061.領都の悪役令嬢様 10(アズ視点)


 城内。王の間前の廊下。


「キツネさんの謎、また出来た」


 そう言ったのは、やっと私の胸から抜け出したキッカ。

 ほんと、歩きづらくて仕方なかった。


 そんなキッカが考え事をしながら呟いたそれは、王の間でのキツネさんの立ち位置があまりにも複雑で謎に満ちているということ。


 キツネさんがどういった人なのか。

 冒険者ギルドのギルド長代理でS級冒険者。

 そして、王国で大公という、最上級の爵位をもつ、恐らくはワナイ国王と同等の地位を持つ、小国の王様。


 私は、すでに背後となった王の間の大きな扉をちらりと見て、また前を見た。


 王の間から出てすぐの大きな通路を、私達は騎士の人に案内されて歩いている。


 あの扉の先では何が話されてるのか。

 王同士の話なんて、かなり重要な話に違いない。

 もしかして、異世界から召喚された私達の話なのかもしれない。


 後で話を聞けるのかな。なんて思いながら、騎士さんに付いていく。


 キツネさんが客間と言っていたから多分そこへ案内されるんだと思うけど、王太子がキツネさんに悪態つきながら歩いているから、いつ私達に突っかかってくるか不安でそわそわする。

 結構離れた距離とはいっても、この廊下がまっすぐで大きいこの廊下は辺りを見渡せるから、後ろに私達がいることもすぐにばれちゃうと思うんだ。


「あ、おい。お前達、さっきキツネ面に連れてこられた女どもだろ」


 ……ほら。

 嫌な予感しかしない。


「カース殿下。失礼ながら、彼女達はヴィラン閣下のお客様です。礼節を大切にしていただきたい」


 私達を案内してくれている騎士の人が私達と王太子――カース君の前に数人たって道を遮ってくれる。

 警戒されているということは分かっているのかカース君は「ふんっ、さっきので懲りたわ」と歩きながら護衛に魔法かなにかで治してもらったのか、すでに腫れが引いた頬をさすっては王の間を睨みつけた。



「……私には分からんが、ちょっと挑発してみたら父上と公爵があれほどまでに反応するとはな。あのキツネ面、何者だ?」

「カース殿下、まさか、相手を知るためにわざと愚者の真似を……」

「相手を知るために自身を犠牲にするとは……さすがですな、殿下」


 まるであたかも、あの場でわざとあんな発言をしましたといったことを匂わすカース君。本当だろうか。結構本気だった気もするけど、色とりどりの髪色をした取り巻きさん達は中で何があったか知らないのでカース君の言っていることを鵜呑みにしちゃったみたい。


「……その一発をもらって知ったことってたかが知れてる」


 キッカがジト目で睨みながらぼそっと私達にしか聞こえない声量で言った。

 シレさんもハナさんも苦笑いしている。


 そう。公爵様に殴られて「ぐぇぇっ」って雑魚っぽい声を上げて吹っ飛んだカース君がそこまでして知れたことは、キツネさんがカース君より偉い人ってこと。ワナイ国王と同等の権力を持った人なんだなって分かったから少しは感謝……――感謝、できることなのかな?


「まあ、いい。あれはそのうち私の前に跪かせるとして。今日会ったお前達に話があってな」

「? 私達に?」

「ああ。お前達が何者かというところも気になるところだが、父上に紹介されるほどであるならそれなりの血筋の令嬢であろう、いい体をしている。……そこの二人がな」


 シレさんとハナさんはそうかもしれないけど、私達は違います、なんて言ったら、この人私達のことを蔑みそうだから言わないでおこう。

 あと、さらっと私とキッカをみて残念そうな顔したけど、どんだけ失礼なのかと。


 ……あ。私達も十分失礼だ。目の前の人、なんだかんだで王太子なんだから。


 一言二言、後は厭らしい目線が多くて嫌な気分になるけど、カース君とその取り巻き三人は、私達に名乗っていく。


 赤い髪の毛で強そうな男の人が、カース君が王様になったときには側近騎士となる予定の、王都騎士団副団長の息子のシュミ・ト・ヘンケン君。ヘンケン伯爵家の嫡男の、短髪で運動神経がよさそうな体つきの男の人。


 緑の髪の毛でネス・ミト・ウォル君。どことなくおっきなネズミの耳が頭についていそうな庇護欲をそそられる可愛い系の男の子。宮廷魔法師団団長のお子さんで、魔法が得意な家系だそうだ。


 そして、青い髪の毛で宰相さんみたいに眼鏡をしている人が――


「――キンセン侯爵家嫡男、ユーロ・ハ・キンセンだ」



 ぶふーっ!



 皆してまさかのユーロ君に出会うとは思ってもおらず、一斉に笑ってしまった。

 ユーロ君から「なんだ失礼なやつらだな!」とお怒りをいただいてしまう。そこは皆で謝ってむすっとしてもらう程度で治めてもらったけど、これは本格的に失礼な話なので今度しっかり謝ろう。


「君達に聞きたいことがあるのだけれど」


 そう切り出したユーロ君は、カース君に軽く目配せする。カース君が頷き腕を組んで私達を見ることを確認したユーロ君は、改めて私達のほうを見て話しだした。


「彼女――狐のお面を被ったあの女性について聞きたいのだけれども、少しは時間を頂いてもいいかな? 殿下に話を聞いていると、私は、彼女が殿下を傷つけたのかと睨みつけてしまってね。後で謝罪をしなければと思っているのだけれど、少しあの場で起きたことを第三者からも聞いてみたくてね」


 どうやら、ユーロ君は、話せる人のようだ。

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