004.受注


 さてさて。どうしたもんかねー。


 冒険者が集まる冒険者ギルドはきっとあの光の柱で騒がしいだろうと思って来てみたら。


 スイングドアを荒野のガンマン張りに開けてみたら、見事に静かになって注目浴びちゃって困っちゃう。

 だけど思いのほか騒がしくないのが悪いのよ。騒がしかったらきっとこんなことしても目立つわけないんだから。

 ギルドの人気受付嬢なそばかすメリィちゃんが大声で叫んでいるという珍しい姿を見れたものの、そんなまでしてメリィちゃんが騒いでるんだからもっと回りも騒いであげればいいのになんて思って、意外と盛り上がらなかったこの雰囲気をどうしたもんかなぁって思っちゃったり。


 【ボックス】内に入ってるステーキのかたま――もとい、狼ちゃん達の素材をギルドでお金に換金してオーダーも達成報告してから光の柱の情報を仕入れようとしたんだけどなぁ。

 この調子じゃな~んも情報なさそうね。


 そんなことを思いながら、私はメリィちゃんのキラキラと何かを期待している輝く瞳に「いや、その、ね」なんてしどろもどろになっちゃうわけ。

 とは言っても、私は狐のお面を被ってるから表情なんてほかの人には見えないんだけどね。

 見えないから無言を通しておけば冷静そうにみえたり、何考えてるか分からないだろうからミステリアスな雰囲気でるからそうしておけばよかったんだけども、さすがにメリィちゃんがあんな瞳で見てきたら困るわけさ。


「きつねさんっ!」


 メリィちゃんがカウンターからまさに身を乗り出してカウンターに近づいた私の手を両手で握る。

 感激している風に見えるのか、周りの冒険者達から「おおっ」って声があがってるけど、そりゃそうよね。メリィちゃん、カウンターテーブルの上にお胸様が見事にのっかって軽く歪んじゃってるから。


「きつねさんならきっと受けてくれますよねっ!」

「えー」


 私もそのお胸様をじーと凝視しているとそんな期待の声をかけられてしまう。

 勿論狐のお面を被ってるから見てたなんてばれないはず。


「私の胸見てたんですから、それくらい受けてくれますよねっ」

「ゔ……」


 ばれてら~。

 この子はきっと確信犯。でも女性同士だから許して欲しい。


 こほんっと、咳払いしてからメリィちゃんに一言。


「それ言ったら周りの男達はどうなのよ」

「じゃあ皆さんも一緒にオーダー受けてもらいましょう!」


 周りに同意を求めるメリィちゃん。周りでメリィちゃんが珍しく大声張り上げてもうんともすんとも言わずに我関せずを貫こうとした冒険者達を、自分の身を切ってオーダーを罪悪感で強制受注させようとする。すごい。策士だわこの子。


「いやぁ、その……なぁ?」

「まぁ……ほら、俺達は、な?」


 それでも彼等は、困ったように互いの顔を見て「おいお前、オーダー受けろよ」なんて譲り合い精神真っ只中。


 おーけぃ、受けたくないのはよく分かった。

 それに受けたいとも思わないだろうしね。あんな得体の知れない森の中へちょいと奥にいって調査してこいなんて、調査に何日かかるかわかんないし、その間キャンプ張ってる間も魔物に襲われるかもしれないから眠れやしないし、死にに行って下さいって言ってるようなもんだから。いったい何人パーティでいけばいいのよなんて思うだろうしね。


「しょうがないなぁ。じゃあ私が受けるわよ」


 元々受けるつもりだった私は、メリィちゃんに緊急オーダーの用紙をもらってボックス内から取り出した冒険者証を、用紙の指定の位置に乗せた。


 要は、私だけしか分からない茶番よね。


 用紙の冒険者証とまったく同じ形をした枠に冒険者証を置くと、眩しくない程度に一瞬ぴかっと光って終了の合図。


 冒険者証を持ち上げると、あら不思議。用紙にしっかりと私の冒険証の情報が掲載されるわけ。


 --------

 Name  :ソラ

 冒険者ランク:【非公開】

 パーティ  :王女様と愉快な仲間達パーティ

 --------


 これで私がこのオーダーを受領したって証明になるんだけど、いつ見てもこの技術ってファンタジーよねぇなんて思う。

 その上にはびっしりと文字とかイメージ絵でオーダー情報とか報奨金が書かれてたりするんだけども、今回のオーダーは緊急オーダーで情報も全然ないからま~ったくすっからかんのオーダーで思わず笑っちゃう。

 情報もなにもないからそりゃ誰も受けないわよね……。


 報酬だけは「選帝侯との謁見」って書いてあるけど、私からしたらそんなん普通にやってるから報酬にもならないんだけど、一冒険者としては喉から手が出るほどだとは思うけどねぇ……。


「きつねさんならきっと受けてくれると思ってましたっ!」

「いやいや、私くらいしかこんなの受けないでしょうに。なにこのオーダー」

「そうですね~。でも緊急オーダーってこんな感じですよー。……ほんと、この冒険者ギルドに来ている冒険者の皆様は意気地がないんですから困ったものですよー」


 じろりとその場にいた冒険者達を恨めしそうにみると、それぞれが苦笑いして目を逸らす。


「……メリィちゃん怒ってる?」

「はい怒ってます! 大声出したので喉も痛いですし~」


 そんなメリィちゃんの嫌味に、誰もが悲しそうな顔をした。中にはがくりと床に四つん這いになって泣き出す人もいるけど、あれは多分メリィ親衛隊ね。


 安心しなさい冒険者ども。

 多分メリィちゃんは大声出して喉痛いから怒ってるだけで、あんた達には怒ってないから。そんなことで怒るメリィちゃんじゃないはずよきっと。

 多分ちょっとお高めのデザート一つで機嫌なんてすぐ直るわよ。……あんた達の月に稼げる金額くらいのデザート一つでね。


「まあまあ。誰かが見に行って、情報分かればそのうち何人かは行こうとするでしょ。とりあえず私が行ってきて情報仕入れてくるから。その後はよろしくね~」

「いつも難しいオーダーを処理してくれてありがとうございます、きつねさん」


 お礼を言われるもんじゃないんだけどね。

 だって、三年前からこの現象待ってたんだから。

 ほんと現象が起きるの遅すぎて。どこで起きるのか分からなかったから起きる可能性高そうな場所に移動して来て、気づいたらこの町に居ついちゃったじゃないか。どう責任とってくれるのかと思う。


「おいおいお前等、こんな女が受けるオーダーを怖がってるのかよっ!」

「だっせぇ!」


 私がオーダーを受注すると、入口近くの木製の丸机で休んでいた冒険者の何人かが大声で笑い出した。


 周りの冒険者達も、そんな笑い声にむっとして視線を送るけど、まー、私が、というより冒険者全員に向けて言ってる蔑みだからそりゃ怒るわね。

 私も一応「こんな女」呼ばわりされたから、何を言ってるのかって思って見てみる。


 斧を持った体の大きいスキンヘッドの人間族の男と、中背の一般的なロングソードを腰に差した猫背でぼさぼさ髪の人間族の冒険者風――いや、ここ冒険者ギルドだから冒険者風って言ったら可哀想なんだけどね――の男が二人、エールをジョッキで飲んでご機嫌なご様子だった。


「……はて。この辺りで見たことない冒険者だけど、最近ここに来たのかな?」

「あぁん? 王都から来たに決まってるだろぅ? C級冒険者の【ボッケイル】のジンジャーといやぁどこの誰だって知ってるだろうがぁ」


 ……驚いたわ。本当に知らないわ。

 思わず声を出しそうになって周りを見てみるけど、誰もが「おい、知ってるか?」「いや知らない」みたいな会話をしていて笑えちゃう。

 ……とりあえず仮面の中で笑っちゃおう。


「えっと? そのボケたジンジャーさんはどこにいるのかな。有名なのかしら?」

「【ボッケイル】のジンジャーだ! 俺だ俺!……あぁ? 本当にしらねぇのか! これだから田舎は……ったく、おい、見せてやれよ」


 周りの声に不機嫌になったボケたジンジャーさんが隣の中背の男に顎で指示を出した。なんだか腰巾着みたいに見えるけど、どういう関係なんだろう。

 全然タイプじゃないからどうでもいいんだけども。

 私を喜ばす関係って考えで想像するならBLね。……あ、それも絵面的にあまり想像したくないわね。


 さてさて? 何を見せてくれるのかしら。と、ちょっとだけ興味が湧いた。


 さあさあ、私のお眼鏡に叶うものでありますよーに。

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