067.領都の悪役令嬢様 16(アズ視点)
そして案内されたのは、ナッティさんの屋敷の応接室。
広々とした部屋の中に、接客用のソファや机がセットされていて、壁には本棚がずらりと並んで所狭しと書籍が収納されている。
本棚の前にぽつんとあるのが執務用の机セット。昔こういう机を使ってみたい上位にランクインしていそうな豪華な机だけど、ナッティさんがここで仕事をするのかなとか思うと、お姫様も大変だなって思った。
「……昔はあんな方でもなかったのですが」
ため息をつきながら、ふかふかのソファに座るよう促されて座ると、ささっとメイドさんが複数人現れて私達の前にケーキやらクッキーやらが用意されていく。
ちらっと隣の扉が開いていたので見てみると、その先は淡いピンク色の装飾のされた部屋があるようで、多分寝室なんだと思う。もしここにカース君達を入れたのなら、確かにはしたないと思われるかも。カース君たちがついてくるなら多分違う部屋に通されたんだなと思うと、同性だからとか、信頼を見せられた気がして、あまり見ちゃいけないと思ったのですぐに目を逸らした。
「なんだか、大変そうですね、としか……」
本当に、庶民の私でもあれはダメだと思えるのだから、貴族の目に映るカース君はもっとダメなのかもしれない。
ほんの少しの間話をしただけで妙に疲れるカース君。あんなのと婚約者となって、普段から自由奔放に遊んでいることが窺い知れるアレの回りを説得する日々なんじゃないかと、ナッティさんが可哀想になってきた。
そんな会話をしながら、ナッティさんのカース君への愚痴や他愛ない会話をした。
話題がキツネさんの話に変わったときに分かったことは、ナッティさんもキツネさんの顔を見たことがあるみたいで、どうしてお面しているのかと不思議がっていた。
「あんなに綺麗な顔をしてるのに……」
と言われて、よりお面を外してもらいたい欲が出てくる。わかったことは、キツネさんはこの大陸――ナニイット大陸という名前らしい――で一番偉い人だそうで、その気になれば王様だって処罰できるみたい。
それは近隣の王国や共和国も、欲がなく理性もある人だからと、どこの国も自分達の上にキツネさんがいるってことを認めているみたい。
逆に安心できるという点もあるみたいで、キツネさんに裁かれるならそれでもいいと思われているって言うんだから、どれだけの人なのかと思う。
もう、凄い人すぎて、どう接したらいいのかと思うけど、キツネさんだから態度変えたら怒りそうだしこのままで行こうと皆で話したりした。
ナッティさんもそれがいいと太鼓判を押してくれたけど、ナッティさんは普段どんな接し方してるのか気になって参考にしたいとも思う。
でも。
「どちらかと言うと、ソラさんは神様の使徒なので、偉すぎて意味分からないというべきですね」
「……神様の、使徒……?」
キツネさんの正体。
それは、予想外すぎました。
神の使徒。
そんなのアニメや漫画でしかみたことない存在だよ?
人の上に立つ偉い人ではなくて、神様一歩手前の存在でしたなんて、ナッティさんが言うように偉すぎて意味わかんない。
「……神様って、この世界ではどういう方なんですか?」
「この世界の神様はフォールセティ様。世界の名前ともなっている方です」
そんな世界を創造した神様の使徒って、どんだけなのかと。
これはナッティさんがこっそり王様から聞いた話らしいけど、使徒様のいうことだから一番偉い人に従っているってテイであれば王様も楽なんだって。なるほど。王様とはいっても一人の人だから重圧とかに押し潰されないようにするための使徒様を上においているってことでもあるみたい。
そんな、長いようで短い、ナッティさんと親睦を深めていた時。
ふと、
「あ、そう言えば。私、皆様にお聞きしたいことがありましたの」
と、ナッティさんが改めるかのように質問してきた。
「異世界から来た方なら、ソラさんの時々変な発言にもご理解があるのかと思いまして」
「変な発言……」
ナッティさんがあえて言葉を選んだような言葉が、「変な発言」。
恥ずかしげに縦ロールのドリルを弄る姿が愛らしくもあるが、そのナッティさんから出た言葉が「変な発言」。
どれだけキツネさんが変なことを言っているのだろうかと心配になったけど、それがどういった類を指すのか、聞いてみないと何ともだと思った。
「変な発言はあまり聞いたことないけども」
「うーん……もしかして、私達が当たり前に思ってることでも、この世界では変な発言なのかも?」
「アズ。それそうかも。気をつけないと私達も変な人扱いされるかも」
「それは大変。気をつけないと」
「……」
「……別にキツネさんが変な人だとは思ってないよっ!?」
変な人だなんて!
面白い人だなって思ってはいるし、一緒にいて楽しい人だし、それに強くてかっこいいし! 最近キツネのお面も見慣れてきてそこもまたかっこいいなぁとか、面白そうな時にお面も柔らかな表情したりしてるようにも見えてきたし。
……あれ。
わたし、もしかしてかなり危ない子……?
「こほんっ」
「はっ」
「アズさん、物凄く声にでてましたよ……?」
「え」
「うーん、まあ……私達もあながち同じ意見だから人のこと言えないけど、ね。口にだして言うのはちょっと……」
すいません……。
「と、とにかく。お聞きしたいこと、なんですが」
「「「「はい、いくらでもお聞きください」」」」
「私の父、ドーター・ヴィランを、なぜソラさんは、『悪役令嬢』と呼ぶのでしょうか?」
「「「「…………」」」」
「「「「…………は?」」」」
ドーター・ヴィラン。
ドーター=令嬢
ヴィラン=悪役
それに気づいた私達は、まさかの悪役令嬢の登場に、噴き出すことしかできなかった。
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