013.しゅたっと参上!(ソラ視点)
ここには誰もいないはず。
辺りも暗いのに、急にそこだけ明るくなるなんてことはない。
あるとしたらそこには何かがいるってこと。
すぐさま大きな木の上に乗って見つからないよう気配を遮断。光が見えた先をしっかり見据える。
耳を澄ます。
風に乗った音や匂いを嗅ぎ分ける。
「……金属音?」
カシャカシャと音がする。金属が擦れるような音。それもかなりの数。
大きな爆発音のような音もあれば、焚き火してるような燃えるような音と木が燃えてる匂いもする。
更にじっと見る。視線と意識は更に奥へと進んでいく。
「人……? 人ね。何してるのあれ……」
声が聞こえる。争っている声。
人同士の争いじゃない。人と魔物の戦い。
燃えるような匂いがするってことは、それは魔物に襲われたって事なんだと思う。
魔物。燃える。火を吐く……。
「
私の視界は、現場を捉えた。
見た目はとにかくおっきい犬。でも頭が複数ある犬。大きさも馬車くらいおっきい犬。上級冒険者が複数人で連携を取って戦ってやっと一体相手に出来る程度の強さをもった、
そこで私ははっと気づく。
ここは『封樹の森』。
いくつもの馬車が地獄の番犬によって燃やされている現場。
勇者召還の光は更に奥。
地獄の番犬と戦う青ローブ達の真ん中の剣に左右の杖の紋章は、私の拠点の領都『ヴィラン』も属する『モロニック王国』の紋章。
「あー……あいつら、やっちゃったのね」
呼び出した馬鹿どもが、異世界人を輸送しようとして途中で番犬に襲われちゃったパターンね。
ひいふうみぃ……。すでに何人かの死体が転がっていて、無抵抗のまま消し炭になった遺体があるけど、あれ、多分勇者召還で呼び出された異世界人ねきっと。
番犬ちゃん達が連携しあっているわけではないけども、偶然にも番犬ちゃんがそれぞれにアタックしちゃったみたい。
近しい複数個所での小競り合い。複数人で一体の番犬ちゃんに当たってる状況で、一箇所が崩壊したら漏れなく戦線が一気に崩れちゃうような状況。
もう何人か生きていそうな気配だけど、青ローブ達も劣勢。番犬ちゃんのおかわりがきちゃったりしたらありゃだめね。
……ご冥福を、お祈りいたします。
私はその場でまだ生きてるかもしれない異世界の人達を見捨てることにする。
あそこに乱入して助けることは勿論出来るけども、助けた結果、今度はあの青ローブの奴等に襲われるのは分かりきっている。
勇者召還なんてやっちゃならないことをこんな森で行って、秘密裏に運んで処理しようとしている正体不明の青ローブなんて、どう考えても怪しい秘密結社みたいなもんじゃない。あの紋章だって、領都じゃなくて王都関係者の紋章。そうなると青ローブがどれだけこの場所にいるかわかったもんじゃないわ。
だけど、一応生きてる人がいるかは見ておかないとと、現場付近をまさに血眼という言葉が正しいくらいに凝視して探す。
燃えてる馬車の中をじっと見てみると、中で燃えたまま亡くなってる姿も見えた。
……こりゃ、ほぼ全滅ね。
さっきまで考えてた間引きなんてする必要もないくらいに勇者召還失敗してるじゃない。
なんでこんなとこでやっちゃったのよ。
やってくれたわね、王国のあの馬鹿王様。選帝侯が黙ってないわよこれ。
王国の王を選ぶ権利を持つ選帝侯の一人の領地で何をやっているのかと怒り狂って王都に兵を差し向けるんじゃないかしら。
ただでさえ王太子に娘を差し出してぴりぴりしてるのに、本当にやりそうだから怖いわ。
……待って。
私は私で、神様との約束護れてないないんだけどもっ!?
勇者召還された異世界人を救出できてない時点で約束不履行。
まずいまずい。生きてる人いないの、と必死に私は辺りを探す。
「……ん?」
遠くでがさがさと蠢く何かを見つけた。
そこは戦場と化した青ローブたちからかなり離れたところ。
しばらく様子を見てみると、そこで別の青ローブ数人を見つけた。その中の一人が指示出しをしていることから、偉い青ローブなんじゃないかと思った。見た感じも少し豪華な青ローブ……って豪華な青ローブってなによ。
その指示を出された青ローブ複数人から逃げようと暴れる男の子と、諦めたように静かにしている女の子。
「ぁ~……捕まっちゃってるわね」
木々の隙間からしか見えないから状況は分からないけど、どさくさに紛れて逃げたけど、結局捕まっちゃった異世界人ってとこね。
「ちょ~っと、青ローブさん達から救出するのも禍根残しそうだけど、とりあえず助けますかね」
これで神様との約束も守ったことになるしね。なんて思いながら、ぐっと足に力を篭める。
一気に突入してしゅたっと降りてケリつけて助ける。
そんな想いを持って、足に溜まった力を爆発させようとした時。
青ローブ達よりも更に先に、狼ちゃん達の群れを見つけた。
その傍には、震えて座り込んだ女の子三人がいる。この辺りの服装でもないおしゃれな服着て、どう見てもこんな魔物が跋扈する森の中に着てくるような服じゃない。もし戦闘も想定してのあの服装なら、多分めっちゃ強い。
そんなわけない。あれどう見ても異世界人だわ。
足に溜まった力はそのままに、状況を瞬時に確認する。
青ローブは誰も気づいていない。
いや、気づいている。合流した青ローブが何か喋ってそこにいる誰もが焦ってそこから逃げだした。
切り捨てたのね。あの三人をエサにして、自分達はその間に確保した二人を連れて逃げる気ね。
薄情な気もするけど、エルダーウルフの群れは流石に簡単に相手できるような魔物じゃないからねー。
……あの二人は、青ローブが助けるから大丈夫そう。あっちはあっちで勇者召還で召還された何かしらは必要だろうし。
そうなると、私が助けるのは――
私は一気に足に溜まった力を解放して、彼女達の下へと駆ける。
都度都度、木々の枝を使って枝を蹴り上げて加速していく。
逃げる青ローブ達の頭上を超え、更に先へ。
次第にはっきりと見えてくる。
遠くから遠視能力で見ただけでは分からないことがはっきりと。
「――おんやぁ? かわいこちゃんが三人」
くるりと上空で一回転して着地する。
彼女達の前であり、狼ちゃん達の群れの前に。
しゅたっと、私参上っ!
思わずそんなこと言いたかったけど、ぐっと堪えて安心させるために振り返る。
「なぁにしてるの?」
何してるかなんてわかりきってる。
逃げようとして魔物に見つかって怯えて死を待ってたってだけ。
大丈夫。
私が貴方達を守ってあげるからね。
今宵の
って、私、仮面してるから顔分からないから余計に怖いかしらっ。仮面外したほうがいい? でも外すの面倒だし、謎の美女さん演じてる私としては仮面は必須だし。
ああ、どうしよう、外したほうがいいかな、どうしようかなっ!
とかちょっと慌てちゃうけども。
なんにせよ。
……これで神様との約束守れるわっ!
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