026.生存者 2(ソラ視点)


 さーてはて。困った困ったー。


 アズちゃん、キッカちゃん、シレちゃんの三人娘がわいわい騒いでいる中に入ってみたものの。

 どうやらアズちゃんはキッカちゃんとシレちゃんの二人にかなりの劣等感を覚えている様子。


 そんなわけないない。

 むしろ劣等感を覚えるのは、キッカちゃんとシレちゃんの二人のほうなのに。



 勇者。

 その称号は確かに私からしてみたら勇ましいわねー程度の称号ではある。

 でもその称号は、早熟であり、晩熟でもある。

 つまりは、常に全てのベクトルで成長し続ける可能性をもった称号ってわけなのにね。


 賢者? そんなの単純にあらゆる魔法を使えるってだけじゃない。

 そりゃ確かに。都市を簡単に吹き飛ばせそうなとんでも魔法とか使えるかもだから賢者だって凄い称号よ。

 頑張れば無詠唱でばっかばっかと打ちまくれる砲台になれるしね。


 剣聖? そんなの剣を振り回すのが得意なだけじゃない。

 そりゃ確かに。その剣に魔力やら剣気やらを乗せれば何でも切れちゃうかもな称号だけども。

 こんにゃくだって切れちゃうかもよ。


 魔剣士? そんなの魔法と剣を扱えるだけじゃない。

 そりゃ確かに。高い次元での扱いを可能とするけども、そもそもこの世界の人だったら強弱あれども誰だって剣使えて魔法使えるんだから、名乗ろうと思えば名乗れるわよ。魔法を付加したり剣に魔法をのせたりできればだけども。


 聖女? そんなの綺麗なだけじゃない。

 そりゃ確かに。癒しの術に長けてはいるけども、癒しながら微笑んでりゃどんな男もイチコロかもだけど。

 ……シレちゃんなら余計に男どもが群がりそうね。


 そんなのに比べたら、勇者とはどんなものなのかと言ってやりたい気分。

 魔法も賢者以上に扱うこともできて、特殊な能力である召還も使えるし私が現在進行形で使っている精霊だって使役することだってできる。

 剣に魔法だってのせて戦うこともできるし、剣技だけじゃなくて戦闘全般だってお手の物。弓だってそんじょそこらの森の住民エルフよりお手の物よ。


 すべてがどの称号より何倍も秀でたチートな称号。


 この子達の話を聞いてる限り、勇者の称号を持った人が何人も異界から召還されてきたってことがわかる。


 どんだけのチート能力者をこの世界に送り出そうとしてたのよ神様は。異世界人で戦争でも起こすつもりだったのかしら。


 とはいえ……ほとんどが死んじゃったわけだけども。ね……。


 それか。もしかしたら。

 ……本物の勇者が一人だけで、他はカモフラージュ?

 なんでそんなこと?

 あれ……?

 もしかして、本当に今この世界に魔王的な危機とか起きちゃってる??


 私はアズちゃんを慰めつつキッカちゃんと他愛無い会話をしつつ。なぜだかじっと見てくるシレちゃんを、見てることバレないよういこっそりお面で顔隠して見つめつつそんなことを思う。



 ……あ。お面で顔隠してるのはいつも通りだわさ。



「――そう、例えば……っ!?」



 生き残ったことの尊さを教えようといいこと言おうとした私が、彼女達を助け出した森のほうから気配を感じたのはそのときだった。


 この。……私がいいこと言おうとした時になんてタイミングよなんて思いながら、森のほうをみる。



 遠く遠く。

 まだ三人娘には見えないレベルの遠さから、とんでもないスピードで森から抜け出してくる大きな影。


 人のサイズではない。それこそ人を何人も運ぶくらいの大きさ。


 ――ああ、なるほど。

 そう、それならあの速さも納得ね。

 魔物の血を少し引いた配合馬に鞭をびしばしびしばしと叩いて最高速度を常にキープさせれば、森の中だって簡単とは言わないけど抜け出すことだって可能だわさ。

 私が可愛い子ちゃん達に群がる魔物を一網打尽にしたのもまたあれらの逃げ道を作ったとも言うわけね。



 それは、馬車。

 どちらかと言うと、幌をまとった戦車とも言える。

 普通の幌馬車のようにも見えるけど、所々に魔物蔓延る森の中に対応できるように金属で防備を固めた馬車。重装備の馬車ね。


 ま、流石に中層では気休めだろうけども、表層で隠れるくらいにはちょうどいいものね。流石にあの馬車程度で中層にいくなんておろかなことはしなさそう。中層に向かった仲間と表層でなんとか落ち合うための拠点にも使えるからそんな感じでも使ってたんでしょうね。


 そう思ったら、私が数日前に森に入った時によく出会わなかったわねなんて思うわけだけども。

 まあ、私は目的地まで寄り道せずに突っ切ったから仕方ないのかも。



 私は馬車が近づくのを見て、その馬車がうっすらと土煙をあげて向かってくる様に驚き震える彼女達へ、先ほど収納したばかりのテントの布を【ボックス】から取り出して被せた。


 あの馬車を使って向かってくるのは、この子達を召還して誘拐みたいに連れて奴隷同然のように扱おうとしていた青いローブを来た集団の生き残り。

 そんなのに彼女達が見つかったら何されるかわかんないし、争いの種を撒き散らされそうだしとっとと隠すに限る。




「……おや?」



 だけども。その集団の幌に囲まれた貨物の中が妙に騒がしい。

 いや、囲まれてるから見えるわけでもないんだけども、どう考えても騒がしい。

 誰かが逃げようとしているのか、それとも喧嘩にでもなってるのか。



「……――ああ、ありゃ女性の敵ね」


 そんなん、森で出会ったオークとかゴブリンとかと変わらないわあれ……。


 そう思った時には私は一気に馬車へと駆け出していた。

 その貨物の中で、一人の女子高生の女の子――異世界の女生徒が乱暴を働かれそうになっては、一人の男子高校生に守られているように見えて守られずに今にも集団に襲い掛かられそうになっていたから。

 猛烈にこちらへ突進するかのように走り続ける馬車。叩かれ続けてなのか、それとも森の中で怖い目にでもあったのか、目が血走り走る配合馬も私が向かってくることに驚いた顔を見せていた。


 流石に森の中で死にかける恐怖体験したからって異性に乱暴を働く輩は最低よ。



「ほいさっ」


 私は配合馬を飛び越えて馬車の中へ。

 そのまま反対側へと抜け切る勢いで飛び込んで、途中で引っ掛けるように女の子を捕まえて内部を隠していた幌を破って外へと脱出する。ドロップキックね。

 流石に勢い余ってずざざざーって着地した足が地面を削ったりするけども。ぼろぼろの制服を必死に掴んで自分の身を必死に守ろうとしていた女の子を離したりなんてしない。


 すぐさま走って三人娘のテント前まで向かう。

 途中必死こいて走り続ける配合馬を追い越すときに目があってぎょっとした顔をされたけど、こちとら彼女達守るのに必死なのよ、ごめんね。



 ざざっと自速度を緩めるために地面に足を滑らせて、彼女達が被った布の前まで辿り着いては馬車を待つ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る