014.救出(ソラ視点)


「さてはて~? この場面どうしよっかぁ~」


 なんて暢気なことを言ってみたけども、背中には狼さん、正面には怯えて縮こまるかわいこちゃんが三人。

 ……って、なんで怖がってるのよ。

 私何かした!?


「あれ~? なんかやらかしたちゃった?」


 思わず言葉にして聞いてしまうくらいには焦ってしまう。

 何がって、狼ちゃんにじゃなくて目の前のかわいこちゃん達によ。


「……だ、誰ですか……?」

「あなたたちを助けに来た謎の美女?」

「あ、あの……」

「ん?」


 真っ青な顔して左右の腕に抱きつかれているボブショートの女の子が私の後ろを見ている。


「あ、あの狼ちゃん?」


 私の後ろには、私の隙を狙ってゆっくりうろうろと位置を変える狼ちゃん達がいる。

 群れといっても十匹にも満たないから、そんなに苦労しないと思うんだけど、異世界から来た子からしたらやっぱり怖いものね。


 なんだなんだ。私じゃなくてよかったわ。

 というか、私なわけないわよね。

 ……え、私のことが怖いわけじゃないわよね?


 なんか私の顔見て怖がってないかなこの子達。


「ぱぱっと殺っちゃうから、待っててねっ」


 怖いものはすぐに取り払ってあげようと、私は彼女達へ笑顔を向けてくるりと――


「待ってたら私達どうなるんですか」

「……へっ?」


 ――くるりと狼ちゃんのほうに振り返った私の背中に、予想外の質問を受けた私は再度くるりと回って元通り。


「え? 助けにきたんだけど?」

「次に殺すの間違いじゃなくてですか」

「……へっ?」


 答えた後にくるりと狼ちゃんのほうに向き直ってさあ戦おうと視線を向けたところでまた予想外の質問を受けて再度くるりと回る。

 今度はしっかりと手に馴染む木の枝エクスカリバーを構えてたから、ひゅんっと風切り音が鳴っちゃって「ひっ」って怯えた声が彼女達から出た。


「いやいや、狼ちゃんならこれから助けるために殺しちゃうけど、なんで」


 そろそろ狼ちゃん達もしびれを切らして襲い掛かってきそう。

 私は改めてくるりと――


「だって、青ローブの人達だって、簡単に人殺したりしてたからっ! 邪魔だとか思ったらすぐに殺しちゃうんですよねっ!」

「ねぇ!? いい加減私に狼ちゃんと戦わせてくれないかなっ!?」


 ――とんでもない発言をされた私はまたくるりと半周回って彼女達に抗議する。

 なにこの子達、わたしをくるくる回して楽しいのかしら。


「いい!? 近くの都から光の原因を調査受けてここにきてるの!」


 再度くるりと回ろうとしたときに、隙を見つけたと思ったのか、一匹の狼ちゃんが飛びかかってきた。

 私は彼女達に分かるように言葉を選びながら、向かってきた狼ちゃんの口腔に向かって木の枝を振り切る。

 すぱんっと小気味よく口が裂けた狼ちゃんをついでに足蹴にして遠くの木にぶつけて次の狼ちゃんに向かう。


「あんた達、異世界人でしょっ!」

「は、はいっ!」

「だったら何も分からないこんな森で怖くて怖くて仕方ないの分かるけどもっ」


 吹っ飛んでいった狼ちゃんを見て固まる別の個体の脳天に木の枝をぶっ刺した後はすぐに飛び跳ねて次の狼ちゃんへ。

 狼ちゃんが一匹、一匹と私に確殺されていく度に彼女達からは怯えた声だったり悲鳴が挙がる。


「いきなり会った美女に、いきなり殺されるって考えるとか、どうなのよっ!」


 その間にも私の聖剣エクスカリバーき の え だは狼ちゃんを次々と倒していく。


 そんな私を、褒めて欲しいわけよ。

 だって、彼女達が怖がらないように、狼ちゃんを暴れさせることなく一発で倒してるのよ? 褒められてもよくない? なのになんで私が悪者みたいに私に殺されるとか言われないといけないわけさ。


 少しイライラしちゃった私は、すぱーん、すぱーんと木の枝ちゃんをスナップ効かせて振り続けることで聞こえる音を聞きながら、怒りを狼ちゃんにぶつけ続ける。


 気づけば狼ちゃんは一匹だけを残して殲滅しちゃってた。

 ……いくらなんでも鬱憤溜まりすぎじゃないかしら私。


 最後に残った一匹も、もう次々と仲間を殺されていく光景をみちゃったせいか、尻尾を丸めて座り込む始末。

 魔物とはいえ失敬な。わたしゃ、そんな怖がるようなことしてないよっ!……って、仲間殲滅してるんだから怖いか。


「ご、ごめんなさい……」

「えっ?」


 最後の一匹くらいは逃がしてあげようと思って木の枝を思いっきり振り払うと、ぴっっと音がして狼ちゃんの血が地面に飛び散った。


 おお、まさに今宵の聖剣エクスカリバーは血に餓えてたわ。


 なんて思いながら、くるりと振り返ると、びくっと体を震わせて怖がられて謝られる。

 なんなのさ。わたしゃ、あんたたちにも謝ってもらうようなことした覚えもないよ?

 こんなにも笑顔で接してあげてるってのに。


「なにが?」

「え、えっと……その……倒すことにも配慮して頂いて……?」

「ありゃま」


 声に出しちゃってたのね。

 こりゃまた失礼。


「まあ、あんたたちを救助にきたんだからちょっとはその怯えるのやめて欲しいわけだけども? なんでさっきから怖がってるのさ。わたしゃ、かわいこちゃんを怖がらせるようなことしちゃいないよ?」


 自分達が怖がっていた狼ちゃんをささっと倒しちゃったから怖いのかと思ったけども、狼ちゃん達と戦う前から怖がられてたのが解せない。


 さっき言ったわよね。私はあんた達を助けにきた可愛い可愛い謎の美女だって。


 私は領都に戻ったら売りに出そうと、狼ちゃんを【ボックス】に収納しながら質問する。


「だ、だって……その仮面が……」

「仮面が?」

「怖くて……」

「っ!?……この、仮面が……!?」


 青天の霹靂とはまさにこのこと。

 この仮面つけてから今まで、この仮面が怖いなんていわれたのは初めてすぎて。


「そんな……そんなことで怖がられてたの……?」


 がくりと。

 私は膝を地面につけて項垂れるしかなかった。


 そうよ。

 私、お面してるんだから、どんだけ笑顔向けても見えてるわけないじゃない。


 ……後で聞いたら。

 暗闇の中にぼーって狐のお面が白いモヤみたいな光を纏ってふよふよ浮いてるように見えてたみたい。


 そりゃ、怖いわー。

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