056.領都の悪役令嬢様 5(アズ視点)

 金属鎧に身を包み、キラキラと光るその人は、冒険者ギルドで見た治安部隊の人のようでありながら、その鎧を煌びやかにしたような姿をしていた。

 腰につけられた西洋風のロングソードも豪華な装飾がつけられていて、偉くなれば偉くなるほどにごってり装飾がついていくのかと思って、貴族の人も大変そうだなと思ったのが第一印象。


 でも、驚きの声をあげたのは、その隣にいる、騎士の人より頭一個分身長の低い、オールバックのひょろっとして疲れていそうな人。初めて片眼鏡をかけている人を見たけど、その疲れているけど整った顔に片眼鏡がよく似合っている。


「あら。久しぶりねー。宰相さん」

「今日、ここにいらっしゃるとはっ! い、いや、その前に、屋敷にいらっしゃないこと前提で私達が後で屋敷にお迎えにあがろうかと」

「ん? なんで? なんか今日あったっけ?」

「いえありませんが。とはいえ好都合! 皆様、王の間におりますのでお越しくだされ」

「……王の間に? 誰が?」


 キツネさんに宰相と呼ばれたその人は、隣にいた騎士に先触れを出すように伝えて騎士の人を急がせた。


「ここからは私が先導させて頂きます」

「えー、いらないのにそういうの。ってか何があったのよ。貴族の面倒ごとは嫌いよー?」

「シテン殿……。相変わらずのその権力嫌い、直されたほうがよろしいのでは? 私もいい加減、殿ではなくしっかりとした呼称で話しかけたいものですが」

「宰相さんにそんなんで呼ばれたらぞっとするわよ。私の権力嫌いは昔からそうなの。っていうか私自身が権力持ったことなんてなかったんだから、いきなりそんなん言われても嫌なもんは嫌なのよ。普通に話したほうが楽でしょうに」

「……その喋り方や敬い方がマナーであって普通なんですがね? 前に怒られなければこんなフランクに話そうともしませんが。いや、呼ぶ時は呼びますぞ?」

「フランク……? え、それでフランクなの? もうちょっと砕けたら? まだ壁あるように見えるわよ?」


 宰相さん。

 どこの宰相さんなのかは分からないけど、宰相といえば、国のトップの補佐をする人じゃなかったかなって。

 国のトップといえば、モロニック王国。その王様の宰相様?


 ……その宰相様が恭しく道案内???

 宰相って上位爵位であればなれるみたいだけど、伯爵以上の人って聞いたことがある。


 皆と顔を見合わせると、キッカが真剣な表情でこくりと頷き、シレさんとハナさんは少し顔を青褪めさせている。

 私も多分、顔は青いかもしれない。


 今までのことを考えてみる。


 ヤッターラ伯爵家に対してボブさんが言っていたのは、キツネさんに暴言を吐けば極刑。

 そのボブさんも侯爵。つまりは伯爵よりも爵位が上。

 その上といえば公爵。その公爵はさっきの話ではこのヴィラン城の城主、ヴィラン公が該当する。


 そして、宰相さん。

 宰相さんも確実に伯爵以上だと考えれば、少しずつキツネさんの爵位が分かってくる気がした。

 私はひそっと、三人に自分の考えを伝えた。


「間違いなく」

「そうね、間違いないわね……ハナちゃんもそう思う?」

「私もそう思います。そうでなければここを顔パスとかありえないです。……先程から頭を下げている方々は、子爵クラス、恐らく当主、または当主に近しい方々のようですし……」


 ハナさんの「あの門番さん達、確かに極刑とされても仕方ないですね」という呟きに、言われてみれば、と、なぜボブさんがあの時「どっち身分」と聞いたのか分かった気がした。

 あの時ボブさんは、この城に来ているキツネさんの複数ある身分のうち、どちらで来たのか、その身分によっては、門番の二人をその場で処罰しなければならなかったから聞いたんだと思う。


 私達がキツネさんの身分で分かっているのはいくつかある。


 冒険者ギルド ギルド長代理のキツネさん

 冒険者ギルド S級冒険者のキツネさん


 そしてもう一つ。


「たぶん、キツネさんは、侯爵よりも上……公爵なんだと思う」


 爵位の最上位。

 だとしたら、この領都の領主であり城主と同じ爵位なのだから、顔パスというのも頷ける。城内のこの歩けば頭を下げられる状況も顔パス加減もわかるというもの。


「シテン殿。これでも十分砕けて話しておりますぞ?」

「もうちょっとこーさー。友達みたいな感覚でね?」

「いや、友達でもこんな気さくに話しませんぞ。むしろレディに対してそんな気さくに話さないと思いませんか?」

「え……。貴族って堅苦しいわねぇ本当に。……んー? あんた達さっきから何話してるの?って……顔真っ青!? 大丈夫!?」


 宰相さんと楽しそうに話をしているキツネさんが、私達の顔色を見て心配そうにこちらに声をかけてくれる。


「う……キツネさ……キツネ様?」

「いきなりなに!? なんで様付けになった!?」

「キツネ様……違う。ソ、ソラ様? もしかして本当に上位の貴族で偉い人ですかっ」

「うわっ、なんかあんた達にソラって呼ばれるとぞわっとするわよ。キツネでいいってば。で、私が偉い? ん? いやそうだけども。って……んー? もしかしてあんた達、私が偉いからって緊張してるの?」


 そりゃ緊張しますよ!?

 と、大きい声で言いたいけど、周りの雰囲気からキツネさんにわーって大声で何か言うのも憚れる。


「まあ、私があんた達に何か酷いことすることはないから今まで通りでいいから安心しなさい。後、もうちょっとだけ我慢しなさい。そしたらそういう緊張もなんとかなるだろうから」


 キツネさんは私達にそう言うと、親指をぐいっと立てた。私達と話すために背面歩きをしていたキツネさんが、その指を更に自分の背後を指すように向ける。


「……う、うわぁ……」


 キツネさんの親指が指した先にあるのは、大きな扉。

 明らかにラスボスがいそうな、何年かかって作られたのかさえわからない煌びやかな装飾がされた、大きな扉だ。


 そういえば、さっき、宰相さんが王の間って言ってたような気がするけど、ここが王の間?

 ……王の間? 王? 王様?

 ここって領都だから王っていないと思うんだけど……。


「あ、そうだ。あんた達。ここに案内されたってことは、いや~な話があるかもだけど、私に任せときゃいいからほとんど話しないようにね」


 キツネさんがにこりとお面の内側で笑っているような気がした。

 いくら貴族の中でも偉い人だって分かったからといって、キツネさんへの態度を変えなくてもいいといわれているようでほっとする。


 ……普段と変わらないのもどうかと思うけども。



「静粛に!」



 盛大な大声と共に。

 目の前の荘厳な装飾の大扉を、左右に待機していた兵士が開いていく。





「ソラ・シテン大公のご入場っ!」













「「「「……大公?」」」」






 大公。

 それって、もしかして、公爵より偉い……?



 緊張がなんとかなる???

 緊張は爆上がりなんですけど!?




―――――

ここでカクヨムコンテスト8は締めとなりました。

よい結果が皆さんに訪れますように(≧∀≦)

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