049.ソラさんのおうち 5(アズ視点)
オキナさんとオウナさんがユウ君を安全なところで寝かせたいとキツネさんに伝えて、すぐにミィさんとマイさんが準備に取り掛かってくれた。
ご飯も大丈夫って言って、そのままオキナさん達はユウ君と一緒におやすみしたみたい。
キツネさんに案内されたのは、大きな玄関ドアから入ってすぐのこれまた大きな吹き抜けの玄関ホールの先。
ホール正面にある二箇所からあがれる階段を上がった二階。あがった先の正面に、休憩スペースとは言いがたい、広いスペースの一部屋があった。
この時点で私の家より明らかに大きい。一応私の家、一軒家とはいえそれなりに大きいほうだなぁとは思ってたんだけど……。
その部屋の入口前には左右に広々とした通路があって、少し進んだ先で扉がつけられて見えない。どこに続いているのかは分からないけど、多分オキナさん達が案内されていたから寝室があるのかも。
「はー、疲れたー」
そんなキツネさんが、疲れた疲れたいいながら、休憩スペースの奥。カウンターに座ってぐでって席にうつ伏せる。
そんなキツネさんの後ろ姿。
洋風のカウンターに座り込んでぐでっとしている巫女さん……和洋折衷って言葉がなぜか浮かんできたけど、シュールです。
「ごしゅじんしゃま、おつかれさま~」
「ラーナ、悪いんだけど、軽く食事作ってくれるー?」
ラーナさんが気持ちのいい返事をしてカウンターの奥へと入っていく。どうやらその先はキッチンみたい。
ぐでっとしているキツネさんに近づいて、私達もカウンター近くの円卓傍にあった椅子に座ってほっと一息。
座ってぐるりと見渡すと、この部屋はどうやらお客様が来た時に出迎えるためのもののよう。
広い部屋にいくつかの豪華そうな机が均等に並んでいて、壁沿いには寛げるようにか高級そうなソファーが置いてある。
天井を見上げると、これでもかというほどにきらきらした、装飾品が凄く多いシャンデリアが数基、私達を照らしている。
一つ一つが大きなシャンデリアではあるけども、頭上すぐにあるような圧迫感はなくて、天井は奥行きが深くて照らす光も仄かに優しく映った。
「ごしゅじんしゃまー。ミィとマイがもってきたおにくつかうー?」
「……あら。二人、本当に手に入れてきたの?」
「おいしそーだよー」
「あー。それは明日にでもしよっか。夜に食べるにしてはちょ~っと重いし、オキナさん達ももう寝ちゃったみたいだからねー」
「あーい。じゃあかんたんなのにしまーす」
戻ってきたミィさんとマイさんがカウンターからお水の入ったコップを皆に渡してくれる。
「まずはお口の中を潤して、すっきりしてください」
そう言えば、この町に入ってからまったく水分を取ってなかった気がする。
ぐぐっと飲んでみると、その冷たくて美味しい水を飲むことを止められない。一気に飲み干すと、それこそおじさんのように「ぷはぁっ」なんて声もでちゃうくらいには。
「いい飲みっぷりねー」
キツネさんが笑いながらお面のままお水を飲んでいる。
……キツネさん、お面、いつ外すんですか?
飲んだりするときに口元のお面が消えているのも不思議だけど、そうまでして顔を隠す必要はあるのかなと疑問もまた溢れる。
キツネさんがどんな顔しているのか気になって仕方ない。絶対美人。それだけは間違いない。
「……あなた、アズ、でしたか」
「え。はい?」
キツネさんを見ていると、じっとミィさんに見られていたことに、声をかけられて気づく。
くすりと、ミィさんが笑うと、一言、私に言った。
「……旦那様は、家でも、外しませんよ」
外さない。……外さない? 何を……?
……な、なんですとっ!?
「お面を外さない。なるほど。キツネさんお面好き」
「えー? 私の話? なんの話よ」
キツネさんがぐでっとしてたその身を起こした。
キツネさんどれだけ疲れてるんですか。なんて思ったけど、考えてみたらキツネさんは私達と会ってから……会ってから、もしかして!?
「キツネさん、もしかして……寝てません、か!?」
「へ?……あー、そう言えば寝てないわね。森もそうだけど、この町に着いて安全な場所に着くまで誰かが見張ってなかったらいつ何起きるかわからないでしょ。森とかでは結界張ってあるにしても警戒はしておかないとねー」
「「今すぐ寝てください!」」
「なんで今わたし怒られた!? 確かに疲れたのは寝てないからかもしれないけどっ」
なんでそんなにキツネさんが疲れているのかよく分かった。
何日? 何日寝てないの? 私達と会ってからだから、四日? 五日? もしかして私達と会う前から実はなにかしらしてて寝てないってことないですよね!?
「旦那様。旦那様以外の方からすると、徹夜をし続けている女性というのも、なかなか、見ている側としては辛いものですよ」
「お? ぉー? ミィ、どうしたの」
「特に、愛する方がそのように疲れている姿を見るのは忍びありません」
「あら、ミィ、愛してくれてありがとう。でもそういうのは本当に好きな人にいいなさいね? 同性に言ったら勘違いされるわよ?」
「で・す・の・で!」
「え。なんで今強調されたの!? 私なにも悪いこといってないわよっ!?」
「後のことは私達にお任せして、旦那様はおやすみください」
ミィさんがぺこりとお辞儀してキツネさんに休むよう進言する。ナイス、ミィさん。「ぉぉ。主人を想うメイドの鏡」なんてキッカが感激しているけど、
「そうねぇ……ちょっと疲れたから明日のためにも休ませてもらおうかしら」
「すでに寝室のご用意はできております。こちらをくいっと飲まれてから、寝室に向かわれるとよろしいかと」
そういってキツネさんの前に出されたのはグラスだった。
そのグラスに、私達が先程もらったコップより並々と注がれているのは、紫色の液体。
「ぐっすり、眠れますよ……? さあ、ぐいっと」
「これ、お酒じゃないかなっ!? いやいや、確かに飲んだらぐっすりかもしれないけどもっ! あんた私がお酒飲まないようにしてるの知ってるよね!? しかも何年もの!? ちょーっ! これ、少し前にドーターからもらった五十年物のヴィンテージワインじゃない! 魔法とか使って長めに熟成したやつでしょ!」
「ええ、白金貨三十枚分ですね。グラス一杯分おおよそ白金貨五、六枚当たりかと。酒精もなかなかのものです。ドワーフが一気飲みしてぐらりと体を揺らす程度ですよ」
「なにお高いのをさらっと出してるのっ。いやそんなのはした金だから気にしてないけども、ドワーフが倒れるくらいのお酒はお酒と言わないのよ、それは兵器っていうのよっ」
「はした金……」
「飲まないわよっ、私飲まないからねっ!」
キツネさんが椅子から立ち上がり後退りしていく。ミィさんがそれを追いかけるようにゆっくりとワイン片手ににこやかに近づいていくけど、一歩進むごとにキツネさんも一歩後退していく。
キツネさん、お酒は飲まないって言ってたけど、本当になにあったんですか……?
「ゆっくり眠って頂ければ私はそれだけでいいんですよ? 例えばお酒をぐいっと一気に一飲み頂いて、後は私に身を任せてもらえれば……」
「わー! 先寝る! 私、先寝るからねっ! マイ! ミィは朝まで立ち入り禁止っ! マイが明日起こしに来てっ!」
キツネさんの足が出口に差し掛かった。
その瞬間にキツネさんは脱兎の如く部屋から飛び出すかのように走り去っていく。
叫んでいるかのようなその声は、少しずつ小さく遠ざかり、やがて何も聞こえなくなった。
「……ちっ」
ミィさん!? 今、ちっって!?
ミィさんがワインをカウンター後ろへと下げ、恐らくはキッチンにいるラーナさんに「捨てておいてください」と声をかけてワインが消えていく。
……え、待って。さっき白金貨三十枚分、一杯白金貨五、六枚って言ってたけど……。
金貨より上って意味だよね? だったらそれかなり高価なものなんじゃ……
キツネさん達のお金感覚が、私達とずれていそうなことに気づいて、貧乏性な私は戦慄した。
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