035.冒険者ギルドにて 4(キッカ視点)


 早速シレさんがやらかしてくれて、私は焦る。


 アズは勇者という異世界転移で誰もが羨む称号を手に入れて、私達の中で一番にスキルを習得した。

 シレさんは、さっき冒険者ギルドに入ってすぐに起きていたトラブルの最中に、ぴかっと光って倒れていた女性の傷を癒した。

 あれは魔法。回復魔法。多分聖女の称号があるから出来たんだと思う。光が尋常じゃなかったからもあるけど、高位の呪文だったりするのかもしれない。


 そんなオーバーキルな回復で注目を集めたシレさんに、私は焦る。



 だって、私は。この世界に来てまだ間もないけど、何もできていない。



 スキルを新しく覚えたわけでもない。

 魔法を使えたわけでもない。




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 Name  :菊葉楓きくは かえで

 スキル   :三瞬突き

        葉崩し

 称号    :剣聖

        魔剣士

        異世界からの来訪者

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 ステータスを見たら仰々しいスキルや称号が並んでいるけども、それを発揮する方法も分からない。

 ……いや、分かる。

 分かるんだけど、発動させる状況でもない。


 武器とか持ってないと、使えないというわけでもないと思う。でも。ここに至るまで――元の世界で剣道やってたからって、試合とか練習以外で人を殴打したことなんてないし、いきなり今から殴れって言われてもできるわけがない。それに、いきなり「葉崩しっ!」とかいってそれが攻撃じゃなくて回避するためのスキルとかだったら心底恥ずかしいし。葉崩しは回避系スキルで間違いないはず。


 それに、剣道齧ったくらいで剣聖とかそんな称号もらっても嬉しくもない。


 いやいや。ちゅうに病的にはやってみたい。「三瞬突き」なんて、どう考えても突きを三連発なんだし、それを瞬時にやるとか、どこの組の一番隊隊長よって話。


 でも、ね。武器ない状態でやるってことは素手でやることになる。素手ってことは、指。指で三瞬突きなんてしたら突き指しちゃうかもしれないとかそんな不安もあるけども、その前に、私ごときの力のない突きで屈強な冒険者とか男の人にダメージが通るとは思えない。武器があって初めて役に立つんじゃないだろうか。

 【剣聖】って称号だって、【魔剣士】って称号だって。どっちも、多分、剣とか持ってないと力を発揮できない称号じゃないかなんて。

 ……というか、【剣聖】も【魔剣士】も。称号というより、職業。


 【封樹の森】で見た魔物と戦うにはこういった力があるのは助かるし、冒険者として生きていくための能力が元から備わっているってことが、それこそチートだと思ってやっていくしかないと思う。


 だけど、今、二人がこうやってその称号の通りの力を使ったことを目の当たりにして。


 私は、出遅れてる、いや、このままだとお荷物になるんじゃないかと焦っている。



「さぁて~? 私のメリィちゃんを痛めつけてくれた馬鹿な冒険者をどうしてくれようかー」


 はっと。

 思わず考え込んでいた私は、キツネさんの怒りの声にキツネさんを見た。


 これからキツネさんは、多分戦う。ここで暴れる。

 その戦う様を見て、私は何か学ぶことができるかもしれない。この冒険者ギルドの人達にもメリィさんって人の願いには申し訳ないけども、私はキツネさんが戦う様を見て、戦う術を覚える必要があると思った。


 魔法はさっきシレさんが見せてくれた。

 魔剣士になるなら魔法を使えないと意味がない。シレさんが魔法を使ったとき、私も魔法が使えないかと体の中に魔法の元であろう魔力を動かして試してみた。

 だけど、回復するような力じゃないってことが分かった。

 体を強くしたり何かに付与したり。


 思い描いた魔法使いというわけでもなく。

 ラノベのように体外へと放出した魔力を変換して炎にしたりして薙ぎ払ったり、無双したりなんてできるようなものじゃなかった。


 今から暴れるキツネさんを見て、少しでも自分がどう立ち回ればいいかとか分かれば――



「で。あんた誰よ」



 でも。

 そこからスタートだとは、思わなかった。


「はっ……おめぇ、俺様をしらねぇのかっ、俺は――」

「知らないし興味もない。というかあんたみたいなのって大体同じこと言ってくるわね。なんなのそれ、流行りなの? 流儀なの? 知りたくもない情報をこっちに教えてくるけども。そもそもそんなの私が知ってどうなるのよ。ああ、そうあなたが彼の有名なだれだれさんですかっ! 凄いですね、恐ろしいですね。って怯えて見せたりしたらいいのかしらねー。ぜ~んぜん怖くないから怯えようもないんだけどさ」



 いきなりのマシンガントークに、相手の男の人はぽかんとしてる。


 キツネさんが一歩前に出る。

 気づけばキツネさんと男の人は、ちょっと走ったらすぐに辿り着けそうなくらいの距離まで近づいていた。

 キツネさんはスタイルがいい。羨むスタイルにひらひらと歩けば揺れる絹と所々の赤紐がポイントのぶかぶかさも感じられる巫女装束を着て、まるで東方ドラマに出てくるような天女のよう。でも、身長がそこまで高いわけではない。でも私よりは高い。

 そんなキツネさんがいちゃもんをつけてきていた男の人に近づくと、その男の人がいかに屈強なのかがよくわかった。


 むきっとした硬質な筋肉を隠すシャツははち切れそうに。個人的にはワンランクサイズの高いシャツきてゆとりを持たせたシャツのほうがいいんじゃないかと思うけど、それがこの世界のお洒落なのかもと思うと言い出せない。


 ちらっと、傍でじーっとシレさんを見ているイケメン勇者風の男――さっき誰かがカインって呼んでた男の人を見てみる。

 ぴしっとした綺麗なシャツの上に、毛皮付きの胸当てをつけた、やり手の冒険者ってこんな感じって風のカインって人。



 ……ああ、そうすると、あの人はお洒落ってわけじゃないか。



 見た目で申し訳ないけど、カインとそこのヤットコって呼ばれてた屈強な男を比べてどっちがお洒落かといわれたら、断然カイン。イケメンめ、爆ぜろ。



 でも、どっちもどっちだなって思う。

 なんとなくだけど、カインって人も、立った位置的に見るとメリィさんって人の味方のようにも見えるけど、周りの女性陣の表情を見る限り、あのイケメンは助けに入ったわけではないんだろう。


 顔だけイケメンは、正直興味ないのよね。

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