064.領都の悪役令嬢様 13(ソラ視点)
私は、森の中で何があったのかを掻い摘んで話をした。
そこまで長い話でもないけども、それでもこの国で起きた、禁忌とされる異世界人の召還なのだから、王国として慎重に対応しなければならないと思うし、どういう状況だったかを話す。
なにより、今回の騒動の原因が、帝国が王国内で異世界召喚をしたってことであって、その理由も明白だってことも伝えてあげた。
「……ふむ。つまり、召還をしたのは、インテンス帝国で間違いない、ということですな?」
皆してドーターを見る。
多分、次に帝国が王国に戦争を仕掛ける理由が、ヴィラン領内で禁忌の異世界召喚がされたって吹聴して他国からも兵を集めて攻めてくるつもりなんでしょうね。
「あー……だとすると、今回は少し厳しい戦いになるりそうだ……余も、どこかしらを護ることになるかもしれないね」
「学園の教科書に載るレベルってところかな」
帝国のやろうとしていることは、とっても甘い考えだけども、他国に対して言うなら効果はあるかもしれない。
他国も領土を拡げたいだろうし、ナニイット大陸のど真ん中を領土にしているモロニック王国の国力を削げば大陸の覇者になれるかもだし、主要拠点を手に入れれば、商人たちが遠回りで危険な道ではなく、王都内を通って西南北の各国地を行き来してるんだから、経済効果もあって楽になるってもんだしね。
攻め込む大義名分が欲しい横から掠め取りたい周辺国と、その力を使って王国の肥沃な大地を手に入れたい帝国。
利害の一致ね。
あー、やだやだ。戦争なんて面倒だから関わらないようにしたいんだけどねー。
「ドーターに喧嘩売るつもりならこの国の誰かってのも考えたけど、先日王爵になって王国の王位継承権ももったヴィラン領主に喧嘩売る馬鹿な貴族ってまだいるならその線も考えたけどね」
いるわけない。
さっきから私を何かしらに誘ってくるこのおっさんが、この国から離反したら王国が終わると誰もが分かっているから。プライドの塊みたいな貴族が満場一致で王位継承権もっていいって思ってるわけなんだから。
離反した時点でかなりの貴族と土地の領主が王国を見限ってドーターにつくのは間違いないし、一ヶ月持てばいいほうなんじゃないかしら、王国側が。
「……うーん」
「……ああ」
あれ?
ドーターもワナイ君も、どうしてそんな悩みだしたのかしら。もしかして私が興味持ってない間に貴族の勢力図変わったのかしら。
そう思って考えてみれば、ドーターが王爵となったことを妬むものもいるかもしれないと思った。
東の選帝侯として王を選ぶ権利をもつ公爵が王位継承権をもっちゃったんだから、他の選帝侯だって黙っていないのかもしれない。
でも、インテンス帝国との小競り合いのときにもそこまで軍隊を出してこない他の辺境領主の選帝侯が、【封樹の森】と常日頃から死線を潜り抜けている領都ヴィランの兵士とそれを率いる猛者の一人であるドーターに勝てると思ってるのかと考えると、それはこの王国内で限るなら、誰も思ってないんじゃないかしら。
「ねえ、宰相さん。ドーターの敵ってそんなにいるの?」
「いや、おりませんが。ただ、悩ましいのが一人」
「……? 誰?」
「いや、シテン殿。……先程、会っておりますぞ」
……あ。
あいつかっ! カース王太子かっ!
「いやいや、いくらなんでも。そこまでは……」
「「「……」」」
「あ、あり得ないでしょ!?」
「シテン殿。……いまだドーター殿を公爵であって、王爵――王位継承権をもっているということさえも理解できない方ですぞ。正しく、大公であり自身の親より偉い天爵だと教育しても覚えない。愚かな子ですぞ」
「いやぁ、ドル。なかなか。親の前で言うねぇ……ドルの考えかな?」
「ユーロから聞いた情報ですが。評して、私の考えでもありますな」
宰相さんが、「学園でも広がっている事実とのこと」と付け加えると、ワナイ君は頭を抱えて下を向いた。
今の話を要約すると。
……うん。自分の地位を脅かす存在、かつ、自分より世間的に慕われて望まれている次代の王が誕生したのを理解できず、自分が王になれると信じて疑わずにやりたい放題やってるってことね。
おまけに、ドーターがいなくてもなんとかなるとか思ってるみたいね。ドーター率いるヴィラン軍が王国の主力だってこと分かっていないってのも、王家としても次期国王としてもありえないわ……。
後は。
そんな権力を誇示しておきながら、それ以上の権力持ちである私に不敬を働いていることも、自身が偉いから許されると思ってる節があるわね。……あ。それは自分の親より偉い人がいるって理解してたら、の話か。
どちらにせよ、そういうのが適当な私じゃなかったら即処断ね。
「……本気で、次の王にするの? あれ」
「……」
「ワナイ。私としてはね、第二王子か第一王女なら幾らでも支持するつもりだってこと、覚えておいてね。個人的にはナイア王女が安定していると思っているよ。次点でナイルス王子ってところかな」
「ドーター……だめ、かな?」
「私も王爵殿に賛成ですな。むしろ王爵殿が継げばいいのでは? 王太子の尻拭いは、私の家門もお断りしますぞ」
「ドルも、ドーターを王にするとか宰相辞めるとか言わないでほしいかなぁ。……だめだよねぇ……。少し、考えさせて欲しい」
「気持ちは分かるつもりだよ。……いい結果を期待しているよ、ワナイ」
疲れたような、悩まし気な、苦しげな表情を浮かべて項垂れてばかりのワナイ君を、左右から心配そうに、でも慈しみの感情をもって女性を虜にする紳士二人が慰める。その視線は、愛する男の苦悩を和らげてあげたいと、同じ苦悩を分かち合いたいと願う、男達の競演。
「ゆるりと絡む視線……。やがてその手はワナイ君の懐へと迫っていく。……じゅるり。いいわね……。いっそのことそのまま二人がワナイ君を……」
「「今のこの状況をそういう目でみないでほしいかなっ!?」」
あら。別にやましい目では見てないわよ。
私の目にはそういう風にしかあんたら映らないだけよ。
「こほんっ。私もまさかそういう目に合わせられるとは思いませんでしたが。それはそれとして。あの四人の令嬢が、ということなんですかな?」
「さっきの話で行くと、アサギリ令嬢が勇者で、キクハ令嬢が剣聖。ササラ令嬢が聖女と賢者、と。こう聞くとユウゼン令嬢も何か凄い称号を持ってそうだよね」
「まあ、それよりも。
「へぇ……?」
「おチビちゃんが精霊使い。オキナさんは鍛冶師、オウナさんは――まあ、どちらにしても、扇家には何かやってもらうわけにも行かないから私の家で囲うけどもね」
「勇者殿達はどうするんだい?」
「そりゃもちろん。私が世話するわよ」
異世界に来て今まで魔物と戦ったこともなければ、周りで生き死にはあれど自身が被ったこともない、それこそ争いとは程遠いところに住んでたのがよく分かるあの子達に、いきなり異世界で戦えーなんて言われても無理に決まってる。いつかは乗り越えてもらうけど、すぐには無理。
だったら、やっぱり。
異世界にきたなら。経験を少しずつ重ねていくなら、戦い含めて、探索や採取も兼ね揃えた、
冒険者。
これに限るわ。
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