066.領都の悪役令嬢様 15(アズ視点)


 ヴィラン城から少し離れた場所にあった屋敷。

 そこで私達は、ゆっくりと歓談させてもらっている。


 そこに至るまで、カース君に捕まったりと色々あったけども。


 王の間と呼ばれる大きな謁見室へと続く道――大きな、それこそ、大きな屋根つきアウトレットモールの歩行者通路のように広々とした場所で、このヴィラン城のお姫様、ナッティ・ヴィランさんに出会ってから数十分。

 通路でナッティさんの婚約者でもあるカース君とナッティさんが言い争いをしそうになったところでユーロ君が間に入ってくれた。


 その後、客室に案内されようとしたところで、なぜかカース君も一緒についてくることになって、扇子をばさっと広げて口元を隠しながらいやぁな顔しているナッティさんがとても印象的だった。


 ナッティさんもこれ以上カース君に付き合っていられないと思ったのか、私達を別の部屋へと案内すると言って後をついていったのだけど、途中までついてきていたカース君達が、王の間から歩いたところの扉を、私たちが通り過ぎた辺りで、急に足を止めて驚き出した。


「お、お前……ここは……」

「ええ、ついてこられますか? カース殿下なら来て頂いてもよろしいのではないでしょうか。小さい頃は何度も入られていたわけですし」

「い、いや……流石に小さい頃とは違って、今は弁えている……」

「あら素敵。いろんな女性の屋敷に通っては気にせず我が物顔で振舞っている殿下でも、ここには入って来れないのですね」


 とっても嫌味に聞こえるナッティさんの言葉。

 私達はすでにこの場所に入っているんだけども、ここ、本当は入っちゃだめなところだったんじゃないかと不安になるんだけど……ここ、なんなんだろう。


 歩いてきた道を思い出してみる。

 王の間の大きな一直線の通路を横切るようにあった道。扉で隔たれたその道を抜けて一度外を見ることができた。

 なかなかの距離があるその道。その先の次の建造物まで続くその道は、アーチ状の石膏物で出来た建造物の中を歩いていく。石柱なので全部が全部隠されているわけでもなく、空間を広く見せるためにか柱のほうが少ないくらいだから、さっきの王の間に続く道より圧迫感もなくて、外の景色が見えて解放感があった。


 多分、あの部屋ってお偉い人が使う部屋だと思うから、緊張とか解したりするためにすぐ外になってるんじゃないかな。

 だってあそこ、私とキッカなんてお偉い人に会って周りに圧迫されて気絶しちゃったみたいだし。重苦しいもんね、あの通路と王の間。


 お城の入口があったほうは、外から見えないようにかそれとも外から入れないようにか、何かの植物や木で隠されるように作られていて、とはいえ密になっているわけでもないその隙間からはお城の外が見える。鎧を来た人や文官みたいな人が時折歩いている姿がちらほら見えた。

 お城の内奥になると思う反対側は庭園だ。キツネさんのおうちで少しだけ話題になっていたガゼボがあって、庭園には水瓶を持った女神像が気持ち良さそうな水を流す噴水や綺麗な花に囲まれた広場もあって、そこでも何人かのお城勤めの人が休憩したり笑いあったりと楽しそうに会話をしていた。


 どうみても、憩いの場に見える。

 なんでここに入っちゃいけないんだろう。確かに、さっきこの扉に入る前に、強そうな騎士さんが二人扉の前にいて警護しているようにも見えたけど。


「あ、当たり前だ。お、お前は上位……いや、最高位である私の婚約者であって、またお前も最上位爵位の女であろう」

「私が爵位を持っているわけではありませんが。……それではカース殿下は下位のものとしかお遊びになっていないと? それはまた失礼なことですね」

「と、とにかく、別のところで話せばいいだろう?」

「何を。私は先程言いましたよ? 我が父、ドーターのお客様、ならびに大公のお客様に失礼があってはならない、と。礼を失さないよう私自らが私の自宅へ案内していると分かって頂けますか?……別に、カース殿下であれば入ってもよろしいともお伝えしているわけですし」



 居住区。


 ……見上げてみる。

 まるで、大きな旅館のような洋式のお屋敷。

 さっき扉を超えたけど、その扉の向こうに広がるのは、どうやらナッティさんのおうちのようだ。



「ここ、ナッティさんのお屋敷?」

「ええ。この奥にヴィラン公爵としての大屋敷がありますよ。ここは私個人の邸宅ですね」


 お城の中に邸宅がある。

 ああ、そう……そうだよね。城主の娘さんなんだから、お姫さんですよね……。

 じゃあ、さっきの騎士さんはお姫様を守る騎士さんだったのね。


「だ、だからといってだな! お、お前の居住区に、流石に他の男が入るのは、はしたないであろう!」

「私は先ほどから、カース殿下であれば、と申し上げておりますよ」

「いや、だからなぜ私だけなのかと。い、いや、他の男を入れるというのもおかしい話ではあるのだが。私がいるのであれば他の者も……いや、だが……」

「何を言いたいのですか。私の婚約者だからいいと言っているのですよ。ユーロ様ならまだ幼馴染の関係でもあるので分かりますが、婚約とはいえ未婚である私個人の屋敷に婚約者以外、見知った者以外を招きいれろと? 招待状を渡して招待するならまだしも。休んでいただくだけならそれこそ客室でよろしいではないですか。私がそのように育てられてきたことは十分ご存知のはずですよ?」


 カース君以外の、二人の取り巻きさんは扉の前から離れている。騎士さんに通せんぼされてるといったほうがいいかもだけど。それを騎士側に立ったユーロ君がため息混じりに取り巻きが中に入らないようにしているところが、ユーロ君って優秀でナッティさんからも信頼されているんだなって思った。……ユーロ君だけど。


 奥に大屋敷があるって話だけど、お城と一体化しているってのも考えものだなって思った。

 ……目の前にあるお屋敷も、十分に大きくて、これが公爵のお屋敷って言われても十分通用するよこれ。


 ……ん? あれ? じゃあなんで大屋敷よりも前にあるんだろう。


「多分、屋敷の入口が反対側なんだと思う」


 キッカの回答に、なるほどと納得した。

 私達、お城からこちらに来てるから。本当は公爵家から見たらお城が裏手になるのかもしれない。

 ナッティさんはこのお城のお姫様で、皆がお城の中を行き来するからこういうお屋敷を別に作ったのかもと思うと、なるほど、先程通ってきた道がちょっと遠かったのと、その間に綺麗な庭園があったのは、公爵家とお城を分断する意味もあったのかも、なんて思った。


「どちらが正面なのかわかりませんけどね。……先程も今も、大変失礼いたしました。……これで少し話ができそうですね」


 そんなことを考えてるうちに、ユーロ君に宥められながらカース君ご一行は去っていく。カース君は妙に怒っていたけど、なんかよく分からない人という印象しかない。

 だってさっきの話だって、婚約者じゃない女性の家には入り浸っているのに婚約者の家には入ろうとしない。入る時に他の男性がいたら、その婚約者がはしたない。婚約者以外の異性を招き入れることがふしだらなら、私達異世界人の生活ってどれだけふしだらなのかと思う。


 ……あ。私、男の人を自分の部屋に入れたことなんて数えるくらいしかないわ。それも小さい時くらいだし。

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