024.勇者とは(アズ視点)



「アズ! アズ!」


 キッカが更に追い討ちをかけるかのように落ち込む私の体を揺さぶる。

 何をそんなに必死になってこんなしょうもなさそうな一般モブかのような称号やスキルを持った私を痛めつけたいのか。自分達が賢者とか聖女とか剣聖とか凄い称号持ってカッコ良さそうな技とか覚えてたりしてるのをそんなに自慢したいからって。そりゃ私が二人のステータス見たいっていったのが原因かもしれないけど、明らかに見劣りするからってそこまでしなくてもいいじゃない。


「始まった。アズの引きこもり」

「え、なになに。アズさん一気に落ち込んでるんだけど」

「ごく稀に一気に感情を落とし込んでこんな感じでブツブツいうの、アズは」


 二人の若干引き気味の会話に、私は自分が深く落ち込んでいることに気づいた。


「そんなことよりアズ! アズだけ凄い!」


 またキッカに体を揺すられる。何を言いたいのか分からないままに興奮しているキッカの揺すりから解放してもらうと、その興奮の理由を教えてもらう。


「……あ、ほんとだ」


 私のステータス。

 そこにこの世界に来たときにはなかったものを見つけた。



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 Name  :朝桐梓あさぎり あずさ

 スキル   :早撃ち

        魔力感知

 称号    :勇者

        弓使い

        異世界からの来訪者


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 魔力感知。

 スキルが、増えている。

 二人が凄い凄いと私を持ち上げてくれる。

 二人は大層凄い称号とスキルを持っているけど、この世界に来た時と変わってないみたい。

 私だけ、スキルが増えたってことだけど、そう言えば森で出会った、異世界から同じく召還されていたあの二人の男の子のほうも、いきなりスキルが生えてきたって言ってたっけ。


「魔力! 魔力だよ! 魔法使えるよっ!」


 魔法。

 そう魔力を管理出来るならきっと魔法も使えるようになる。

 私は称号に勇者を持っている。

 勇者ならバランスよく育つはず。


 そう思うと、すぐに弓使いという称号に愛着が湧いてきた。

 勇者は大体剣とか槍とか持ってるイメージがあって弓使いとかあまり聞いたことないけど、弓で遠距離攻撃しながら魔法を使ったりとか、もしかして遠距離・中距離で戦う勇者って考えてみたらかっこいいかも。



「……キッカさん。アズさんって、もしかして……」

「そう。落ち込んだ後戻ってくるのも早い」


 二人の若干引き気味の会話に、私は自分がまた口に出して自分の考えをダダ漏れさせていたことに気づいた。

 恥ずかしい。穴があったら入りたい。テントがあるからそこに逃げたい。



「んー。やっぱ森をあれだけ走ってたら生えてくるわよねー」


 ひょろりと、私達のステータスをみたキツネさん。

 その言葉に違和感を感じた。


「この魔力感知のことですか?」

「そうそう。あれだけの魔素のあるところをあんな息切らして走ったんだから、耐性あるなら生えないはずないからね」


 そういうとキツネさんは人差し指を立ててくるりと小さく指を回した。

 そこに突如現れるのは小さな炎。


「ほれ、こんな感じで魔力を使えるようになるわけさ」


 魔力の流れ。

 キツネさんが灯したその火を見て、明らかに普通の炎とは違うことが分かった。


 魔力が籠もった炎。


 普通の炎とは違う、魔力が供給され続ければそれだけ燃え続ける。指から出ているのに指を燃やさない。でも燃やす意志を持たせれば燃やすことも可能とした炎。


「……綺麗……」


 その灯火に、私は素直に感動した。

 私にも使えるのだ。元の世界では使えなかった魔法。

 ゲームやアニメといった娯楽の世界でしかみることの出来なった魔法。

 二人にまだ使えない魔――


「まあ、さすが勇者と言うべきね。覚えるのが早い早い」

「え?」

「何もないからこそ覚えやすいとも言えるのかしらねー。勇者の称号があるから吸収率も早いのねきっと。……というか、二人とも、最初から覚えてたみたいだし」

「……え?」


 ぎぎぎっと、私はキツネさんの言葉に振り返った。

 キッカもシレさんも、驚いた顔をしているが、今のキツネさんの言ったことが正しければ……


「賢者とか聖女とか魔剣士とか。そんなレアっぽい称号持ってたら、最初から魔力感知なんて出来るから」

「「「……えっ?」」」


 私は多分。

 ううん、きっと。間違いなく。




 この中では、何よりもお荷物。

 二人とともに、この世界では歩いていけない。


 そう思ったら、

 体から急に力が抜けた。










 □■□■□■□■□■□■□■□■



「だ~か~ら~。いい加減機嫌直したら~?」


 キツネさんから聞かされた衝撃の一言に、私はとにかく落ち込んだ。

 二人だって新しくスキルなんて覚えてもなかったものだから、称号とかスキルとかが豪華な二人に追いつけるかもしれないと思ったのに、もう二人はその称号の中に内包されてるスキルだったとか聞かされたら、私はどうしたらいいのかと思う。


「アズ……」


 キッカとシレさんも悪気があるわけじゃない。二人とも、さっきは魔力感知というこのスキルを見て喜んでたんだから。


「んもー。そこまで落ち込むようなことじゃないでしょー」


 キツネさんも、自分が言ったことでここまで落ち込まれると思ってなかったんだと思う。

 さっきからキャンプ用品を【ボックス】に収納しながら申し訳なさそうにしている。


「落ち込んでなんかないです……」


 私だってお世話になってる人にそんな顔させたくない。

 ……キツネのお面してて顔分からないのに雰囲気だけでそんな印象与えられるくらいだから、私だってすぐに気持ちを切り替えたかった。


 でも、やっぱり。


「私、やっぱりこれから先お荷物だよね……」

「始まる前から何言ってるのかアズは」

「そうよ。まだ何も始まってないんだからそんなこと言っちゃだめよ」


 賢者と聖女。

 剣聖と魔剣士。


 誰もが知っていそうな有名な称号を持った二人。


 そんな二人に弓使いというありふれた称号の私がついていけるとも思えない。勇者って称号だって、この世界に来た時に何人も持ってた人がいたってことだから、私達の知るような魔王を倒すたびに出るような特別な人のことではなくて、勇ましい人って意味の勇者ってことなんだと思う。弓使いで勇ましいなんて、どれだけ脳筋なのかと思う。


 私が、あんな大きな狼とか、昨日追いかけられたオークやゴブリンとまともに戦えるなんて思えない。

 二人と一緒に行動をしても、きっと二人の足を引っ張って痛い目をみる。


 私達はこの世界を何も知らない。

 これから先、この世界で生きていかなきゃいけないのかさえも分からないし、この世界で生きていくならああいう魔物と戦っていかなきゃいけないのなら、きっと私はすぐに死んでしまうだろう。


 ……町に着いたら、キツネさんに二人を後方支援するような職がないか教えてもらって、二人をフォローしていく道でも考えたほうがいいのかもしれない。


「いやだから。あんた、勇者でしょ」

「……?」

「勇者なんて規格外の称号もってたら、他のスキルとかそういうのが勇者に食い潰されて最初から生えてたりなんかしないんだから」

「じゃあ……それってもしかして」


 キツネさんの言っている意味がいまいち理解できない。でもシレさんがその意味を理解できたのか私を見た。


「称号ってのはね、その人の期待値だと思いなさい。だからあんたが一番のびしろがあるんだって思いなさいな」

「アズはこれから一気に成長する。初期値が高いか低いかの違いで、初期値が高いならそれから先の成長は緩やかで、低いからどんどんと強くなっていく。そういうこと?」

「そういうこと。しかも勇者って称号はそれを更に手助けしてくれる称号よ。だから何もなかったのにすぐにスキル覚えられたでしょ」


 キツネさんは続けて「スキルなんて普通何年も詰め込んで初めて覚えられるもんなんだから」と教えてくれた。


「強く、なれる……」


 これから先。

 私はこの世界で生きていくに当たって戦うことも強いられるんだと思う。キツネさんみたく、魔物を殺したりだってきっとするんだと思う。

 今でこそ何もできないけども、これからどんどんと覚えていく必要があるし、強くなって自分の身を守る必要がある。


 その力が、のびしろが、私には、ある。


「キッカ、シレさん」

「アズ」

「アズさん」


 さっきまで、私は二人の後方支援になるべきだと思ったけど、二人と一緒にいられるんだと思うと、少しだけ、先を見ることができた。


「なんにでもなれる。ノービスのようで可能性がどこまでも広がった称号。それが勇者よ」


 私は、この世界で、なんにでもなれる。


 キツネさんのその歌うような言葉に、私は思わず涙を零してしまった。

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