050.ソラさんのおうち 6(アズ視点)
「キツネさんって、そんなにお酒飲むとだめになるのですか?」
キツネさんがいなくなったその大きな部屋は、より大きく見えてしまうほどに静かになった。
そんな静かになったその部屋で、いい匂いがキッチンから溢れてくる。
先程のミィさんのお酒もそうだけど、少しずつこの部屋に漂ういい匂いに、私のお腹は「ぐぅぅ」っと音を立てだした。
この町に着いてからまったくご飯を食べてない。
冒険者ギルドでも思ったそのことは、漂う美味しそうな匂いにすきっ腹にはより酷く堪えた。
そんな空腹を紛らわすためか、先の疑問を、ハナさんがキッチンを見ながらマイさんへ聞いた。
「あー……まあ……前に私達四人のちょっとしたお祝いの時に、旦那様が四人にお酒を振舞ってくれたんです。その時に旦那様にお酒を皆で飲ませたら、許容量超えちゃったみたいで……」
……ああ、ギルドで聞いたお話ですね。
お酒は身を滅ぼすって言うけど、そんな話のようにも聞こえる。
「凄く甘えてきて、話しだすと凄く可愛くて。じっとしていると凄く美しくて……その一声一声に魅了されます」
「「どういう状況!?」」
「あと、お面とりますね」
「「それは見てみたい!」」
今度、お酒を飲ませてみよう。そう思ったとき、ミィさんがすっと手を差し出してきた。
「旦那様のお面を外すのは容易なことではありませんよ」
「会って間もないですけど、それでもお面の下の顔、見てみたいです」
「そうですね。……貴方たちは悪い人ではなさそうですから。旦那様のお美しさに、共に酔いしれることができる方達だと見受けられます」
「……どんだけなんですかキツネさんって……」
でも、認められたみたいで悪い気はしない。
ミィさんとぐっと熱い握手を交わす。
「でも、見てみたいです」
「では、私が次回アタックしたときには、皆さんにも手伝ってもらうことにしましょう。旦那様はのらりくらりと逃げるので、逃げ場をなくす手伝いを是非ともしていただければ。その後は私が旦那様をしっかりと介抱しますのでご安心を。そう解放しますので……ふふっ。いい味方ができましたね」
……え。あれ? 違う? もしかしてミィさんがキツネさんをどうにかしたいから?
あれ。早まったかな私……。
「……あれ、そう言えば……四人? ですか?」
シレさんが、ミィさんの暴走をとりあえず無視することにしたのか、気になったことをマイさんに質問した。
言われてみれば、さっきマイさんはキツネさんを抜いた四人と言っていた。ミィさんとマイさん、後ラーナさんで三人。後一人、まだ見てないけどこの屋敷に誰かいるのかな?
「ええ。四人。旦那様あわせて五人のSランク冒険者パーティ『王女様と愉快な
「マイ、ちょっとは知られたじゃなくて、冒険者ギルドでもっとも知られた名ですよ。旦那様が作った旦那様が活躍するための、私達はオマケなパーティです」
「お姉ちゃん、それ言うと、また旦那様に怒られるよ?」
「……では、旦那様との甘い愛の囁きをモットーとした……」
「お姉ちゃん……」
マイさんが頭を抱え出す。
確かに。
キツネさんへの愛が……重い!
キッチンからの「できたよー」と言う声と共に、ことりと運ばれてくる料理。
出てきたラーナさんが「あれ? ごしゅじんしゃまはー?」と小首傾げているけど、私とミィさんが握手しているところを見て、にへへと笑いながら「なかいいことはいいことよー」とにこにこが止まらない。
目の前に出された料理に、私はごくりと喉を鳴らす。
先程まで漂ってきたいい匂いの正体はこれじゃないと思いながらも、お腹の空き具合にすぐさま席に座る。
「もう一人の方はいらっしゃらないのですか?」
ハナさんが同じく席に座って目の前の料理へのワクワク感を必死に抑えながら別のことで質問した。多分今すぐ食べたいけども、流石に皆揃って食べたいから気を逸らすためだったんだと思う。私もそうだから。
私の。私のお皿はまだかな。早くこないかな。
「ああ、もう一人……」
ミィさんが少し残念そうな顔を見せた。心なしか、両耳がほんの少し下がっているようにも見える。寂しい、悲しいといった感情だと、その耳の動きですぐにわかった。
聞いちゃいけなかったのかと、ハナさんが「ごめんなさい」と謝った。
「もう会えないとかではないので気になさらず。この屋敷にはおりませんよ」
ミィさんの耳がぴんっと張った。その耳が、焦りや慌てたりを現しているように見えた。そういえば、キツネさんの近くにいるときは、ミィさんの耳がピコピコと動いてたけど、あれは嬉しさを表現していたんだなぁとか思う。
エルフって、耳で感情表現するのかな……。
そんなことを思っていた私の前にも、ラーナさんが近づいてきて。
「はーい。おまたせしましたー」
目の前に、お皿が置かれた。
黒くて細長い棒がゆっくりと。
柔らかく滑らかな柔肌を掻き分けるように、ほんの少しの弾力という抵抗を与えながらも、その棒の逞しさに負けて柔肌はその棒を受け入れていく。
つぷり、と。
その棒に侵食された柔肌は、まだ何も知らず純粋であるかのように純潔さをその中身に見せ、仄かな体温とも言える湯気を濃厚な香りと共に発散させた。
くらりと来るその香りと湯気に、よりごくりと喉がなる。
早く食べたい。貪りつくしたいと自身の心が逸る。
そのかすかに見え隠れする、棒を突きたてられた割れ目から見える芳醇な香りに、いてもたってもいられない。
つんつんっと棒で突くと、その棒に応えるかのように、ぷるりと、控えめの柔肌の上に被さる皮が揺れる。
つつくたびに少しずつ見せていくその中身と、中から掻き出されて露わになる中身は、より潤沢な匂いで鼻を刺激する。
その魅惑の刺激は、欲望を掻き立てた。
そんな欲望を抑えながらも、抑え切れない欲が私の手を動かした。
たらりとその柔肌に一滴の赤が落ちる。やがて洪水のように赤は肌へと、皮へと一つを侵食するために落ちていく。
ぴちゃぴちゃと、卑猥な音を上げながら一度落ちたその赤は、皮を染め、落ちるたびに汚していく。
汚されていく。
ぬるぬると、隙間を探してはその隙間へと、赤は執拗に肌を攻める。
純粋無垢なその柔肌が赤く染まっていくその様は、更なる欲を与える。
ああ、そう。
これが、これが……――
「キッカ……」
「アズ……」
「シレさん……」
「ハナちゃん……」
私達はおのずと皆の名前を呼んでは互いに目の前のそれを見た。
ああ、これ。
ダメなやつ。
絶対うまいやつだ……。
この、ラーナさんが作ってくれた、「おいしくなーれー」って
私達は、その日。
ラーナさんによって作られ、目の前に出されたその一品を見て。
それを口の中に「はふっ」と入れた瞬間に。
一瞬で、胃袋を掴まれた。
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