第三章:いざ進め、王都。絶対なんかある、フラグじゃないよっ

王都出立前

070.王都出立前 1(アズ視点)


 とぼとぼと私は歩いている。

 左右には木製とレンガ製で出来た建物が立ち並び、真ん中は大きな地肌丸見えの馬車道。馬車がすれ違えるほどの余裕さのある通路には、かぽかぽと今日も貴族や移動用の馬車がすれ違っている。


 私達はその馬車道の左右、歩道用通行路の建物の前を歩いている。木製の香ばしい香りを放つ、すきっ腹には辛い屋台や、ちょっとおしゃれなレンガ調の建物の前の歩行者通路をとぼとぼと歩いている。


「……はぁ……」


 私達以外にも、この町の人達は楽しそうに歩いているんだけども、その歩いている人達が当たり前のようにファンタジー世界の人達なのも、また私のため息を増長させる。

 ファンタジー世界――魔物がいる世界だから仕方がないことではあるんだけども、その人達が、西洋風の鎧だったり、肩当てだったり、樫の杖持った魔法使いみたいなローブ着たりしてたりと、どこのテーマパークなのかななんて思ってしまう。


 多種多様な人種の住む世界。フォールセティ。

 すれ違う人は私達と同じ人種もいれば、ネコ耳だったりウサ耳だったりする獣人種や、耳が私達より長い美の粋を集めた顔面偏差値の高すぎる人もいる。きらって光ってるように見えるくらい。




 そう。

 ここはファンタジー世界、というより、異世界。


 私達は、数週間前にこの世界へ異世界転移された中の生き残り。

 この世界では、私達のほうが異物であって、この考えもまた少数の考えだったりする。



「上手くいきませんでしたね……」

「オーダー自体は達成してる」

「簡単なオーダーだからだけども、疲れるね……」


 同級生のキッカとハナさん。私と並んで歩きながら、同じく肩を落としている二人。とぼとぼと三人で歩く理由は、共通している。


 私達があの日――ヴィラン城で公爵様や王様、ナッティさんや他様々なお偉い方達と出会ったあの日。

 キツネさんのおうちへと戻ってまたラーナさんに胃袋掴まれた次の日に、マイさんに連れられて冒険者ギルドへと。

 そこでメリィさんとまた会って、冒険者証を作ってもらってから数週間が経った。


 来週にはナッティさんと一緒に王都に向かうと聞いてはいるのだけど、その前に冒険者とはどういったものなのかをこの領都ヴィランで学ぼうという話になって、私達は森とは反対側の入口からでて草原へと降り立った。


 今日のオーダーは、ここ最近受けている薬草採取のオーダー。

 ポーションの原料にもなる薬草を一人十本程度採取してギルドに提出するっていう、ありきたりなオーダー。

 ここ最近は、この領都近郊、もっとも安全とされる王都方面の草原でこの薬草採取のオーダーを受け続けている。

 D級冒険者といっても、本当にこの世界のことが分からない私達は、特例として冒険者見習いとしてオーダーを受けている。後数回このオーダーをクリアすれば、私達もやっと本当の意味でのD級冒険者として色々できるようになるのだけど……。


 薬草採取そのものは楽しい。

 時々似たような草をとったら毒草だったりして、試行錯誤しながら見分けをしていくのは私達の世界にはなかった独特の楽しさがある。

 小さい話ではあるけど、宝探しのような、そんな印象。


 でも、そんな中。


 私達には少しだけ困ったことがあった。

 その困ったことが私達がとぼとぼと歩く原因であるのだけども、その原因は、私達の後ろにあった。



「……」



 後ろで、むすっとしている、私達四人の中での年長者になる、シレさんだ。

 シレさんが悪いというわけでもないのだけども、長い目でみたらシレさんが悪くなってしまうという、ちょっと辛い状況だったりする。



「おめぇ……いい加減自分のとこのパーティに戻れよ……かなり迷惑だぞ……」

「迷惑なわけないじゃないか。君こそ、どうしてずっとシレのそばにいるんだ。僕がいるから君は離れるといい」

「そばにいるのはこいつらの護衛だからにきまってんだろうがぁ……」


 シレさんの後ろ。

 その後ろで言い争いをする二人の男の人。


「そもそも、どうして君みたいな男がシレの護衛になるのか理解できないのさ」

「理解もなにも、キツネに聞きやがれ。……っていうか、俺はシレの護衛じゃなくてこいつらと姫さんの護衛だって言ってんだろう」

「だったら僕がシレを護衛するから君は他を護衛したらいい」

「だーからー……お前、そもそも護衛に選ばれてもねぇだろう」

「そこは今、父であるヤッターラ伯爵に融通効かせてもらっているところだから問題ないさ」

「……おめぇ……貴族だったとしても、それは反感買うだけだぞ……」


 残念イケメン勇者、カイン・ケル・ヤッターラと。

 私達のせいで強制的にB級冒険者になった、『ボッケイル』のジンジャーさん。


 ジンジャーさんとヤンスさんは、冒険者見習いの私達の教育も兼ねて、今は一緒にパーティを組んで冒険者としての心得を教えてくれている。

 これから王都に向かう時も護衛として一緒に来てくれるというから心強いんだけども。


 カイン・ケル・ヤッターラ。

 ヤッターラ伯爵家の三男で、先日冒険者ギルドでシレさんに一目惚れしてざまぁされた可哀想な人だ。

 このカインが、冒険者ギルドに訪れた私達――というか、シレさんを見つけて、それ以降しつこく絡んでくるようになった。


 おかげで私達は、薬草採取のオーダー中、ずっとカインがシレさんに言い寄っているところを見続けるはめになり、その都度カインが呼ぶ魔物に襲われて、それをカインが自分で倒して自慢すると言うシレさんへの自作自演アピールを見させられ続けている。


 なにより腹がたつのが、

 自分で呼び込んだ魔物――キラーラビットを倒す時に使う、必殺技『カインキック』が見るたびにイラッと来る。単なるジャンプキックなんだけども、前の世界のヒーローアニメのライダーさん達勢ぞろいくらいの勢いのキックバリエーションが、妙に残念イケメン勇者がやるから様になっていて、思わずみちゃうんだよね……。


 薬草採取中にいちいちそんなの見させられて注意力散漫になる見習い冒険者の身になって欲しい。



 ヤッターラ伯爵家といえば、次男が先日ヴィラン城でキツネさんに失礼をしたことが王様と公爵様の耳に入ったことで伯爵家の地位を剥奪されそうになったらしいけども、カインは知らないのかな……。公爵様、まだ怒ってるらしいんだけども。


 その前に。カインのパーティの人達とカインが一緒にいることをあまり見かけなくなったんだけど、どうしちゃったんだろう。




「貴族だからできることなのさ。さあ、シレ。僕と一緒に新しい世界へ飛びたとうじゃないかっ!」

「……」



 これがその数週間の間続いていたら、シレさんじゃなくても、そりゃ私達も目が死んでいきますってば。



「ヤンスも、あれに入ったほうがいいでヤンスかね?」


 ぽそっと。私達の先頭を歩くヤンスさんが言った。



 ヤンスさん……。

 ヤンスさんは、これからも、そんな感じでいてください……。

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