第16話 結婚

「えー、たまぴー結婚式しないの?」


 毎度、下校途中に美菜子に会い、さらにうちに来る道中の珠央に会った。


 その上、バイト終わりの直とまで合流だ。


 もう年も明け、父と珠央が結婚する予定の3月まで、間もなくである。


 えへ、と珠央は照れているようだ。


「だって、結婚式ってなると年の差とか、私と竜一くんが同級生なのをどうまとめるんだとか、なにより明里さんのご家族の本音ってどうなんだろ? とか、いろいろ考えちゃって」


 ……デスネ。


「ウエディングドレスは着たいの。だから、フォトウエディング撮ろうって言ってるんだ〜」


「うんうん、やっぱドレスは着たいよねー」


「じゃあ、おじさんもなんか着るんだ? 新郎的な」


「なんだっけ? モーニング?」


「竜一も一緒に写真撮るんでしょ?」


「おりゃ入んねーよ」


「結婚式しないと、離婚率上がるらしいよ。何倍だっけな? 2倍だっけ、5倍だっけ、20倍だっけ、300倍だっけ。検索しよ」


 スマホで検索し始めた直の頬っぺたを、鬼の形相で美菜子が引っ張る。


 こいつは、ほんとに…………!


「ごめん、笈さん! 私やっぱり結婚式したい!!」


 涙目で、珠央が電話している。


 直……こいつは、ほんとに…………!




 3月。


 珠央は、2時間前に式場入りで、支度らしい。


 新婦は大変だな。


 新郎なんて、俺たちと一緒でいいのに。


「たまぴー、もうドレス着てるのかな? あ! 入っていいですか? 藤井寺の者です!」


 新婦控え室。


 勝手に藤井寺を名乗るな、美菜子。


「あ、どうも、須藤です」


 なんで堂々と須藤を名乗ってんだ、直。


「みーな! あ、直くん! 竜一くん!」


 もう、珠央はウエディングドレスを着ていた。


 親父が「ガンダムみたいな袖のドレスにした!」と年甲斐もなくはしゃいでいたドレスは、これだったのか。


 珠央は髪をセットしてもらってるところだったらしく、椅子から動けない状態のようだ。


「うわ―――……キレイ!」


 美菜子の反応に、動けないながら、照れる珠央。


「新郎さま、いらっしゃいましたよ」


 と、式場のスタッフさんが珠央に声を掛けた。


「新郎さま!!」


 珠央が大きな声をあげたので、スタッフさんがびっくりしている。


「ごめんなさい、この子新郎さま大好き過ぎるんでーエヘ♪」


 と、美菜子ナイスフォロー。


 結婚式。披露宴。


 神秘的なような、まるで、アニメかドラマを観ているかのような……。


 非現実的な時間が、流れた。


 親父と珠央は、教会で、披露宴で、度々、目を合わせ、笑いあう。


 ……いいなあ。

 俺も、いつか……


 いつか。


 目を合わせて、好きだと伝えられる人に出会えたら。


 出会って、付き合って、結婚する。


 結婚なんて、考えたこともなかった。


 他人と人生を共に歩んでいくなんて、想像もつかなかった。


 俺には無理だと思っていた。


 現実はやっぱり、無理かもしれない。


 でも、希望を持つくらいは。


 夢を見るくらいは。

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