006.その柱の真下には
「旦那様、今日はゆっくりできますでしょうか?」
「旦那様、今日はゆっくりおやすみできますか?」
そんな重なるようで似たような言葉を似たような声で発する、二人。
黄色く輝く髪を肩辺りまで。光を反射してさらりと絹のような綺麗な流線を描く髪は粒子のようにきめ細やかさを惜しげもなく発揮して。
黄色というより金色に近い色の髪からぴょこんっと現れたるは、ほんの少し尖った耳。彼女達が同じ動作でぺこりと周りにお辞儀をして一歩進むたびにその耳は嬉しさのためかぴくぴくと細かく跳ねるように動いて触りたいという衝動を沸き立たせる。
彼女達は、見た目がそっくりな双子のエルフ。違うのはおめめの色が赤と青の違いってくらい。
長寿のエルフの年齢換算で二十歳に満たないのではなく、本当に生まれて二十歳程度の双子ちゃんだ。厳密には、私と出会った時は十二歳頃だったから今は十七歳ってところかしら。若いっていいわねー。今も木漏れ日みたいに入ってくる光で柔らかそうでハリのある肌がぴちぴち感満載ね。
「ごしゅじんしゃま~、今日はなにしてるですかー?」
そんな二人とともに、もふもふとにこにこと周りから擬音が出ていそうな印象を受ける、妙に間延びした喋り方の彼女。
もふもふとしているのは擬音ではなく、本当にもふもふしているのだから、あのもふもふに飛びついたらいつももふもふが私を包み込んでもふもふの嵐へと陥れるのだから恐ろしいもふもふの使い手。
白い穢れもしらなそうなもふもふからぴょこんっと角のように両サイドから控えめに見えるのは、渦を巻いた角。
隣にいる双子ちゃんのすとーんと崖のようなほにゃららがあるからか、妙に豊満なぼでぃに見えてくる彼女は、隣に双子の二人がいなくてもきっとぼんきゅってな感じのぼんなんだと私は知っている。
そりゃ知ってるさ。
彼女は、この世界でも上位にいる、愛玩種族。羊族の成人女性なんだから。
「おや、ミィとマイは相変わらず可愛いわね」
とてとてと近づいてきた姉のミィと妹のマイの双子の頭にぽふんっと手を乗せてはいつもみたいに撫でると、細やかさにもう手が止まらない。
わしゃわしゃと、二人揃って頭に乗せてるカチューシャが外れそうになるけど、もう止まらない。
ふへへ。このカチューシャ、私が渡したカチューシャなんですぜ。いつも嬉しそうにつけてくれるんですぜ。
「ごしゅじんしゃま~、今日はご飯美味しいのつくります~」
「ラーナ、今日は臨時収入も入ったから、いつもよりグレードが高い食材で食べたいわねー」
それを見た魅惑ボディの羊族――ラーナも撫でて撫でてと頭を擦り付けてくる。まるでネコみたいだけどネコじゃなくてあんたはもっふもふの羊さんよ。
あんた撫でたらわたしゃ我を忘れてもふもふの海に沈み込んじゃうわよ。
「じゃ、かえろっか」
「きつねさん、帰らないでもらえます!?」
三人が迎えにきたんだからもうこっからはお家でのんびり三人を愛でようと思ったら背後から、そりゃもう、さっきギルドで緊急オーダーって叫んでいた以上にメリィちゃんが大声を出した。
颯爽とカウンターに片腕つけて飛び越えて、一気に私に詰め寄り私の服を掴みだす。
「離してメリィちゃん。じゃないと私この子達を愛でられない」
「愛でる前にやることやってくださーい!」
やること。
……はて。なんだったかしら。
私がここに来てやったことと言えば、エルダーウルフを狩れるレベルの冒険者達のいる場所で、防具としても標準装備と化してきたエルダーウルフのぼろぼろの毛皮出して、倒したことを自慢げに話すのは恥ずかしくてお外歩けなくなっちゃうわよと、それとなくぼっちなジンちゃん達に伝えたことくらいかしら?
「本気で忘れた風装って小首傾げるのやめてくれません!? きつねさん、これからあの柱の調査にいくんですよねっ!?」
「あー、あれー? そうね、でもいくの面倒だしー?」
「緊急オーダー受けれるのきつねさんしかいないんですからやる気だしてくださいっ! お三方もきつねさんを誘惑しないでくださいー!」
メリィちゃんが本気の涙目になったのでそろそろ諦めよう。
ミィとマイが「誘惑しないとラーナに勝てません」とか声を揃えて言うけど、あんたら外行くといつも言葉合わせるのやめません?
ラーナも、「なでなできもちいーのー」とか言ってるけど、あんたは私をそのもふもふから解放しなさい。……あ、それは私が悪いのか。
「旦那様、オーダーには私達もついていきますか?」
「旦那様、目的地への事前準備はどうされますか?」
二人が私が受けた緊急オーダーが何かすぐに察して指示を待つ。
「料理、作れない……」と涙目から復帰したメリィちゃんの代わりにラーナが代わりに涙目になってしまって、情に訴えられてしまう。
やっと行く気になったんだから決心鈍らせるのはやめてほしい。
「ミィとマイは、戻ってきたときのことを考えて、おうちを綺麗にしておいてね」
「いつも綺麗になっております」
「誰でもお迎えできるようにしております」
「うちの永年ハウスキーパーちゃん達は優秀ね」
「当たり前です。旦那様との愛の巣ですから」
「当たり前です。みんなの憩いの家ですから」
ミィがすごいこと言って二人の意見がずれてる気がしたけどとりあえずスルー。
二人も私のことなんて気にしないで自由にしたらいいのに。二人ならきっとすぐに結婚できると思うんだけどなぁ。
「じゃあ、前言撤回。二人はちょっとばかりクエストに向かってくれるかな?」
「「何を行えばよろしいですか?」」
「そうねぇ……二日ほどでいいから、念のための傷を治すための薬草採取と、お客様のために美味しいお肉を拾ってきてくれないかな」
とりあえずは、絶対についてくるって顔して準備しようとするミィとマイを私から引き剥がすために、別のことをやってもらうことを提案する。
「「分かりました」」
「最高級の
「最高級の
「「ご用意してお待ちします」」
……絶対に分かってない。
二日って言ってんのにどこまで採りに行く気よ。あとマイ。
「市販でもいいから【封樹の森】には立ち入らないようにね」
あんた達、その薬草採取と肉採取で【封樹の森】へ入ってくる気でしょ。あ、私と一緒に行くのね。ダメに決まってんでしょ。
追加で付け加えておくと、やっぱり一緒に行く気だったのかしょぼんとして返事を返す二人。
はうわっ。
……危ない危ない。危うく許すとこだったわ。
「で、ラーナはおうちでご飯とか諸々の準備」
「そんなにお客様くるのー?」
「こないわよ。出来る限り連れてこないつもり。何部屋か居住できるようにセッティングしておいてね」
「あいさー」
ラーナのどこか気の抜けた返事にほっこりしていると、くいっといまだ服を掴んでいたメリィちゃんが不思議そうな顔をしていた。
「きつねさん、誰か泊まりにくるのですか?」
そんなときになんで緊急オーダーなんてみたいな顔して不思議そう。
「今からあの柱にいくんでしょ? だったら必要じゃない」
「え。……きつねさん、もしかして、もうあれがなにかわかってますか?」
分かってるもなにも。
「あれ、勇者召還の光よ」
ぴしっと、メリィちゃんが固まる。
固まったのはメリィちゃんだけじゃない。私達の会話に興味津々だった周りも同じく動きを止めていた。
「ゆ……ゆ……」
「お湯ならあっちよ。トイレはあっちね」
指さした私のお茶目心を無視して皆が一斉に同じことを叫んだ。
「「勇者召還!?」」
メリィちゃんだけじゃなく、周りの冒険者達も一斉に叫んだことからほんとに知らなかったみたい。あ、知らないから調査でてるのね。
そりゃそうよね。
あれ、異世界から強制的に人を呼びだして異世界人を使役する、禁忌の魔法だから。
驚くのも無理ないわ。
「じゃ、後よろしくねー」
このままだともっと色々聞かれそうだから。
面倒だからこのまま退散っと。
そんな感じでひらひらと。
おてて振って私はやっとスイングドアを潜り抜けて冒険者ギルドから外へと抜け出して緊急オーダーの目的地へと向かう。
さてはて。
勇者召還されてる森は中層辺りみたいだから、熟練の冒険者さん達でも死んじゃうところ。
どこの誰かは分からないけど、ばれないところでやろうと思ってそんなとこまで命がけでいって召還しちゃったんだろうけど……。
あんな光が出たら回りから魔物が集まってくるに決まってるのにね。
召還された勇者さんは、何人残ってるかな?
流石に、全員助ける気なんてないし、養うことだってできないからねー。
ほら。拾ったら、最後まで面倒みなきゃだからね。
いざ。
私の本来の目的の、勇者様を保護しにいきますかー。
保護した後は。
……しらんけどっ
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