029.生存者 5(アズ視点)
「ねぇねぇアズ姉ちゃん! これなにー?」
次の日。
草原から町へと向かう旅路には、大所帯となりました。
私に声をかけてくる小学五年生くらいの男の子は代わり映えしない景色にも興味津々のようで。
「……なんだろね」
結局、キツネさんが複数人いた現象がなんだったのかも、なんだろね、で終わったのは、なんでなんだろう……。そういう思いと共に、私は聞かれたことに答えが出せない。
キツネさん、絶対に説明しようとして面倒になって終わらせたに決まってる。
一応、精霊術で自分と同じ姿を作り出して、自分と半分以下の力を持った同一の個体をなんたらかんたらとか言ってたけど、魔法の一種なのかな。
分かったのは、あの場にいた生存者を助けて別ルートで移動してたって話くらいだけど。まだまだよく分からない。
「えー。アズ姉ちゃんも知らないのー?」
「えーっとね……私もユウ君と一緒に来たばっかだからなんとも……」
その、私達とは別でキツネさんに助けてもらった生存者。その一人。
そんな草が何かと聞かれても、「草です!」としか言いようがない。自分の知識のなさに泣けてくる。
「草」
……キッカが言っちゃいました。
「キッカ姉ちゃん、草なのは分かるけど何かって聞いてるんだけど」
「優君。私達も知らないから一緒に覚えていこっか」
「一緒に覚える! シレ姉ちゃん!」
まるで百面相。
ころころと変わるその表情に、私もキッカもシレさんもほっこり。
「優。それならおキツネ様に聞くといいんじゃよ」
「おキツネ様おキツネ様、ちょっといいですかね」
「ん? どったの、オキナさん、オウナさん」
先頭を歩くキツネさんが、ユウ君の祖父母のオキナさんとオウナさんに声をかけられ後ろ向きで歩き出す。
「危ないですよおキツネさん」とオウナさんの穏やかに優しげな笑顔で後ろ向きを注意されると、キツネさんも「ありゃ、オウナさんに言われちゃったらやめるしかないわねー」とオウナさんの隣に移動して話を聞く。
「優君がね、聞きたいことがあるんですって」
「おキツネさん! これなにー?」
わくわくと、答えが聞けるかもと嬉しそうなユウ君が指す先を見て
「草よ」
私達と変わらない答えを出すキツネさんに、がくりとユウ君が項垂れた。
「キツネさん……」
「なによー。正式名で言って欲しいわけ? そこの短い草がハナシノブ、ヤツシロソウよ。んでもってちょっと背の高いのが離れたところにあるけど、あれはススキ。昔ススキ野原をみて感動した覚えがあるわ。で、そこの花畑でそこにいるホーンラビット――ウサギちゃん、ああ、あれ魔物だから今は近づかないように。に、つんつんと食べられてるのがキク科のなんかとヒナゲシとかそんなんで、その向こうに見える森みたいなとこにある木は――」
「……わかるんですね……」
ちゃんとしっかりと答えてくれるキツネさん。
食べられるかどうかで知識として知っとくといいといわれて、町に着いたらしっかりと食用のものなど図書館などで調べないとと思う。
冒険者の一般的な知識なんだとか。
――冒険者。
キツネさんのような冒険者に、多分私達はならなくちゃいけないんだろう。
この世界で生きていくためには、お金を稼ぐ必要がある。
今はキツネさんが守ってくれてるけど、町に入ったらそういうわけには行かない。キツネさんは冒険者として依頼を受けて調査に森に入って、私達を保護してくれただけなんだから。
身寄りもない私達は、根無し草としてこの世界で生きていく。その為には、ステータスの能力等を見れば冒険者という選択肢もあってもいいんだと思う。
とんでもない森の中で戦える冒険者の先輩からそういうことを教えてもらえるのはとてもありがたいことなのかもしれない。
「薬草採取は冒険者の基本」
「確かにキッカちゃん、それ言えてるわね。ランクあげたりもするのかしら」
「チート能力で一気に駆け上がるなんてナンセンス。私はゆっくりランクを上げていくつもり」
すでに冒険者になる気満々のキッカは、すでに冒険者プランを考えている。
私も未来のビジョンを決めていかないと。
そう言えば。ラノベで定番の冒険者ランクがあるのなら、キツネさんはどれくらいのランクなんだろう。
「ほら。見えてきたでしょ。あれが目的地よー」
草原をひたすら歩いた先。周りに同じ境遇の仲間がいるからか、共通の話もできる友達がいるからか、悲壮感もなく楽しく歩くことができたその草原の先に見えてきたのは、山岳地帯ではない。
「領都【ヴィラン】の自慢の壁。どこまでも続くみたいな城壁よ」
山のように聳え立つ、石垣。しっかりと正方形、長方形の形に切られた自然の石、石材を積み上げられた巨大な壁。
見上げればその城壁の上には兵隊さん。私達に気づいた兵隊さんが手を振ってくれている。
「【封樹の森】を囲むように三日月型に伸びる城壁。なかなか長いのよね。私も一回くらいしか端から端へ行ったことないわ」
「行ったこと……あるんですか」
「あるわよー。流石に一日かかったわ」
キツネさんが一日かけるというのはとんでもなく長いのではないだろうかと、私は元の世界にあった世界遺産の城壁の遺跡を思い出した。
「もうこの城壁を抜ければ領都だから、もうちょっとの辛抱よ」
魔物はほとんど出会わない。
時々出会う大人しそうな魔物はいたけど、それくらい。ホーンラビット……兎は先ほどキツネさんの手によって肉となった。
森の中で出会った凶悪な魔物と出会わない、のんびりとした草原の旅。
この城壁を越えて、町に着いたらそこで一段落。
そして、キツネさんとのお別れともなるんだと思うと、ほんの少し寂しさを覚えた。
「キツネさん」
「ん? どったのアズちゃん」
「ここまで助けて頂けて、本当に助かりました」
「んー? どういたしましてー。まだもうちょっとあるからね。町についたら冒険者ギルドにいってオーダー完了の報告もあるし」
「ギルド……オーダー完了!」
私の想いとは違って、ふんふんとキッカの鼻息が荒い。
「それからあんたたちの宿とか、ご飯とか」
「……?」
「色々用意とかしなきゃなんだからこれからが大変よー」
「……え?」
「ん?」
私の想いとは違い、キツネさんは町に着いてからのことを話してくれる。
「もしかして……町に着いても、まだ一緒にいてくれるんですか……?」
「当たり前でしょー。あんた達、こっちの常識とかわからんでしょう」
……ああ。
まだ、キツネさんは私達と一緒にいてくれるんだ。
まだ色々教えてくれるんだ。
感謝の気持ちを覚えながら歩き続け、
そして私達は、ついに、人の気配のする、町に辿り着いた。
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