033.冒険者ギルドにて 2(ヤンス視点)

「てめぇみたいな田舎もんは黙ってろ」

「こことそう変わらない町が故郷なんでな。あそこを田舎って言うなら田舎じゃねぇところってどこだよ、教えてくれねぇか。おい、ヤンス。あそこよりいいところってどこだよ」

「しらねぇでヤンス」


 ジンジャーさんはすげぇでヤンス。

 そうジンジャーさんのパーティ仲間のヤンスは思うわけでヤンス。


 相手はC級冒険者。しかも貴族。

 同じ階級で、ここに来て間もなくて右も左もわからないうちにジンジャーさんは知らない女を助けるために身を挺して前に出たでヤンス。

 普通なら厄介ごとの匂いがする時点で手を出さねぇでヤンスよ。


「他国でヤンスかね。それか、王都にいったことがないでヤンスかね」

 

 ジンジャーさんの前に立つ、背中に大剣を背負ったいかつい男は、かっと顔を真っ赤にした。

 図星だったでヤンスかね。


「C級上がりたてと腰巾着は黙ってろ。死にてぇのか」

「もうすぐC級から先に上がろうとしてるんでそこまで上がりたてではないんだが。……まあ、それを言ってもわからんだろうし、それに女に手を出そうとしているところを目撃したら、止めに入るようにしてるんでな。わりぃな」

「腰巾着ならそっちにもいるでヤンスよ」

「ほー。いいご身分だなぁ。お前、下っ端から毛の生えた程度の王都育ちのC級と、危険地域のこの辺境で戦い続けてるC級だと力の違いがあるってことに、まったく気づけねぇほどの馬鹿ってことだなぁ」


 くっくっくっと笑うC級冒険者――ヤットコは、確かに体つきがいいでヤンス。ジンジャーさんも屈強な男って筋肉バリバリの男でヤンスが、そのジンジャーさんが見上げる程に身長も高くて筋肉も盛り上がってるでヤンス。


 王都でパーティ組んでともに上がったC級と、辺境で戦い続けて上がったC級。


 つい先日、この冒険者ギルドで自分がどこまで井の中の蛙だったのかと、あの狐のお面を被った女に教えられたジンジャーさんだけども、この辺境にはそれ以外にもジンジャーさんより強い冒険者がいるのだと改めて感じたでヤンス。


「ジンジャーさん」

「ぉぅ。受付の嬢ちゃんはそこでじっとしてろよ。ちょっとこいつと話をしてやっからよ」


 ジンジャーさんが背後にいる受付のお嬢さんに向かって親指たてて「任せろ」みたいなポーズを決めているでヤンスが、受付のお嬢さんがなんだか微妙な顔してるのが印象深いでヤンス。


 ヤットコの言ってることは正しいのでヤンスでしょう。

 ジンジャーさんはエルダーウルフを一人で倒せるほどの実力者なのはヤンスも知ってるでヤンス。でもそれはあくまで王都近郊のエルダーウルフ。ジンジャーさんが情報を集めるのが苦手だからヤンスが情報収集した結果を総括してみると、この辺境に出るエルダーウルフは王都近郊に出るのとは格が違うとわかってるでヤンス。

 しかも、王都ではあまりなかった、危険な遺跡の調査やダンジョンに入っての採取依頼も辺境にはオーダーに当たり前のようにおいてあるでヤンス。日常的にワンランク上のC級オーダーを扱っているヤットコは、自分たちより格上なんだろうとわかるでヤンス。


 とはいえ、ジンジャーさんも腕っぷしは強いから、ヤットコといい勝負になるだろうと予想はしてるでヤンスが。


「ヤットコさん、そういや、その子達、可愛いですよね。この冒険者ギルド内でなかなか人気の子達らしいですよ」

「あぁ?……あぁ……そういうことか」


 ヤットコの取り巻きの一人が、ジンジャーさんの背後で状況を見守る受付のお嬢さんとイケメンのパーティ仲間三人を見て下世話なことをいいだしたでヤンス。

 舌なめずりまでされてその光景に女子たちも身の危険を感じたのか各々の武器を身構えたけども、取り巻きのこいつらは、最初からこれが目当てだったでヤンスね。

 仕向けたようにも見えるでヤンス。取り巻きの風上にもおけねぇでヤンス!


「その子達もらえるってことなら、このオーダーを返却するのも考えてもいいぜ」

「あぁ? なんで俺がこいつらを渡す渡さねぇって話になるんだよ」

「だったらこのオーダーはもらっていくぜ。ああ、後そこの受付の女に代わりにたてついた慰謝料代わりにお世話でもしてもらうかなぁ。オーダーを返却して欲しいんだろぉ? だったら返却してもらうためにはそれ相応の態度を見せてもらわないとなぁ」

「おめぇ、なに考えてんだ?」


 ジンジャーさん。多分最初から女の子目当てで美味しい思いしようとしてたでヤンスよこいつらって言おうとしたら、ヤットコの拳がジンジャーさんの頬にクリーンヒットしたでヤンス。

 ジンジャーさんは不意打ちのように拳をもらって、よろめいて呆けている。


「だからなぁ? 許す許さないも何も。別に俺等はどっちでもいいんだよ。そこの女どもに慰めてもらおうが、そこの受付女に慰めてもらおうが」

「な、なんでそんな話になってるんだ……っ!」

「C級の俺様を不機嫌にさせたからじゃねぇかぁ? 別にどっちでもいいんだぜぇ? お前を殺して女を連れて行っても、いいんだしなぁ!」

「はっ……おめぇが俺を殺せるってかよぅ! ヤンス! お前はそこで女ども守ってろ!」


 ジンジャーさんがヤットコに向かっていく。

 ヤンスは指示通り彼女たちの前に立つけども、ジンジャーさんは多勢に無勢。ヤットコの取り巻きに囲まれてしまう。

 

 ジンジャーさんが殴りかかるたびに取り巻きが左右から殴りかかってきて、まださっきの不意打ちのダメージが残っているのか身の入っていないパンチを簡単に避けられてカウンター気味に殴りつけられジンジャーさんは地面に倒れ込んだ。何度も倒されても立ち上がるジンジャーさんにヤットコの取り巻きが背後から羽交い絞めする。



「ぐっ、卑怯なやつらめ、ぐはっ。……一対一で戦いやがれ!」

「卑怯もなにも、そもそもお前が話に割って入ってくるほうがおかしいだろうがぁ」


 そこからは一方的にジンジャーさんは殴られ続けた。


「応援を連れてきたよっ!」


 さっき外へと逃げていったイケメン冒険者が別の冒険者達を連れてきて、騒ぎを聞きつけた他の冒険者達も駆けつけるが、ヤットコを見てヤットコが貴族だと知っているからか、手を出すのを誰もが躊躇する。


 ヤンス!

 ヤンスはジンジャーさんを助けたいでヤンスが、殴り合いは苦手でヤンス!


 ヤンスヤンス!


「な~んの騒ぎかなぁ?」



 誰かがジンジャーさんを助けてくれないか。

 そう願っていたとき。


 ギルドの入口、スイングドアをきぃきぃと音を立てさせながらそこに。



 待ち望んだ声が聞こえた。

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