055.領都の悪役令嬢様 4(アズ視点)

「ねぇ、キッカ」


 お城の外門から内門へ。

 その内門で門番に絡まれて騎士団長のボブさんに助けられて内門から城内へ。


 正面と左右の三箇所に入り口があるそのお城のど真ん中に本当に顔パスで入っていくキツネさん。


 場内に入る前に、ジンジャーさんとヤンスさんは嫌な予感を感じたのか、「ここで待つ」と頑なにお城に入ることを断った。キツネさんが仕方なく、近くにいた人を捕まえてどこかの部屋へ案内するように伝えてそこで別れることになった。


 すれ違う高貴そうな格好をした人達――たぶん貴族の人達だと思うけど、キツネさんを見ると誰もが驚き、会話や移動を停止してその場でお辞儀してキツネさんが通り過ぎるのを待つのだけど……。


 こんなことが起きる中、一緒に歩かされるのなら、ジンジャーさん達と一緒に別部屋に連れて行って欲しかった、と、ちょっと二人が羨ましかった。


 私達が偉いわけでもないし、一庶民の私としては、ここまでお辞儀してくる人達の前を軽く手をあげて挨拶するキツネさんを見ていると、なんだか私達が偉くなったようにも思えてくる。流石に虎の威を借りるみたいな感じでいい気分ではない。

 嫌な貴族の人しか見てない(キツネさんやミリィさん除く)から、心のうちに湧き上がる衝動があるのだけど、それと同じくキツネさんが何者なのかと知りたい欲求のほうが高くなる。


「ん。どした、アズ」


 ふんぞり返るくらいの勢いで今の光景にふんすっと鼻息荒くしているキッカに声をかける。

 私のラノベ頭脳に聞きたいこと、それは――


「――爵位、教えて」

「爵位?……私のはラノベ知識。シレさん達に聞いたほうがよさげ」


 キッカがそういうと、私達より前を歩いている二人の肩をがしっと掴む。

 びくっと、後ろから見ても二人が冷や汗を垂らしていそうだとわかってくすっと笑ってしまう。


「二人とも。なかなかのご身分?」

「も、もとの世界ではでしょ。い、今はもう関係ないと思わない?」

「そう、そうですよっ。今はもうまったくもって何の権力もない小娘ですっ」

「ハナさんのステータス見てないからなんともだけど。シレさんは聖女やら賢者やらのお嬢様が持つべき能力を持ってる。きっとハナさんもそうだと仮定。きっとお嬢様だからいい称号もってる」


 え。そうだったとしたらキッカも剣聖とか大概だよ?

 ……あ、私も勇者とか仰々しい称号もってたんだった。

 ――……じゃなくて! そんな理由で称号が凄くなるなら私と私の家はきっととんでも大金持ち! 由緒正しい昔から続く家系とかだよきっと!


 シレさんもハナさんも、元の世界で、世界有数の財閥関係者だったみたいで、どこかしらのパーティでもしかしたら会ってたかも? と互いにうっすらと思っていたみたい。むしろ二人が連綿と続く家系でした……。

 私達の知らない世界を知っていそうな二人が傍にいてくれてただ嬉しいってだけなんだけども、なぜかキッカはそれをダシにして色々聞き出そうとしているけど、別に隠してたわけでもないからいいような気もする。


「私達、濃厚な日々を過ごした仲間で友達だけど、知らないこともあるから今更もういいんだけども。キツネさんがアレだから、皆で知ってる知識をすり合わせたりして協力したい」

「そういってもらえると嬉しいわ。こっちも知らないことありそうだし。キッカちゃんのラノベ知識だってかなり重要だと思うわよ。別世界に準じているっているってことがそもそも元の世界のラノベってなんなのよって思わなくもないけどね」


 言われてみれば確かに。

 まるで見知ったかのような設定。考えると沼に嵌りそうなので、人類の想像力が世界の壁を凌駕しているんだと思うことにしよう。


「まずは、私の知ってる爵位と、シレさんたちの知ってる爵位に齟齬がないか確認」


 私達は、知ってる知識を総動員しながら話をする。

 本当はキツネさんに直接聞いたほうがいいのだろうけども、教えてくれなさそうだし、適当に伝えられそうだったので、まずは予備知識を共通化してから聞いたほうがいいと話し合いで決めた。


 キツネさんをちらっと見てみると、周りに挨拶することに気が回っていてこっちを見てないみたいだからちょうどよかった。

 あれ? でもキツネさん、歩きながら手を振ったりしてるけど、なんか怒ってる?


「聞いてる感じだと、私達の世界とほぼ一緒だと思って間違いないと思います」

「ハナちゃん、そうなると、やっぱり 公、侯、伯、子、男ってことよね」

「上位貴族が公爵、侯爵、伯爵。下位貴族が子爵と男爵ですね」

「……あれ? じゃあヤットコはどうなんですか?」

「うわ。アズちゃん、ヤットコのこと呼び捨てとか嫌いなことがよく分かるわ」

「ええ、嫌いですね。あの後どうなったかは知らないですけども」

「貴族階級には他にもあって、伯爵位だけど辺境守備をすることで辺境伯という特別爵位を渡されて侯爵と同じ扱いをされたりもある。準男爵は準貴族っていって平民扱い。準貴族は準男爵と士爵があって、功績とかで召し上げられたりする貴族候補みたいな人達のこと。もちろん、貴族にもなれる」


 なるほど。だからキツネさんはあの時、ヤットコのことを「平民」って言ってたのね。


「公のほうの公爵は、王族との関係者に与えられる爵位だから、他領地を治める貴族としては侯爵がもっとも高いであってる?」

「概ね間違ってないと思うけど。そうなると、王爵ってキツネさんがいってたここの領主様は、どの部類なのかな」

「多分、公爵の中でも王族に近しい場合につけられるんじゃなかった? 王位継承権持つとかそういうの。身分的には公爵じゃないかな」

「じゃあ、キツネさんって、多分――」

「し……シテン殿!?」


 キツネさんが進む度にお辞儀をしていた貴族の中。

 お辞儀せずにキツネさんを見て驚きの声をあげる人がいた。

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