上げてカインを追いかけている。それも大量に。

 それは緑色の小鬼。ゴブリン。


「なんでゴブリンがあんなにきてるのよっ!?」

「なに、どこかの巣でも襲撃でもしたの、あいつ!」


 ジンジャーさん達も、事態に気づいた。

 私達も休憩していた体を一気に起こす。

 セシルさん達が私達と合流しようと走る。

 だけども、その間を、先に合流したカインが走り去っていく。



「ああ、本当にもう……」



 真ん中を通っていったカインの後に続くゴブリン。

 カイン以外の獲物を見つけたゴブリンが臨戦態勢をとって獲物を囲む。




「「「ああいう周りのこと考えない馬鹿にうんざりしたのよぉぉぉぉっ!」」」



 セシルさん達の叫びと共に、私達は分断されてしまった。

 誰もが武器を手に、迎撃の構えをとる。

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