028.生存者 4(ソラ視点)
「あ、あの……助けてくれてありがとうございます」
「?……ああー。……いいのよ、気にしないでー」
私からしてみたら異世界人を助けるのは神様との約束だから何をいきなりお礼を言われたのかと思って反応を鈍らせちゃったわ。
三人娘から四人娘となった私が守る異世界人の子達は、いまやすっかりこちらの世界の衣服に身を包む。
狼ちゃんの革で作った、それなりに頑丈な衣服。そんじょそこらの魔物だったらこの服に傷はつけえられないだろうなぁとか思ってるんだけどどうなんだろ。試したことないからしらんけど。
一応、女性の着用する衣服として、スカートタイプのこじゃれた衣装にしてあるから可愛い子が着たら映える映える。
【ボッケイル】のジンジャーさんや。
狼さんの服はこうやって使うのよ。ぼろぼろに切り刻んじゃだめなんだから。
「さてはてー。ではでは~? 早速の自己紹介からいきましょー!」
そんな私が作った防御魔法織り込み済みの、そんじょそこらの魔物だったら傷もつけられないくらいの強化服の話なんてどうでもいいのよ。
そんなことより。
まずはみんなの自己紹介が先でしょうに。
「さて、と。まずは私から。私はソラ」
「え」「え?」「え……」
三人娘から同じ擬音が発せられた。
おいおい。それはどういうこったい?
「き……キツネさんじゃ、ない……んですか……?」
「ん~? 私、あんた達に名乗ったっけ?」
「名乗ってもらって……ない、わね」
「呼んでも返事してくれるから正解なのかと思ってた」
失礼なっ!
「覚えときなさいっ! 私の名前はソラ!」
「お、覚えておきます!」
「でも、皆からは結構キツネって呼ばれてますっ!」
「「だったらキツネさんでもいいですよね!?」」
何を言うか。
本名知っててキツネって呼ぶのと本名知らないままにキツネって呼ぶのの違いははるか遠い銀河系ほどの違いよ?
そんな私の名前から始まった自己紹介。
「へー。あんた達、アサギリ、キクハ、ササラって名字なのね」
それぞれの名字をはじめて聞いた気がするわ。
「ああでも。あんた達、その名字、この世界では名乗らないほうがいいわよ」
「え?」
「この世界では貴族だけ?」
「そう、キッカちゃんよく分かったわね」
キッカちゃんが「異世界の基本」と言ってるけど、その基本ってなによ。
はっ、まさかキッカちゃん。異世界に来るの初めてじゃないとか……――なわけないか。
「私もそんなこともあって名字名乗ってないしね」
「……」
「? どったの、シレちゃん」
「……え、いえ、なんでもないです……」
相変わらず時々ぼーっとするシレちゃんに声をかけるとすぐに我にかえって慌てだす。
「? まあいいけど。そんじゃそろそろ」
私の声に、三人娘も顔を向ける。
そこにいる、これまた三人娘と甲乙つけがたい美少女なその子。
アズちゃんが黒髪くせっ毛ショトカの、ちょ~っと庇護欲そそられるおどおどした女の子で、黒縁眼鏡っこなボブショートのちょ~っと無口っぽいオタク気質の女の子がキッカちゃん。んでもって、黒髪ロングの清楚なお姉ちゃん風お嬢様がシレちゃん。
そこにふわふわ髪の大人しそうな女の子が加わって、そりゃもうこの場は女の子祭りよほんと。
「あ……あの、私は、
「あら、高校生なのね。シレちゃん以外はみんな高校生? あ、ハナちゃんって呼ばせてもらうわね」
「え」
「そう。私とアズも一緒。そこで一人驚いてるシレさんは一番年上」
「ち、違うわよっ!? 多分キツネさんのほうが年上よっ!?」
一瞬また呆けたシレちゃんがキッカちゃんの失礼発言にすぐに反論。いや失敬な。キッカちゃんよりシレちゃんのほうが酷いこと言ってるわ。
わたしゃまだまだ若いわよ。……その、つもりよ。
「まーまー。シレちゃんも高校生組も。もっと若い子いるから変わらないわよー。年のこと言うもんじゃないわ、ね、シレちゃん」
「同意を求められましても。……え、私キツネさんより若いですよね?」
「……」
「若いですよねっ!?」
シレちゃんの焦りは置いといて。
私はまたテント張ったり休憩するための椅子を用意したり、元々三人娘が起きたのが昼頃だったんだからもう間もなく暗くなってくる時間。昨日とほぼ変わらない場所で休憩するのもなんだかなぁとか思うけど、元々ここから今日は動く気あまりなかったからちょうどいいとか私は思う。
別に動いてもいいんだけど、この状況で置いていったら可哀想だし、そろそろ私も疲れてきたからねー。
「あの……キツネさん」
「ん? どうしたのシレちゃん。まさか、私より若いかどうかまだ気になってるとか」
「いえ、そこは気にしてません」
「おーおー言うわねぇ。そうよ、安心しなさい、私のほうが年上よ」
シレちゃんが焚き火を用意している私に声をかけてくる。
アズちゃん、キッカちゃんは同学年同士話に花を咲かせている様子。異世界からいきなり飛ばされてきたんだから、少しは明るい話題で盛り上がって、嫌なことは忘れちゃったほうがいいんだけども。
シレちゃんは何か言いたそうにしている。
な~んか気になるのよね。ず~っと私のことじっと見たりしてるし。
何か気になることでもあるのかしらねー。
野営の用意をしだしたところで、空は暗くなりだした。
焚き火に火をつけて四人を焚き火の傍の椅子へと座らせる。
いくらこの平原の気候が安定していると言っても、流石に夜は寒い。外にいるのなら焚き火で温まっておいたほうがいい。
「あの、キツネさんは……」
「しっ……静かに」
シレちゃんの気にしていることは気になるものの、今はそれよりも大事なことがある。
ごとごとと焚き火の上でいつも通り夕食の鍋をおたまでゆっくり回しながら私がお口にチャックを促すと、みんなが一斉にびくっと体を震わせて不安そうにしだした。
「ほら、来るわよ」
「く、来るって……?」
アズちゃんがきょろきょろ辺りを見る。
外はもう暗い。
鍋からはいい匂いもしてきた。ちょうどいい時間。
なんともまあ、自分としてもタイミングがいいとも言えるのかしらね。
「ひっ」
ぬっと、白い影が暗闇から現れて、ハナちゃんがキッカちゃんにしがみついた。キッカちゃんはアズちゃんにしがみついているのでアズちゃんが椅子から落ちた。
「おかえりー」
「ただいまー」
白い影――そのキツネのお面を被った、巫女装束の彼女に私は声をかける。
「「「「……え」」」」
四人娘から固まり驚く声がする。
「で、首尾はどうなのよー」
「そりゃ、しっかりと連れてきたわよー」
「ほむほむ。んじゃそろそろお椀を…・・・」
そこにいるのは、私だ。
そりゃ驚くさ。私が――
「――わぁっ! おキツネさんが二人いるーっ!」
二人もいれば。
そんな私が二人いることを喜ぶかのように、暗闇からもう一人の私の背後からしゅたっと勢いよく現れる小さな影。
「おー、無事合流できたわね、よかったわおチビちゃん」
お鍋をぐるぐると煮込んでいる私に抱きついてくるその影は、まだ小学生くらいの男の子だ。
「それじゃあ私はここまでで」
「ほいさっ。また呼び出すからよろしくー」
ぱちんっと私が指を鳴らすと、もう一人の私は霧となって消えていった。
「おや、婆さん、おキツネ様が消えましたな」
「爺さん、おキツネ様ならそこにおりますよ」
少し遅れて私達の前へと現れたのは、お爺さんとお婆さん。どちらもにこにこしているけども、私に飛びかかってきた男の子の祖父母らしい。
「さ。とりあえず、ご飯食べよっか?」
「「「「説明はっ!?」」」」
四人娘が仲良くて何より。
さ、ご飯食べながらちょこちょこと説明していきましょうか。
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