041.冒険者ギルドにて 10(アズ視点)


「あー、もー。……今日中にお城に行こうと思ってたのにー」


 夜と言うとばりが町を染める。

 ……と、言う程暗いわけでもなく。夕日に照らされて仄かに色づく町。その町の一角を、冒険者ギルドの窓から見ているとキツネさんががくりと肩を落としながら言った。



 この町――領都ヴィランに到着して、キツネさんが少しだけ寄り道してから、と言っていたのを思い出した。


 確かに。

 今のこの状況は、少しだけ寄り道という度合いを超えた寄り道でしたねキツネさん。


 私達も、キツネさんが早く用事を済ませられるよう協力したけど、お昼頃からここに缶詰状態で、お腹もある程度空くくらいには時間が経ってしまっている。

 むしろ、私達の話がメインなので、ずっと話をし続けてたような気がしなくもないし、なんだかんだで、文字通りの命がけの冒険だったんだと感じて、ご飯を食べることを忘れていたのは本音。


 異世界来て初の、お昼ご飯抜きで夕食の時間を初体験。でもそんな初体験はそこまでいらなかったかもしれない。


 とか考えると、くすっと思わず笑ってしまう。



「なーによー。アズちゃん、私が報告書書くのに時間かかったのは、あんた達のことも原因なんだからねー?」

「それはそうですけども……なんかキツネさんって面白い人だなって」

「あら、それは褒め言葉よね。面白い、大いに結構。楽しんでもらえてるなら何よりだわさ」

「キツネさん、私達がこの世界に訪れることが分かってた」

「そーねー。まーあれだけの数が来るなんて思ってもなかったけど。異世界人が召還がされるであろーってことくらいは分かってたわよ」


 キッカの問いに、まるで予言のようなことを聞いていたというキツネさん。

 冒険者として、緊急オーダーを受けて森の中へと入ったキツネさんは、この召還がいつか起こるということは予見していたと報告書を作る中で知った。

 それを聞いたときのメリィさんの驚きは凄かったけど、でも一言、


「きつねさんですから」


 で納得するメリィさんは、どれだけキツネさんに苦労してきたんだろうかと、苦笑いしか出てこない。


「とはいえ、まさかーの、ここが前線と言われる所以の『封樹の森』の中層で、よ? いつどこで召還されるかなんてわかったもんじゃなかったけども、それでもあの光が召還の光だってくらいは分かるからね。今現在この町で、あの森の中で自由に動けてすぐに目的地に到着できるのって私くらいだから焦ったわよ」

「……きつねさん、精霊とか召還できますもんね」

「そうよメリィちゃん。とは言っても、あの規模の召還は流石に驚くけどねー。……何人犠牲にしたのやら」


 精霊召喚。

 まさかこの世界に精霊がいるなんて。ファンタジー用語と驚いたけど、私達はすでにその精霊に会っている。

 オキナさんや、オウナさん。ユウ君を助けて私達と合流させるために別で行動していたもう一人のキツネさん。

 会ったらすぐに消えたけど、あれは精霊召喚によって呼び出した高位の精霊に力を貸して、自身をコピーしたものだって教えてくれた。あの時喋っていたのは精霊そのものだったみたい。

 説明、遅すぎです、キツネさん……。


「おキツネさんや。その精霊様には、わしらもなれるんじゃろか」

「え。なに、オキナさん。精霊になるとかやめてよ。精霊を使役できるかとかの質問なら大歓迎よ」

「いやいや、おキツネさんや。精霊なんてもんになれたら素晴らしいじゃろ。条件次第ではなれるとみたんじゃが」

「あら、オキナさん、意外とファンタジー好き?」

「ジジイでも男じゃから。ほんで、なれるんかいな」

「オキナさんもオウナさんも条件満たしてるからなれるわよ。夢と冒険のファンタジーにようこそーって言いたいけど、絶対オススメしないからね」


 オキナさんは「ほむ、なら安心じゃの、ばあさん」とユウ君をほくほく顔で見ながら頭を撫でている。すでにユウ君は報告書を書いてる途中で飽きて夢の中。


「さて、と。まあ、あれね。今日は帰るとしましょか」


 まったりとした時間も、報告書が出来上がれば終わり。


 報告書には、森で何があったか、そしてその森で救出された私達七人と、召還を行った青ローブの存在。そしてその青ローブに連れて行かれたハナさんの同級生の男の子。私達が分かることやキツネさんから見た視点から、緊急オーダーとして相応しい報告書が出来たと、キツネさんは鼻息荒かった。


 その話の中で、私達が勇者の称号や剣聖、聖女といった特別な称号を持っていることを報告したが、その辺りには驚きはされたけど、メリィさんやジンジャーさん、ヤンスさんに質問されることがなかった。


 そこだけが、少し違和感を感じた。


「そう言えば。ジンジャーさんとヤンスさんは凄腕の冒険者、なんですよね?」

「凄腕……ああ、そうだな。凄腕……といやぁ凄腕、なのかぁ?」

「ジンジャーさん、そこは素直に頷いておくでヤンス」

「ヤンス。おめぇ、そこのS級とかとんでもない化け物クラスのキツネの前で、凄腕って名乗らせて恥かかせてぇのか?」

「いや、あんたらC級だっけ? 十分凄腕でしょ。普通の人からみたら。って、誰が化け物よ」


 D級でも魔物を相手にすることもある。特にこの領都近郊で発生する魔物は、王都付近で発生する魔物より、同一の魔物でもワンランク上の力を持っているそうで。この森と隣接し監視する領都において、D級というのは、他の地域ではワンランク上の力を持っていると先程教えてもらった。

 そうすると、ジンジャーさんはC級とはいえ、王都にいけばB級の扱いを受けるってことになると思うんだけど……


「ジンジャーさんは、王都でC級まで上がった冒険者なので、こちらではそのワンランク下のD級冒険者と同じ扱いになるんです」

「らしいなぁ……そう考えると、あのヤットコってやつは、王都では十分B級とかA級として戦える強さを持っていたってことだな。俺がすぐにぼこぼこにされたのも納得できらぁ。短時間で何度もズタボロにされるたぁ、思ってもなかったぜ……」


 ジンジャーさんは名を上げるために王都からこの辺境へきたと教えてくれた。

 そこで手っ取り早く自分の名を知らしめるために、エルダーウルフを一人で狩ったことを辿り着いたその日に冒険者ギルドで高らかに自慢したそうな。

 その結果、私達も知ってる通り、ジンジャーさんが倒した個体よりもワンランク上の強さを持つエルダーウルフを木の枝で何匹も一人で倒すことのできるキツネさんに諭されて、キツネさんが森へと向かっている間に更に冒険者ギルドにいた人達に憐れまれ、自信喪失してた時に今回のギルド館での同級であるはずのヤットコに簡単に負けてしまい、ぽっきりと自信を折られてしまったみたい。



 ……ジンジャーさん、頑張ってください。


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