031.領都『ヴィラン』 2(アズ視点)
門を抜けた先には、内街と呼ばれる住宅街と商店街が広がっていた。
門から見て真正面に続く馬車が数台すれ違える程度の広さを持った道路と、その左右に併設された、馬車の邪魔にならないように歩行者用通路が作られている。
道路といっても私達がいた世界のようなアスファルトの塊のようなものではなくて、固められた砂地。この世界って中世ヨーロッパのような、まだ文明が近代化されていないんだってイメージがわいた。
そのイメージを更に固めたのは、その歩行者用道路にずらりと並んだ家屋が木造作りが多かったことも要因だったのかもしれない。
キツネさんから、馬車が数台通れるくらいの正面の大通りは移動用と街の低所得者達とも言えるこの街を支えてくれている住民の町、貴族と平民を分ける意味で平民街と呼ばれる街で、右側にちょっとだけ坂になっている道の先がこの街を管理運営している貴族様や高所得者の住居が乱立している町と、二通りの町があることを教えてくれた。貴族街からは道は石畳で舗装されているって補足を受ける。
キツネさんのような冒険者をやっていて、そこまでランクが高くない人達は、低所得者側の住居を借りて住んでいると聞かされて、私達は貴族街ではなくてこっちに住むんだろうなって思った。
あ、でもキツネさんは貴族だから、きっと貴族の人たちが住んでいる貴族街のほうに住んでいるんだろうなって思うと、この先キツネさんと会うのも難しくなるのかななんて思って不安になった。
「……んー? あー、貴族にどんなイメージを持ってるか知らないけど、この都の貴族と住民は仲いいから行き来は自由よ」
歩行用道路を歩いてる私達の表情で何かを察してくれたキツネさんが補足してくれる。
「貴族と住民の身分差トラブルのない異世界」
「あー、あるわよねーそういうの。王都とかだと貴族至上主義だったり王族至上主義だったりあるけど、ここは王都から離れた辺境だからそんなのうっすいわよ。王都かぶれの勘違いちゃんが時々起こすくらいかしらねー」
キッカの異世界あるあるに、キツネさんはここが王都より遠く離れた場所なんだって教えてくれる。歩きながらきょろきょろしていて周りの人達を見てみても、活気に溢れて疲れているような雰囲気が感じられない。町からは活発ささえ見えるのだから、この都は栄えてるってことになるんじゃないかと思うけど、だとしたら、王都がもっと凄いのなら私はきっと目を回してしまうかもしれない。
「普通、そういう主義者がいたら町ってギスギスしようだけども……」
「派閥みたいなものですか?」
「女子内でもあるアレ」
「派閥はあるかもだけど、変な思想もっててギスギスって、元の世界で聞いたことないよキッカ……」
シレさんは私達より年上ってこともあってか、大学とかで何かあったことを思い出したのか、ちょっと嫌そうな顔をしていた。
ハナさんは、なんというか……そういうの縁がなさそうなお嬢様の印象があって、私やキッカみたいな特殊なグループとか作ったことないのかもと思う。
ハナさんもシレさんも、ちょ~っといいとこな人の気がしてるのと、気づいたら周りに色んな人がいるっていうイメージがある。
ハナさんは洋風なドレス着たお姫様。
シレさんは和風な着物が似合うお姫様。
私とキッカはその従者ってところかな。
「んで、さっき見た貴族街に向かう道を抜けると、あっちにここからだとちょ~っとだけてっぺんが見える建物に辿り着くんだけどね」
キツネさんが空を指すように指差した。
商店街のような乱立しているお店の軒並みで隠れて、その先にちょっとだけ白い壁の大きな建築物が見えた。
「ちょっと寄り道してからあそこに行くから。もうちょっとだけ付き合ってね」
「えーっと……キツネさん、あそこってなんですか?」
ちょっとだけ見えたその建造物の造りにほんの少しだけ嫌な予感がよぎる。
まさかあそこって……お城、じゃないよね?
「ん? あれ? この領都『ヴィラン』とこの辺りの辺境を治める領主様のお城、ヴィラン城よ」
「「領主様に何しに会いにいくんですかっ!?」」
皆揃って驚きの声をあげてしまう。
「そうよー。あんたたち異世界人なんだから領都【ヴィラン】の一番偉い人。……あー、この王国で上から数えたほうが早いくらいに偉い人と謁見があるわよ。偉い人の庇護下に入ったほうが安全だし」
「え、え。私達だけでですか?」
「私もいくに決まってるでしょー? 公爵っていってるけどこの国唯一の、王族外したら一番偉い王爵だし。選帝侯との謁見とか。こっちの行儀作法とか分からないだろうからだれか面倒みてあげないとどうしようもないでしょうに」
「「「行儀……え? 選帝侯?……王爵??」」」
聞き慣れない単語に、私達は「?」マークを出してしまう。
キツネさんが「大変ねー」なんて他人みたいに言うけれど。
なんでそんな偉い人が私達と会う必要があるの???
異世界に来て早々。
今日、この都についてすぐ。私達は王国の中でも上から数えたほうが早いといわれていた、選帝侯と呼ばれる方に会うようです……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます