059.領都の悪役令嬢様 8(ソラ視点)
もう一つの椅子に座った、アズたちと同じ年頃の男の子が、立ち上がるやいなや、私を指差した。
「そこのだ! キツネのお面をした体だけ見た目いいヤツ! なんかエロい服着たお前だっ!」
「……おい。てめぇ、いまなんてった……?」
「「「「ひっ」」」」
……あら。やだやだ。恥ずかしい。
思わずドス黒い声出しちゃったわ。
傍にいたアズちゃんたちも含めて殺気当てちゃったわ。
目の前の男ども四人にはどうでもいいとしても、流石に彼女達に当てちゃだめね。
しっぱいしっぱい。
すぐに四人娘達から殺気を解除するけど、四人ともがくりと倒れこんで私を震えながら見ている。うわぁ……流石にそんな目で見られるの辛いわぁ。……慣れてるけど。
でも、こんな状況の中でもキッカちゃんはアズちゃんの胸元から顔外さないんだけど、それ動きづらくないのかしら。
「あー、ごめんごめん。ちょっとエロい服着てるって言われたからイラっときちゃって」
「「「そ、そこなんですかっ!?」」」
そこなんです。
別にキツネのお面もこういうバカを吊るし上げるためにつけてんだからいいし。体も、ぶっちゃけわたし、いい体だし。キモイからそういうの言われたくないけどね。
でも、よ。
でもでも、よ?
「服装をね、バカにしちゃだめなのよ。服ってのはその人が何かしらの思いや感性で作ったものなの。だから、その服をバカにするってことは、その人をバカにするってことなのよ。で、この服を作ったのは誰?」
「……し、知らないです」
ハナちゃんが恐る恐るといった感じで答えた。
でもそうよね。そうそう。そこの男どもは知ってても答えられないわよね。まだ殺気当ててるし。
ほほほっ。喋れるものなら喋ってみなさいな。
四人娘はもう気持ちを切り替えたのかさっきみたいな怖い目で私を見なくなった。
多分、心の中では怖いって気持ちはあるかもしれないけど、それはそれで私の失敗だから仕方なく受け入れよう。仲良くしたいからね、私としては。
「この世界で有名なデザイナーさんが作ったとか、ですか?」
「私よ」
「「キツネさんが作ったんですかっ!?」」
「私に決まってるでしょうに。ってか、さっきの考えでいくと、こいつは私そのものをエロい呼ばわりしたのよ、失礼でしょ。勝手にエロいとか言い出して。何様よって話よほんと」
ふんすっと鼻息吹いてやると、アズちゃんがひそっと、「何様っていうか多分王太子です……」と小さな声で言った。
んなもんしっとるわっ!
そこの知ってる王様の子供だから余計に腹たつのよっ!
「で? なんか言うことは?」
「愚息が失礼しました……」
「よし、ワナイ君は許す」
ちゃんと子供がやったことを親が謝れるっていいことよ。もう成年でもあるから微妙だけども。
私が指差してゆびぱっちんすると、ワナイ君は「ぐふぅ……」と安堵の表情を浮かべながら、玉座に深く座り込んで息を整えようとしている。
「シテン殿……まいど思うのですが、私何か関係してますでしょうか……毎回被害を被っているような気がしてなりませぬ」
「よ、よし。宰相さんはむしろいつも褒めてくれるから許す」
宰相さんはただ巻き込まれただけだし内政向きだからとっとと指ぱっちんして助けてあげる。
宰相さんは「ぐふぅ……」と四つん這いになって息を整えようとしている。とばっちりね。今度お詫びに何かご飯でもご馳走してあげよう。
「いや、あのね……シテン殿? 私だって常に君のことを褒めてるし、ワナイ以外関係ないよね? それで許してくれてるドル君が羨ましいんだけど」
「あんたの褒めはいちいち芝居かかってるから微妙」
「愛を囁いてるだけだけど?」
「だからそれがいやなんだってば」
「じゃあこれを止めてくれないとこの殺気を君の愛と受け止めて愛を囁きつづ――」
「……キモいから許す」
こいつは何を言い出したのかと。
殺気当てられて冷や汗かきながら愛を囁くとか気持ち悪いわっ。
「ふぅ……相変わらず殺気だけでこうなるというのも怖いもんだね。……あれ、ワナイとドル君。なんでそんなぐったりしてるの?」
「……シテン殿の殺気を当てられ続けて拘束されたら普通こうなりますぞ……」
「なまってるね。ワナイ。君も仕事にかまけて最近体動かしてないんじゃない?」
「余も動きたいんだけどね……最近はトラブル続きでね……」
ぐったりとしていたワナイ君はいまだ地面に縫い付けられるように四つん這いとなっている男を見た。
さっき、私のことをエロい呼ばわりしたやつだ。
「……まあ、できれば、愚息も解放してあげてほしいんだけどね?」
「……いいけどさ。あんた、これの教育ミスったんじゃないの?」
ワナイ君の「おっしゃる通り」という呆れた声に、私は、ワナイ君が最近疲れて国務優先にしていて動けない状況がほぼこの男にあるんだと察した。私はため息をつきながら殺気を当てることをやめた。
ぜーはーと必死に息を整えるワナイ君の息子は、息を整えると同時に私に向かって怒りの表情を向ける。
「きさまっ、不敬だぞっ!」
「あんたのほうが不敬でしょうが。……あんた、所詮はモロニック王国の王太子でしょう。ワナイ君――ワナイ王が全権を持ってるんだから、あんた国務もやらずに学生生活満喫してんでしょ。同じ学生の妹のほうがしっかりものだって聞いてるわよ。あんたって肩書きだけが偉そうな何もしてないのに偉ぶってる貴族の最たるものよね」
「ぐっ。き……きさまぁ……何様だっ!」
「「「……
おぉー。
そこのお偉い三人衆が一斉に呆れて同じこと言ったわ。仲良いわねこの三人。
天爵。
また滅多に出ない言葉をよう使うもんだわ。
……あ、そうか。ここにいるお偉い人だから、あえてその爵位を出してきたのね。なるほど、なるほど。
……天爵の意味、分かると、思う? 私、入場のときに大公って名乗られた上でこのざまよ?
で、その天爵に悪い口を叩いた王太子なんてやってるこのワナイ君の息子は、どうなるんだろうねー?
……もう、そんなこと考えてると、ここ数日の間の若者達の私への当たりがきつくて、私がキツネのお面とかつけて歩き回ってるから悪いようにも思えてきたわ。
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