065.領都の悪役令嬢様 14(ソラ視点)
冒険者。
この世界における自由な職業。
自由民とも言える人達で、冒険者ギルドが発行する冒険者証があればどこの町にも行き来ができて、どこの町でも住むことが出来る。依頼を受けてお金を貯めて、そのお金でまた旅をする自由な民。
彼女達に、ちょうどいいのよね。
だってあの子達、この世界に放り出された異世界人だから、身分証明できるものないし。あの子達の持ってるお金なんてこっちじゃ使えないから無一文だし。
私の庇護の元、なんて言っても、上位貴族や王族は知ってるかもしれないけど、下位貴族は会ったことなんかないし眉唾ものだと思ってるから敬う気もないだろうし、嘘だと思うだろうから効果ないのは分かりきってるから尚更。これ、私がお面してるせいじゃないからねー。……きっと違うと思うわ。
だったらやっぱり。
あの子達には自由にこの広い世界を旅してもらうためにも冒険者ってのは最適な職業よね。
異世界に来たんだもの。
やっぱり、楽しまないと損でしょ。
「なるほど。冒険者にするってことかな? それは丁度いいかもね。シテン殿がここのギルド長代理だから、発行もしやすいだろうし」
「あんたが代理の仕事を押し付けたんでしょうが。……今はそれに感謝よ。あの子達、興味あるみたいだからね。……まあ、本人達の希望に任せるけども」
「そうなると、ヴィランからスタートというのも些か酷ですな。失礼ながら、令嬢方からは、強さがまったく感じられませんでしたので。いきなり【封樹の森】で戦えなんてことはありますまい?」
「そうね。ヴィラン近郊で安全に学ばせて、そのあと、王都に向かわせようと思ってるわ。そこでちょっと相談があるから私もワナイ君達とここで会えたのは時間のロスを防げて嬉しいわ」
「私を通してもらえればすぐだったのに?」
「ドーターはいちいち回りくどいし忙しいでしょうに」
そうだ。思い出した。
こいつが私にいらない仕事を押し付けてきたからこのヴィランでしばらくいることになっちゃったんだったわ。
ちょうどいいからこの際、代理権限を返還して一緒に王都に戻っちゃおう。
「冒険者ギルド長代理権限、返さなくていいからね」
「あんたはエスパーかっ!?」
「君が考えることは大体わかるつもりだけども」
「お面してて顔見えないのにっ!?」
ドーターが「愛してるからこそ分かると思ってほしい」とか言って私の手の甲にキスを落としてきた。
……それはちょっと、ホラーじみてきてるわよ?
「ふむ……で、あれば、後は余が気になるのは……」
ワナイ君が少し考えるように自分の顎を撫でると、真剣な表情で私を見てきた。正直そういう真剣な顔してみるのは、ドーターとか宰相さんとかのほうを向いてして欲しいところなんだけども。
「勇者が召還された、ということは、やはり、このフォールセティに何か良くないことが起きるという前触れと考えてもいいのかな? そこを神の使徒であるシテン殿に聞きにここまできたわけだよ」
王国としても、王様としても。
やっぱりその辺りが気になるわよね。
勇者の召喚。
それは、世界に危機が訪れているときに現れると相場は決まっている。
それが更に、帝国がやったこととはいえ、異世界から召喚された子達がその称号をもっていたとなれば、そりゃもう、ラノベの定番よね。
でも……―――
「それがね。神様からそういうのはなんも聞いてないのよ」
「「「……え?」」」
「正直、この近辺に、魔王が現れたとか、その兆候があったとか、そんなの聞かないし」
「あ、ああ。確かに言われてみれば、最近は帝国とのいざこざはあるけど平和だね。それが予兆ってわけでも?」
……ないわよ。
どうしても何かあってほしいのかしらこの人たちは。
多分、彼女達は、この世界に来た理由って、ないんだと思う。
大量に召還されたのも、本当に何もないからこそ、それぞれが呼び出されてしまったんだと思う。この世界を構築するエネルギーとか持たせられたとかなのかなとも思ったけども、そうだったら神の使徒である私を経由すればいい話だし。それか、彼女達は実は元の世界で一斉に死んでしまったとか。死んだ瞬間と異世界召還が丁度ぴったり重なって、例えば彼女達の世界で大規模なエネルギー消費が起きて、それが異世界召還のエネルギーと同等の力だったから引き寄せられた被害者って可能性もある。
こればっかりは、彼女達の世界で何があったのかってところが分からないと推測の域もでないし、同エネルギーの引き寄せってのもまた違うかもしれない。
でも、そうじゃないと、あれだけの大量召還は起きないだろうから、きっと何か大きな出来事があったんだろうなって思う。
だから、彼女達は。元の世界に戻れないし、戻ったところですでに死んだことになってると思う。
まさに、異界を旅することになってしまった、旅人。
ここでセカンドライフをしてもらう。それしか彼女達には道がないのよね。
確かこういうの、なんていうんだったかしら。……
「森の向こう側だと、【魔王・カミヤミツキ】が現れたって聞くけどね。中央大陸が堕ちて残りの四大陸も危険だって話は【紅蓮】ちゃんから聞いてはいるんだけど。さすがにあれを倒すための勇者とその仲間、ってわけではないと思うわよ。あれ、ナニイット大陸滅ぼすのに一ヶ月程度でやれるだろうから。勇者とかそういう部類のものでなんとなかるもんじゃないからねー」
少なからず、あっちのほうにいる魔王はアズちゃん達にはなんも関係ないとは思うんだわさ。てか、関係してたとしたらどれだけ無理ゲーなのよって思うしね。
ありゃぁ、こっちの大陸の人達にはどう足掻いても勝てないからね。
あー、そう言えば最近あっちの情報手に入れてないわ。
今度紅蓮ちゃん呼んで話聞かせてもらわないと。私のお面くらいのキツネ顔したあの青髪の優男。元気にしてるかしら。
「……え。ちょっと待って……シテン殿?」
「ん? どったの?」
考え事から戻ってきた私を見る、三人の目が、すごい。
何がすごいって、今こうやって私に質問をしてくるワナイ君とは違って、残りの二人は椅子に座ってるわけでもないのにずり落ちてるんだから。
もう、足の力が抜けたみたいに地面に座り込んでるのよ。
ワナイ君もかなり驚いて青褪めてるけども、私変なこと言ったかしらね。
「いや君……余の聞き間違えじゃないよね?」
「だからなにをよ」
「いや……だって君――」
「――【封樹の森】の向こう側に行ったことがあるって、いま言ったよね?」
……ん? 何を今更。
「行ったことあるけど、なんで?」
しーんと。
なんでこんなにも静かになるのかと思うほどに、静かになった。
……
…………
…………………あ。
そっか。ここの人達。
森を開拓できなくて、森から溢れる魔物が危険だから防波堤を作ったんだっけ。領都ヴィランの成り立ちって、領土拡大のための【封樹の森】の開拓者が集まったのが成り立ちだから。
開拓に失敗とまでは言わないけど、中層の奥まで行くことも滅多にないほどに魔物が強いから、その先に別の世界と大陸があるってこと、知らないんだ……。
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