015.へこむ(アズ視点)
狐のお面を被ったキツネさんは、私達を助けてくれた後、がくりと項垂れながらも私達と一緒に行動してくれている。
私達を助けに来てくれたというのは本当のことのようではあるけども、本当はこの場所で起きた光の調査のために冒険者ギルドから派遣されてきたそうだ。
魔物がいるこの森のことを考えると、冒険者ギルドというのは、魔物を討伐したり物資を収集・納品して生計をたてる冒険者達の組合みたい。
でも、それくらいはゲームやラノベの用語として私も知っていた。
キツネさんは冒険者ギルドに所属する冒険者。
私達を助けるのは、キツネさんの調査に問題が発生するんじゃないだろうかとも思ったけど、キツネさんはそんなことまったく気にしていない様子で最寄りの町へと私達を護衛しながら連れてってくれるといってくれた。
もう目的は達成したとも言っていたけど、もしかしたら私達がこの場所に来る前から光は出ていて刈りだされていたのかもしれない。
冒険者ギルド……。
そんな言葉がすらっと出てくることといい、私達を襲った魔物といい。
そんなキツネさんの発言に、三人揃って、「異世界……」と呆然と呟くことしかできなかった。
「ちょっと待って……」
私達がそんなことを思いながらキツネさんの後をついて森の中を歩いていると、キツネさんが急に立ち止まってわなわなと震え出した。
ほんの少し俯いて、両手の手のひらをじっと見つめているような、そんな後姿に、私達は何か起きたのだとすぐに察する。
だけど、ここは異世界。
魔物が襲い掛かってきたことといい、こんなよく分からない森の中に放り出されていることといい。
私達には今の状況でさえ想定外すぎて、今から何が起きるのかさえ予測できず不安が押し寄せてくる。
「ど、どうしたんですか……?」
まさか、魔物がまた!?
私達は何ができるわけじゃないけども咄嗟に辺りを見渡して魔物がいないか確認する。
私達なんかが警戒しても、意味がないことは分かっている。
戦えるわけでもないし、武器を持っているわけでもない。
私達をこの世界に転移させた青ローブの集団でさえ、武器を持っていてもこの森の魔物は強いようだから、平和な世界で命の奪い合いなんてしたことのない私達ができることなんて、何もない。
だから、キツネさんに頼るしかないから、迷惑をかけないよう、今キツネさんが気づいた何かに備えるだけでもしておかないと。
キッカとシレさんと一緒に、不安そうな表情を浮かべながらも共にきょろきょろと見渡し続ける。
暗闇とはいえ、もうずっとこの場にいるのだから、目は大分慣れている。
夜目が利くというわけでもないけども、うっすらと数メートル先の暗闇に何かがある程度は見えるようになっていた。
そんな私達の目には、何かいるようには感じられず。
「ま、まさか……本当にそうなの……?」
「え?」
震えるキツネさんが、ぼそりと絶望感漂う声で呟く。
くるりと振り返ったキツネさんが私達を見ている気がする。
狐のお面のせいで見えないけど、その狐面の裏ではどんな表情を浮かべているのかは分からないけども、きっと私達を見ている。
キツネさんが、自分の狐面を指差して私達に問う。
「今まで町でちっちゃい子に泣かれてたのって、もしかしてこのキツネのお面が怖いって同じ理由!?」
「「「……でしょうね」」」
思わず。
それだけしかいえなかった。
私達を助けた時に怖がられたことが、あまりにもショックだったみたい。
狐面はとにかく、怖い。
可愛い感じにかかれているわけじゃなく、しっかりとした狐面だから。
そんなお面にじっと見られたりしたら、暗闇じゃなくても怖い気がする。
でも。
そんな風にがくりと地面に四つん這いになるように膝をつけて落ち込むキツネさんをみて、
「……なんか、いい人そうね」
シレさんがほっとため息をついて言ったことが、とても私の心を代弁していて、この人なら信用できると思えたのは、いいことだったのかもしれない。
少なくとも、私達をこの世界に転移させたと思われる青ローブの集団よりは、この人は信用できると思えたのは。そしてこの人に助けてもらえたのは、私達にとって、幸せだったと思う。
この時もそう思ったし。
そして、これからも。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます