042.冒険者ギルドにて 11(アズ視点)

「あ、あの、ジンジャーさんだったかしら」

「あぁん? なんだぁ? さっきの回復魔法の姉ちゃんか」

「お怪我されてますよね?」

「お、おぅ? まあ、気にするな……っ!?」


 シレさんが、そそくさとジンジャーさんの傍に寄ると、いきなり「救急箱ファーストエイド」と唱えた。

 ギルド館内でみた同じ光が、キツネさん所有の執務室に溢れる。光が収まるとジンジャーさんの体に所々あった擦り傷や打撲の痕が綺麗さっぱりとなくなっていた。


「はい、治りました」

「い、いや……回復魔法の姉ちゃん――」

「シレです。シレって呼んで下さい」

「あ、あぁ……シレ。あんた回復魔法なんて凄いもん、おれみてぇなやさぐれもんに安易に使うもんじゃねぇぞ。しっかし前のもそうだけど、光すげぇなぁ」

「そうなんですか?……光は、多分、慣れたら抑えられるんじゃないかなって思ってます」

「回復魔法は貴重なんだよ。神に仕える神官が冒険者やるとかなんてことはまあそんなにねぇからなぁ。使うときは気をつけな。……でも。ありがとな。助かった」

「い、いえ。いくらでも。ジンジャーさんが困った時は言ってくださいね」


 ジンジャーさんのちょ~っとツンデレっぽいところをみてると、ほんの少し恥ずかしそうなシレさんが私達の傍へと戻ってきた。

 シレさんをみて、キッカがにちゃぁっと悪意に満ちた笑顔を見せる。


「おやおやぁ? シレさん、顔が少し赤い?」

「え!? ちょっと、変なこと言わないでよキッカちゃん」

「これはこれは、もしかしてのもしかして~?」

「間違いないです。キッカさん、シレさんはきっと――」

「ハナちゃんまで! ち、違いますっ!」


 私もたぶんそうだと思います。ハナさんが遮られた言葉を知るために目で会話してみると、こくこくと頷いて妙にわくわくした目でシレさんとジンジャーさんを見始める。確定。シレさんはジンジャーさんに……


 ……あれ。そう言えば。


「ガチムチリバ……?」

「え。アズさん、いきなりなんの呪文ですか?」

「ちょ。アズちゃんもいきなりなんでそれを!?」

「え。だって、前にシレさんがそっちのジャンルだって」


 ガチムチって、確か、筋肉のことじゃなかったかな。

 ムキムキの。


 じっと、ジンジャーさんを見る。

 よく見たら、確かにジンジャーさんは私目線イケメンとは言えないけど、荒々しいというか、ワイルドさがある筋肉隆々の強そうな人だ。

 私達より背も高くて、健康的な日焼けした肌の露出に目のやり場に困りはするけども、役得では――こほんっ。前の世界ならボディビルダーやってると言われたら納得できちゃう。

 ちょっと世紀末な服装がダサいけど。


 そんなジンジャーさんは、


「ジンジャーさん、可愛い子に回復してもらって羨ましいでヤンス」

「だったらおめぇも怪我して治してもらえよ」

「いやぁ……あれはジンジャーさんだからやったんだと思うでヤンスよ?」

「ん? どういうこった?……まあ、それよりも。ヤンスよ。俺達、なんかすごい話を聞かされてたけど、忘れたほうがいいんじゃねぇか?」

「ヤンスね。確かに異世界から来たとか言われてインテンス帝国が絡んだりとかでヤンス。巻き込まれないように今のうちに逃げたほうがいいでヤンスが、ジンジャーさんは自分の名をあげるためにここに来たでヤンスから、チャンスでヤンスのヤンス」

「あー……だよなぁ……」


 あれ、もしかしてジンジャーさん、面倒見がいい人?

 山賊みたいないかつい見た目なのに面倒見がいいって、なかなかポイント高いかも?

 ヤンスさんが手綱を引いて、ジンジャーさんが実践する。そんな感じで理解して互いに頼っている辺りに二人の仲の良さが分かった。


「はーん。なるほど、なるほど……」

「いや、待ってキッカちゃん、その生温かい感じで見るのやめてっ!」

「へー。シレちゃん、ガチムチリバ好きなの?」

「え」


 キツネさんがなぜかノッてくる。

 キツネさんもその呪文を知っているのかと聞きたいけど、聞いたら沼になりそうで聞くのが怖い。


 私はとんでもないことを言ったのではないかとメリィさんを見るけど、「ガチムチリバ?……なんの呪文?」と、メリィさんも知らないようで、ハナさんも不思議そうにしてるから、この世界でも私達の世界でも一般的な言葉でないことはわかった。


「ほー。ほー。でも、相手いないわよ? ヤンスだと成立しないわね。ヤンスが実は脱いだら凄いとかなら話は別だけど……ヤンス、気になるから今すぐここで脱ぎなさい。ヤンスのヤンスには興味はないから脱ぐのも適度に程々にするでヤンスよ?」

「ヤンス!? ヤンスのヤンスって何の話でヤンスかっ!?……あ、ヤンスのヤンスはヤンス並みにヤンスなので見せるのはちょっとでヤンス」

「ちょ」

「キツネさんもわかる人? 腐死鳥フェニックス?」

「そこまでいかないわよ。腐教できるかどうかのレベルよ。キッカちゃん、ジャンルは?」

「あえて言うなら小悪魔ショタ攻めかな」

「意外と基本ね」

「基本を制するものはBLを制す。ユウにはそこんとこ期待。あれは将来いいショタになる」

「あんた……あんたが腐死鳥フェニックスじゃない……」

「そういうの分かるならキツネさんも腐死鳥フェニックス


 ……待って!?

 攻め!? ショタ!?

 まさか、ガチムチリバって……っ!

 キッカ!? ユウ君をどんな目で見てるの!?


 ……あれ、おかしい。

 ショタってショタコンの意味だよね。姉目線だれ!? 私達? 違う。この場合は男の人!?


「ああ。ちなみに私はスパダリ獣人総受けよ」

「なかなかコアなジャンル」


 聞きたくない!

 もう聞いちゃだめよ、私!

 ああ、でも。私の中の何かがそれを聞きたがるのっ!


 スパダリって!? もしかしてスーパーダーリン!? 何でも出来る旦那様!? でもお相手は男性だよね!? それが全員総受け!?

 獣人ってさっき町とか内壁と外壁のフリーマーケットのところでみた人達だよね!?


「ってことは、あれかね」

「あれですね」


 キツネさんとキッカが二人揃ってシレさんを見た。


「ジンジャー✕ヤットコ」

「ヤットコ✕ジンジャー」

「「リバだからね」」

「やーめーてーっ!」


 ふ、二人をそんな目で見てたなんて。

 シレさん、恐ろしい……。



 リバの意味も理解できて、違う世界を垣間見た気がした。



 ―――

 生々しい感じを出すのもな、と思ったのでここまで^^;

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