第一章:異世界人は異世界召還でピンチにならない。んなわけないっ!

召還されし者達

007.勇者召還


 ああ、ここはどこだろう。


 私が咄嗟に思ったのは、近くで輝く光を二回目に見たとき。


 急に視界が真っ暗になったと思ったら輝く光が現れた。

 その光が眩しくて手で光を避けるように翳した。

 目が慣れてきて目の前にある輝く光が柱のようだと気づいて手を伸ばすと、景色が暗転して、目を開いていたままだったのに暗い景色が森林風景に早変わりする。


 何があったの? なんて思っても、答えは返ってこない。でも、近くに人の気配がして、辺りの森林風景とは別に人を見つけてほっとした。


 でも、すぐに思い直した。

 青いパーカーコートで揃えた、フードを深く被った集団だったから。

 あんな長くて飾り気もないコートを同じ色で揃えた集団なんてみたことがない。自由意志はどこいったのなんて思ったけど、明らかにおかしい集団だって分かった。なんとなく、あやしいものを信望しているカルト集団のようにも見えた。


 そんな集団の一人が、私の背後にもいた。

 よく見ると、私以外にも私と同じように座っている人がいて、その人達は見慣れた服装をしていた。その人達の背後にも、同じようなフードの人達が立っている。一人につき一人背後にいるようにも見えた。


 そんな私達は、円を描くように座らされていて、その中心には大きな光の柱があって。


 ああ、ここはどこだろう。


 明らかに私がいる世界じゃない。

 私はこんな森林地帯に入り込んだ記憶もない。だって、友達と一緒にフードコードでいつもの国民的ジャンクフードを食べてるとこだったんだから。

 ああ、大好きな塩っ気のきいた出来たてポテト、まだ一口も食べてなかったのに。


 そんなことを悠長に考えてる時間でもないってことは分かってるけど、現実逃避しなきゃってなぜか思ったのは、私がもうこの状況についていけずに流されるしかないって思ってたからかもしれない。


 だから、気づくのも遅れちゃって。

 これは、異世界転移なんだって気づくのは、もう少し後。


「おい、立て」


 背後にいたフードを被った怪しい人の冷たい声で、私はここが、私にとって遠慮のない世界なんだって気づいた。





 □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■


 真ん中の光がゆっくりと光を失ったように見えた頃。

 ううん。違う。これはただ目が光に慣れちゃっただけだと思う。


 ちらりと見上げてみると、まだまだ光は空高く光り輝いていることがわかる。近くで見るより空を見上げて遠くの光をみたほうがよりよく光の眩しさがわかった。周りの緑もまたその光に照らされているからこの場所が深い森林に囲まれていることもわかった。見上げた光も、その緑を突き抜けるように光ってるから、ぽっかり穴が開いてるようにも見える。


 冷静なれるわけではないけど、背後の青パーカーフードに立つように急かされて、少しだけ腰を浮かしたタイミングでこつんっと軽く足蹴にされた。それだけでも怖いのに、立ち上がったら今度は両手に手錠を嵌められる。


 人生初の手錠。

 悪いことなんて何もしてないのに手錠。

 テレビの刑事ドラマとかでみる輪っかよりももうちょっと太め。これ、本当に手錠?


 唖然としていたらとんっと強めに背中を押されて。たたらを踏んでさっきまで光の柱のあった中心まで連れて行かれた。

 そこにはどんどんと円を描くようにパーカーフードの連中とは違って、見慣れた服装をした人達が同じように追いやられていく。


 ひぃ、ふう、みぃ……二十人くらい?

 パーカフードの人たちは私たちよりももう少し多い。

 三十人くらい。

 ちょっと開けた森林地帯だとしても、流石に五十人もこの場に群がってるとちょっと窮屈にも思えた。


 そんなカルト集団の彼等は、コートの背中に丸い丸をぶった切るように真ん中に西洋風の剣があって、左右から剣に交差するように杖のような棒が描かれた紋章のような絵が共通で描かれてあったので、時代遅れの集団なのかとも思って、もしかしたら私達を悪い何かから救い出してくれたのかもなんて思ったけど、よく目を凝らしてみたら、その紋章の意匠かと思った赤い線が、紋章そのものを否定するかのような×を描いていたので、大小限らずに紋章を持つほどの勢力に敵対している勢力だとわかっちゃってより自分の身が心配になってきた。


 そもそも。

 自分達を助けてくれる集団だったとしたら手錠なんてかけないよね。


「あ」


 そんな小さな声の後、ちょんちょんと、背中を軽く叩かれた。

 何かと思って振り向いたら、そこにいたのは友達。


「やっぱり。アズだ」

「うそ、キッカ。なんでここにいるの」


 アズ――朝桐梓あさぎり あずさと私をそのように呼ぶのは、一緒にジャンクフードを食べていた菊葉楓きくは かえで。友達からキッカと呼ばれている私の親友。

 ちょっと天然の入った、ボブショートと黒縁眼鏡の似合う、私のオタク仲間で親友だ。


「なんでここにって。私も聞きたいんだけど」

「私も聞きたい」

「知らない同士。仲間ね」

「お互いにいやぁな状況の仲間だけどね」


 私もここがなんだか分からないし、むしろ私だけがここに飛ばされたなんて思うのもどうかと思う。思うし私と同じように手錠かけられているキッカには悪いけど、私だけじゃなくてよかったって、心底ほっとした。


「いやぁ。私だけじゃなくてよかったよほんと」

「私もそう思った」

「同じこと思う。友達ね」

「お互いにいやぁな状況に陥ってる友達だけどね」


 多分私もキッカも。

 怖くて怖くて仕方がないんだと思う。

 いつもと同じように軽口叩いてはいるけども、互いにぎゅっと手を繋いだ手が震えている。

 でも、こんな状況だからこそ、知っている誰かがいるっていうのはとても心強かった。

 もし何かあったら協力できるから。


「で……どうする?」

「どうしようか……どういう状況か分かる人いたらいいんだけど」

「いっそのこと、説明希望!って言ってみる?」

「言って教えてくれるならやりたいよね。キッカ、やってみる自信ある?」

「ない」

「ですよね」


 この時点で私は、すでに目の前のカルト集団が敵であると認識していて、逃げ出す手段を考えるべきだと考えていた。


 でも。

 それは簡単にできそうもないことは、周りの人達と、カルト集団達の姿を見て分かる。


「あの人達がもし、本当に演劇とかの役じゃなくて、本物だったら」

「……死んじゃうね」


 カルト集団が腰に刷いた西洋風の剣が、もし本物だったら。

 それが逃げ出した自分達に向けられたら。


 私達は、そこまで運動神経がいいほうではない。

 多分、殺される。


 そう思うと、この場所から逃げたいとは考えても、行動に移すまでは、できなかった。

 周りに集められた人達もそうなんだと思うと、


「これから何始まるんだろうね」


 わくわくという胸の高鳴りなんかじゃなくて、ただ不安の胸の高鳴りが抑えられない。


 キッカのぼそっと周りを見ての呟きに。

 私は、生贄とかじゃなきゃいいな、って。

 ラノベよろしく展開の最悪なパターンじゃないことを祈りながら、じっと彼等の行動を見つめることしかできなかった。

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