046.ソラさんのおうち 2(アズ視点)
そこは、貴族街の静かな中にもあったお淑やかな喧騒から離れた場所。
もう夜も深まってきたからか、貴族街ではまだすれ違っていた馬車ももうほとんどすれ違うことはなくなった。
でも私達の歩いている道は、貴族街のメインストリートよりも遥かに広い通路。
どれだけの馬車がすれ違えるのかと思えるくらいに広い通りの端の、これまた広い歩行者用通路を皆と歩いている。
キッカとハナさんが、どれだけ広いのかとうずうずして走ってみたりしたら、大体50mくらいはあったみたい。
ここだけで短距離走ができるのかとか、どれだけの土地が余っているのだろうかと思うと共に、その道の左右にある壁はどこまで続いているのだろうと思ったりもする。
しっかりとした区分けがされているようなので、その壁と壁の間にも勿論大きな道はあるのだけれど、多分これは、その壁の向こうには敷地があるような気がしていた。
分厚そうで私達の身長よりも高いその壁の先を見ることはできないので何があるのかは想像することしかできない。
そんな私の予想を、正解とすることができたのは、分厚い壁だけでなくて、解放感を求めてか、私達の身長より少し低いくらいの壁のところもあったから。
その壁の向こうが、見ることもできたから。
大きな、屋敷があった。
私達の世界で見た、洋風建築物によく似ているその建物。いや違う。こっちが本場なんだから、あっちがまさに真似た建築物なんだろう。
そう考えて周りをきょろきょろとみると、なかなかに大きな屋敷がずどんと大きな敷地をもって左右に建ち並んでいるんだと思うことができた。
暗くてよく見えないけど、たぶん、とにかくでっかい。要人が住んでいそうな豪邸が建ち並ぶ、まさにセレブが住む高級豪邸地帯。
各屋敷の入り口と思わしき門の前には、何人かの武器を持った兵士が立ち、隙なく警備していて……。
屋敷前の私達がいる道路も、さっき通ってきた貴族街の街中よりも明るい。
どれだけ街灯が使われているんだろうと思うほどには。
終わりの見えない敷地。
門の中や塀の中から見える屋敷の中は暗くて全く見えなくて。屋敷がどこまでいったらあるんだろうと、思わずそれぞれの塀や壁の中を覗き込みたくなる。多分、どれも同じ家って、ないんだろうなって。
いつの間にこんなとこに入り込んだのかと。辺りの屋敷に立ち止まって、ぼけーっと門前の兵士を見てたら、不審人物とでも思われたのかひそひそと警戒の意志を向けられて居心地が悪くなった。
でも、反対側の屋敷の門には兵士が立っているのにキツネさんが止まった門には誰も立っていない。この違いってなんだろう。
「ちょっとー。いくらこの子達が可愛いからって、そんなじろじろ見るもんじゃないわよー」
キツネさんが屋敷前の兵士さんに声をかけると、苦笑いしながらそれぞれが違う方向を見た。
後で仲良くなった兵士さん達に聞いたら、ぼぅっと、うっすらと暗い程度の暗闇の中に狐のお面が浮かんでいるように見えて怖かったそうな。なまじ遠いところもより起因していたみたい。
……キツネさん……そのお面、やっぱり怖いと思いますよ?
「狐の旦那は、今日は遅かったみたいじゃないか」
その中の一人。
ちょっと他の兵士さんより偉そうな中年の男の人が門から出てきてキツネさんに声をかける。
「んー? まー、時には夜遅くに帰りたいときもあるんさー。そっちは見回りご苦労様」
「ぉぅ。ありがとよ。なんだなんだ、夜遊びか? だったら今度俺と一緒に遊んでくれよ。朝までよ」
「やーよ。男には興味ないのよ私」
しっしっと、手を煩わしそうに振ると、中年の兵士さんは「フラれたか〜。じゃあ今度はあんたんとこの誰かをデートに誘ってみるわ」と軽口叩いて私達ににこやかに手を振ってくる。
中年兵士さんの言い方に警戒心が芽生えるも、
「この辺り……上位貴族街の警備をしているボブよ。モブっぽいけど覚えておくといいわよ。ああ言ってるけど、妻子持ちで身持ちも硬いし優しい人だから。奥さん以外に手を出したりなんかしないから安心なさい」
と、中年兵士――ボブさんをキツネさんが紹介してくれる。ボブさんはこの上位貴族街の警備長だそうで、れっきとした領都ヴィランの兵士だそうだ。町の警備長でもあるのでなかなか偉い人だって。
ボブさんはどうやら巡回中のようで、周りの兵士さんに声をかけると去っていった。
「モブなのが残念なところでね。ほんと、何度フラグっぽいこと言って危険なことになったか数えきれないわよ。危なくなったら肉壁にでも使ってあげなさい」
ボブさん。
……キツネさんからすごい紹介の仕方されたけど、それでいいんですか……?
でも、ボブさん。なかなか兵隊さんの中でも偉い人ですよね? キツネさん、そんな人に普通に声かけられて適当にあしらってもいいのかな……。
で、キツネさんのお話にあったけど、ここがどんな場所なのか、少し分かった。
「上位、貴族街……?」
「あらそうよ。この辺り、さっきからでっかい屋敷しかないでしょ。ヴィラン王爵の治めてる各地域の領主だったり、お城勤めの貴族の屋敷だったりがあるとこよ。他地域の貴族の別荘だったりもあるからリゾート地と考えてもいいかもねー」
うわぁ……。と思わず声が出てしまう。
上級貴族街ってところが、私達が元の世界でも普通に暮らしていたら出会うこともない人達の居住区だってことが分かってよかったけども。
そこに当たり前に案内してるキツネさんも、つまりは上位貴族ってことですよね……?
門前に兵士が立っていない一区画の屋敷の門の前にキツネさんに案内され、キツネさんが門に触れると、きぃんっと小さく音と光が灯り、門が自動的に開いていく。
……え。
この門の前に誰もいない、ここ。キツネさんのおうちだったんですか……?
「さーて。ほらほら。入った入った」
門の中へと案内してくれるキツネさん。
気を取り直して、門番のような兵士を抱えた上級貴族の屋敷が並ぶこの区画。門の中に入ってどんな光景が待っているのか。
こんなにも豪邸が建ち並ぶ貴族街。お隣の邸宅は見れなかったのですごいのではないかとわくわくしながら中へと入った。
「……」
何も、見えない。
そりゃそうですよね。夜中だし。暗いし。
地面を見ると石畳の道。周りを見るとうっすらと見えるは、森林のようなところと噴水のようなもの?
遠くにぽつりと見える明かりがあって、それが複数あることから、遠くに屋敷のようなものがあることが分かる。
そんな中。少しずつ近づいてくる光。
多分、誰かがここに近づいてきてるんだ。ランタンの光だと思うけどそれが二つ。
「「おかえりなさいませ、旦那様」」
そこに現れたのは、
耳が尖った、まったく見た目が一緒のメイド服着た女の子達。
おおっ、本物のメイドさんだ。
深々とキツネさんにお辞儀するその姿が様になってるけど、この子達は誰だろう?
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