第二章:領都『ヴィラン』の悪役令嬢様
生存者
023.ステータス(アズ視点)
朝。
起きると体がとにかく重かった。
足も鉛がついたかのように重い。なんでこんなにも重いのだろうかと思ったら、昨日なにしてたっけに至った。
目を開けると白い清潔そうな布。まだ働かない脳でもそこがテントの中だって認識できた。
のそっと体を起こすと、テントの幕の隙間から見えるのは草原。
ああ、夢じゃない。
体が重い理由もわかった。
あれだけ全力で走ったら、そりゃ次の日は筋肉痛になるに決まってる。
三度目の朝。
異世界に来てからは四日目になるのだろうか。この世界に降りたのは夜。そこからもう三日もこの世界にいるのかと思うと、いい加減自分が異世界に転移させられたんだということは理解しておかないとと思うけども、やっぱりしばらくはこのまま慣れないんだろうなとも思う。
「なんでラノベの主人公って、異世界転移を素直に喜べるんだろう……」
ふと、そんなことを思った。
自分の身に起きたこの事象が異世界への転移で、少なからず人のいい王国とかからしっかりとした説明をもらったりしてそこからスタート、とかなら、もうちょっと飲み込めたのかもしれない。
「転移じゃなくて転生だったらもうちょっと考えられた」
「それだと前世の記憶を思い出したってパターンかしら。目指せ悪役令嬢ね」
「……そうだったら基本的な世界の情勢は理解できたからまだましだったのかな。悪役令嬢は目指さないけど。出来ることならヒロインか脇役がいいかな」
三人揃って、なぜ転移。とラノベ展開についてなぜか語り合う。せめて転移なら魔物がたくさんいる森の中じゃなくてもっと安全なところで呼び出して欲しい。
「いやいや。あんた達。そうだったら元の世界で死んでるんじゃない?」
幕を暖簾のように持ち上げた誰かさんが話に参加してきて、幕を開けられたことで外からの眩しい光に「うっ」と目を細めてしまう。
後光のような光を浴びていて、その人の影しか見えてないけど、
「キツネさん、おはようございます」
それが私達を助けてくれたキツネさんだってことは、光に目が慣れるまでもなく分かった。
□■□■□■□■□■□■
テントから出てすぐ。キツネさんがもう朝食の準備をしてくれていて、いつもみたいに石で囲まれた焚き火の回りを囲んで朝食を食べる。
焚き火の上に乗っかった年季が入った大きい鍋をみるのもこれで何度目なのかと思いつつ、キツネさんがよそってくれたお椀を頂き皆に回ったところでいただきます。
「ああ、そうそう。さっきの話だけど。死んでないだけましだと思ったら?」
キツネさんがお面の口の部分にお椀を持っていき、ずずっと飲んでいる。
……っ!?
お面とらずにお食事するんですか!?
と、今更ながらに驚いたけども、よく見たら口の辺りのお面が消えていた。
ちょっとだけキツネさんの素顔が見えたみたいでどきっとする。
なんだか見てはいけないような気持ちを覚えるけど、そこから見えた顎の輪郭がとても綺麗。
キツネさんってお面をとったらきっととてつもない美人さんなんではないかと、先ほどの光を受けて影となって見えた細くもなく太くもないスタイルとあわせて想像すると、別の意味でごくりと喉が鳴ってしまう。
「んー……私達、神様とかに会ってないし、チート能力もらったとかそんな記憶もないし」
「いやいや、キッカちゃん。それラノベの読みすぎじゃない?」
「でも定番だと思う」
私も死ななかっただけましってところはその通りかなって思う。
キッカが「でも、適正なかったら危険」と転移の危険性を諮詢する。キツネさんが、
「あの森で死ななかったんだから、適正も何もないでしょうに」
とキッカに呆れているようにもみえる。その適正って何か分からないけど、森で生きていられたことは凄いことらしい。
そりゃあんな魔物いっぱいのところに一般人が生きていられることが奇跡ではないかなぁと思った。
「ああ、そうじゃなくて。魔素が充満してるから、耐性なかったら死んでるからね普通。あそこに耐えられるならかなりの耐性もちよあんたたち」
魔法のような魔物を構成する悪い物質でもありこの世界で魔法を使うための必要元素・魔素。普通は適正がなければ具合が悪くなる程度が普通らしいけど、ああいう強い魔物のいる森とかではその魔素はかなり濃いみたい。濃い魔素を適正のない一般人が吸い込めば、それは体に毒にもなりうるものなので死んでしまうそうだ。
私達は異世界から転移してきていきなりあの場にいたけど、いられたってことは、適正があるってこと、つまり魔法を使えるような構成をしているってことになるみたい。
……適正あって、よかったです……。
「魔法が使えない勇者とか魔法使いってのもポンコツだからそれは十全」
キッカが何か納得してる。
「あれ、そう言えばキッカって、何の称号あったの?」
ゴタゴタに巻き込まれて皆がどんなステータスだったのか全く分からないままだったことを思い出して聞いてみる。
私は勇者。シレさんは賢者って言ってた。
「ん? 聞きたい?」
そういうと、キッカは小さく「ステータス」と呟く。でも、私達には見えない。どうやらステータス表示は自分にしか見えないみたい。
「ん。許可出せばみせれるわよ」
キツネさんが二杯目の食事をよそうついでに教えてくれて、キッカがステータス欄を私達にも見えるように念じながら改めて「ステータス」と唱えてくれた。
私達の目の前に現れるキッカのステータス表示。
私はその半透明の画面をじっと見る。
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Name :
スキル :三瞬突き
葉崩し
称号 :剣聖
魔剣士
異世界からの来訪者
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「けん――……っ!?」
なんて豪勢な称号だろうかと、私の弓使いと全く違うその輝かしい称号に、私は言葉を詰まらせる。
おまけにスキルもかっこいい。
なにその三瞬突きとか葉崩しとか、どうみても強そうなスキル。
「私のもみる?」
ぽんっとシレさんがキッカのステータス欄を凝視する私を我にかえらせる。こくこくと頷くと、シレさんも誰かに見せたかったのかウキウキと擬音が出そうなほどの眩しい笑顔でステータスを開いて見せてくれた。
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Name :
スキル :
称号 :賢者
聖女
見知るモノ
見極めるモノ
異世界からの来訪者
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「おっ……おー……?」
キッカも驚きを隠せない様子。
私は無言で自分のステータスを見せる。
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Name :
スキル :早撃ち
魔力感知
称号 :勇者
弓使い
異世界からの来訪者
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「……アズ」
「アズさん……」
二人の視線が、痛い。
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