047.ソラさんのおうち 3(アズ視点)


「あらー、二人とも、もう帰ってきてたの?」

「旦那様がお望みならば」

「旦那様の愛のためならば」


 シンクロするように話す耳の尖った女の子――といっても私達と年齢的にも見た目的にもほぼ変わらない年と思われるその二人は、


「ラーナだけだと旦那様のもふもふタイムが終わらなそうでしたので」

「ラーナだけに旦那様を独り占めされたくなかったので」


 シンクロしているように見えて、シンクロがずれているのは気のせいかな?


「えっとね。赤い目のエルフの子がお姉ちゃんのミィ。青い目のエルフの子が妹のマイ、双子のエルフちゃんよ」


 キツネさんが私達に二人を紹介してくれる。

 その紹介に、


「え……エルフ……?」

「エルフってあの長寿で美しいと定番の?」

「ぺったんで有名」


 ……。

 キッカ。

 それは言っちゃだめなやつじゃないかな!?

 ぺったんじゃない人もきっといるよ!?

 あと、ハナさんとシレさんは別だけど、私とキッカもそう変わらないからねっ!


「旦那様、今回は少しだけ遅かったですね」


 特にシンクロをしたいわけでもなさそうで、一瞬ぎろっとキッカを赤い目で睨んで、ミィさんのみが話し出した。私達の会話はなかった(特にぺったんの辺り)ように扱われ、ミィさんがキツネさんの傍によると、ミィさんとは別に、青い目のマイさんが私達の傍に近づいてくる。


「お姉ちゃんは旦那様一筋ですので。旦那様関連で言ってることは気にしないでください」


 マイさんがそういうと、ミィさんがまたちらっとこちらを見るが、すぐにキツネさんを先導するように歩き出した。

 私達はマイさんについてくるよう促され、マイさんとミィさんがもつランタンの光と共に歩いていく。


 多分庭と思われる道。

 まっすぐに伸びた石畳を少し歩くと、その先にあったぽつぽつと光を放っていた屋敷が見えてくる。


 全容までは分からないけども、多分大きい。

 間違いなく、大きい。

 見上げるくらいには大きい、洋館だ。


「ほら入った入ったー」


 ミィさんとマイさんが両開きの大きな扉を開けてくれる。中から家の光が一気に溢れて眩しささえも感じてしまう。

 夜に光がないとこんなにも光が眩しいなんて。前の世界でこんなことを感じることはなかったのでとても新鮮に思えた。


「ごしゅじんさま~、おかえりなしゃいませ~」


 と、その光の中からもふもふが飛びかかってくる。

 もふもふはそのままもふっとキツネさんに飛びつき、キツネさんがもふもふの中へともふもふと上半身を埋めていく。


「もっふ」

「? もっふ~♪」

「もっふ……もっふ……」

「もっふもっふ~♪」


 キツネさんのわきわきとした手の動きと共に、くぐもったキツネさんの声がもふもふの中から聞こえてきた。

 それにあわせてもふもふさんも呼応するかのようにもふもふ言ってるけど、言うたびにキツネさんのわきわき手がもふもふに触れては、わきわきからさわさわへ。さわさわからわしゃわしゃへと変わっていく。


 ……なんだろう。

 あのもふもふ。妙に触りたい。

 キツネさんのその手の動きに弄ばれるもふもふが、柔らかさの中に絹のような滑らかさと、摘んでも軽くひっぱってもすぐに戻る弾力さを併せ持ったそのもふもふが。


 もふもふが……


 ……それに埋もれているキツネさんが、羨ましい。

 もふもふに埋もれてるし埋もれてなくてもお面で隠れているからわからないけど、キツネさんは間違いなく嬉しそうな顔をしているに違いないと確信できる。



「ラーナ! 離れなさいっ!」


 ミィさんがなかなかの鬼の形相でもふもふさんを睨んで怒鳴りつける。

 ああ、このもふもふがラーナさん……。

 ん? ラーナさん……??


 この人が……――人? このもふもふが、メリィさんやキツネさんの胃袋を掴んでいる、ラーナさん!?


「ラーナ、ただいま。ご飯できてる?」

「じょうずにやけましたー」


 ぽふっと言う音が出ているかのようにキツネさんから離れたもふもふは、着地と同時に少しずつもふもふを減らしていく。

 小鳥とかが寒くなった時に体を膨らませることがあるけど、多分あんな感じで体を膨らませてもふもふを最大限にもふもふしてたみたい。

 私達と同じ人の姿に戻ったラーナさんは、出るとこは出て引っ込むところは引っ込んだ、とんでもない魅惑的な体形の、羊の角のような大きな巻角があるほんわかお姉さんだった。

 キツネさんも凄い綺麗な肢体(といっても実際みたわけじゃないけども)をしていたけども、ラーナさんはそれを超える、男性が好みそうな体形をしているのは、男性じゃない私でもよく分かる。

 ちらっと、双子さんを見てみると、二人もメイド服に隠れてるけどスタイルはいいし、私より身長は低いけど、金髪に黒と白のオーソドックスなメイド服が似合う、国を傾けると書いて傾国と呼ばれてもおかしくないほどの可愛さ。


 ……この世界の、美は、どうなっているのかな?


 こうなってみると、キツネさんのそのお面の中が気になってしょうがない。

 あのお面に隠れたキツネさんの顔は、一度見た顎の輪郭からしてもとんでもない美人さんで間違いないのは確かなのだけど……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る