063.領都の悪役令嬢様 12(ソラ視点)

「それで天爵様。このナニイット大陸でもっともお偉い御方よ。余はついに処罰されるのかな?」


 玉座に座るワナイ王が、先程殴られて去っていった自身の息子の無様さに笑いを堪えながら話を切り出した。


「……あんたねぇ……一応あんたの息子なんだから、少しは心配してあげなさいよ」

「いやぁ……あの吹き飛び加減は笑える。ドーターも手加減してくれてたみたいだしね?」

「手加減しなくても、あれは頑丈だよ? 宮廷魔法師団ウォル家の若き天才がいるからすぐに回復できるだろう? 回復魔法って便利だよね。いくら傷つけても治せるんだから。今度は斬りつけてやろうかとも思うよ」

「……あんたみたいな権力持ちが言うと、ほんとに王太子斬り殺しちゃいそうだから怖いわね……」

「ナッティを妻とするのだからそれくらいされても仕方ないと思うけどね。むしろ選帝侯の一人娘を婚約者としているのに、よくもまあ他の令嬢にも手を出そうとするよね。それが不思議でしょうがないよ」

「面目ない」

「白い結婚でよろしくね。あんなのに傷をつけられたらナッティが可哀想だ。シテン殿に負けじと劣らずの可愛い娘なんだから」


 どんだけ娘大好きなのよ、この王爵様は。

 でも分からなくもない。

 あの子、ドリルだし。――じゃなくて、若い頃に出会った奥さんとの一人娘だからね。そりゃもう可愛く育てたみたいだし可愛いしねナッちゃん。それにドリルだし。

 だがしかし。

 私より可愛いというのはいいけど、私と自分の娘を比べるのはどうなのよ。


「ではシテン殿。王もこういっていることですので、そろそろ処罰のほう考えましょうぞ」

「あら宰相さん、それいいわね。どうしようかしら」

「いやほんと勘弁してよ……余、意外と頑張ってるほうだと思うよ? ドルも本気でちょっと考えてる風なのやめてくれない?」


 本人がため息混じりに項垂れているけど、本当に頑張ってると思う。うん、そこは評価してる。

 あのカース王太子のやらかしはとにかく阿呆の極みだからね。今も多分、扉の向こうでまた女性見かけたらかどわかそうとかしてんじゃないかしら。

 あの周りの赤いのと緑のも甘い汁吸ってるって聞くから、まーもう、そのせいで王様はいろんなところに頭下げたりしてるって聞くわ。ほんとに頭下げてはないんだろうけども、次の王の時には後宮が手篭めにされた貴族令嬢とか平民で溢れかえりそうって話だし。


「でもワナイ。あれの処分を考えないと、そろそろこっちも我慢の限界だよ? あれのために私は可愛い一人娘のナッティを育てたわけじゃないってこと、分かってるよね?」

「すまないね。……前々からカースも知っているナッティ令嬢が婚約者となることで落ち着くかと思ったんだけどね……。でも、このままカースを王にするとなると、あれを止められる王妃が必要、そうなるとナッティ令嬢しかいないじゃないと思わない?」

「思わない。もう浮世流しすぎてるから人心離れすぎてるってことも分かってるよね? 本人とその周りは分かってないみたいだけど。ドルさんとこのユーロ君はその辺りどう考えてるのかな? 監視役でしょ」

「ユーロは頑張っていますよ。それ以上に三対一ですからやはり抑えられないものもあるのでしょうな」

「あれで抑えてるんだ……。で、ここにワナイ君いるってことは、その謝罪の旅も終わって、対処法としてナッちゃんを婚約者として大々的に発表することで本人を抑制。周りもアレに手を出さなくなったり、王太子だからって断れなかった令嬢達も、選帝侯の娘が婚約者となったことで理由をつけて逃げることもできるようになったからやっと落ち着いてきたってところ?」


 言っててちょっと悲しくなってきた。

 ナッちゃんが可哀想だわぁ……。


「いや、まあ……」

「ああ……全然それでも収まらないのね……」

「面目ない」


 後でナッちゃんを愛でてあげよう。


「ま、まあ、あの馬鹿息子のことはどうでもいいとして。ここに余が来たのは、それもあるけど、それよりもあの光の柱のことで来たといったほうが正しいよ」


 あら。事前に勇者召還だって伝えてメリィちゃんからドーター経由で伝わってると思ったんだけど、伝わってなかったかしら。


「じかに、さ、聞いてみたいわけじゃないか。天から与えられたナニイット大陸最高権力者でS級冒険者のソラ大公が、飛び出していくほどの話なんだから」


 ああ。

 この友人達は、どうやら仕事にかまけすぎて気分転換したかったのね。そうじゃなかったら王都からこっちに戻ってくるわけないし、ドーターも執務室から出てくるわけないか。


 ワナイ君と宰相さんは、仕事から逃げてきたとも言えるかも。


「あのねワナイ君。別に飛び出したってわけじゃないわよ? 大量召還されたみたいだったから全員助けられるわけもないけどとりあえず気持ち急いで向かったくらいよ。実際助けられたのって、私が助けたのは七人だし。私、木の枝片手にぶんぶん振り回してきただけだしね」

「……うーん? それであの森の凶悪な魔物達を倒せるってことが規格外だよね。あそこ、上級冒険者でも複数パーティで挑むところだよね?」

「ドーターとワナイ君、あと宰相さんと後数人で向かえば一週間くらいで中層にはつけるんじゃない?」

「ちなみに、シテン殿は何日で中層までついたのか参考に聞いておこうかな」

「ん? 一日?」

「「「化け物か」」」

「失礼なっ」


 みんな揃って私をなんだと思ってるのかと。

 あそこは魔物がいなけりゃそれくらいでつけるのよ。じゃなかったら三人娘つれてあんな早くに出れないわよ。


「まあ、シテン殿が桁外れということは今に始まったことじゃないからいいけど」

「桁外れって……まあ、いいけど、否定しないわ」

「そんな天爵殿は、神様から勇者召還されるって聞いてたって話だったよね。としたら、シテン殿の意見が聞きたいね。今度二人きりで飲みながら話しないかい? 朝まで一緒にいてくれると私は嬉しいのだけれど」

「一人で飲んでなさい。神様からいつか勇者召還されるって聞いてただけだから。光の柱が出た時は今日なのかぁって思ったけども、あんな量が飛ばされるとは聞いてなかったし、神様って適当なのよ」

「神の使徒様ってのは、いつだって神様とやり取りできるわけじゃないのかな?」

「神の使徒ってのは間違ってないけどさ、神様ってそこまで喋るほうじゃないわよ。会いに行こうと思えば会いに行けるんだけどね、すぐに」


 あんた達が崇拝する神様じゃないってだけよ。

 私の神様は、この世界――フォールセティの神ではなくて、数多の世界の創造神のほうだから。

 だからこの世界のことなんてそこまで興味ないのよね、私の神様って。


「使徒様の言う事は神様の思し召し。やはり何かよくないことが起きるということでシテン殿経由での啓示となるのですかな?」

「それが一番不思議なのよね」


 そう、私が疑問に思っているのはそこなのよ。

 さすが宰相さん。よく分かってるわそこの二人と違って。


 私はこの世界に彼女達が連れてこられた理由――正しくは、彼女達が異世界召還の犠牲者として選ばれたのは、なぜなのかを考える。

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