第15話 意外な真相?

 ♪♪ ピコーン ♪♪ と、珠央のスマホが鳴った。


 涙を拭きながら、確認する。


「あ、笈さん今から帰るって……私も帰るね。笈さんに何事だって思われちゃう」


 まだ涙の滲む目で、笑った。


「え……いいの? 親父に会ってかなくて」


 珠央は、初めてうちに来た日から、毎日のようにではなく、毎日うちに来て、父を待っていた。


 父の帰りが遅い日なんかは、父が珠央を小泉家まで送るだけの日もあった。


 結婚するまでは、お泊まり禁止令が小泉家から出ているのだ。


 珠央は、スッキリとした笑顔で、


「うん! 今日は、会わなくても大丈夫そう」


 と言った。


 憑き物が落ちたよう、とは、こんな感じだろうか。


「笈さん帰って来たら、ハンバーグ温めてね」


「わかった。送ってこうか?」


「ううん、ありがとう。まだバイトの日の方が遅かったくらいの時間だし」


「そっか、気をつけて」


 美菜子、直と共に、玄関から珠央を見送る。


 リビングに戻ると、


「見直したよ、竜一! 私正直、再婚に反対してもしょうがないよねーとか思ったことあったもん。珠央さま、すごく救われたと思うよ!」


 別に、救うつもりはなかったんだが。


「事実を言っただけだよ。今までにも再婚狙いの人だっていたのに、よりによって俺の同級生と結婚なんて、絶対かなりの覚悟じゃん」


 反対なんて、考えたことはない。


 でも……再婚相手は母くらいすごい人なはずって、思ってた。


 俺は器の小さな男だったんだ。


 親父は、母のオーラを愛したわけじゃない。当たり前のことなのに。


「しかし、まとめ探偵もえらい迷推理だったよな。思い込みってコワイ」


「自分のことになると、そんなもんよ。あの西の名探偵だって、かずはちゃんがいたらへっぽこになるんだから」


「かずは?」


「コナンくん観てないの? 観忘れないように、土曜の夕方来てあげるね」


「ほんと、いらない」


「でも、どうなんだろ? ほんとに珠央さま、竜ママの生まれ変わりなのかな?」


 真剣な顔で美菜子が尋ねる。


「まさか、とは思うけどね。即日生まれ変わるなら、四十九日の法要とか意味不明なイベントになるじゃん」


「いやいや、でも、生まれ変わりでもないのに、あんなかぶる? それに、竜パパが好きになったってのがさ、もう証拠なんじゃない?」


 美菜子は生まれ変わり説を支持しているようだ。


「そんな難しい話かなあ」


 スマホゲームを始めながら、直が言う。


「え?」


「バイト辞めてて、制服返して、もう店長とバイトじゃなくなってからの話でしょ?」


 スマホから目を離し、こちらを見た。


「好き好き言われるうちに、おじさんの気持ちが動いていっただけなんじゃないの?」


「えっ……」


 ポカーンだ。


 美菜子も、同じくポカーンだ。


「え……じゃあ……単純に、片思いが実ったってだけの話?」


「俺はそう思ったよ」


 直はまたスマホに目を落としている。


 美菜子の言葉に、思わず笑いがこみ上げた。


「あははは! たしかに! 単にいつの間にか好きになっちゃったー♥ だけじゃ、踏み切りきれない年の差だしな」


「えぇ?! こじつけ?!」


「かもしれない!」


「えぇー! 生まれ変わってまた巡り会って、今度こそ生涯を共に過ごそうね♥ じゃないの?!」


「かもしれない!」


「ロマンチックだなー美菜子」


 えぇー……と、すっかり不満顔の美菜子。


「でも……真相は案外そんなもんかもね。結局、人が人を好きになった、ってだけだもんね」


「そうそう、ややこしくしてもしょうがない」


 1人の女子高生がコツコツ想いを伝えて、1人のおじさんの心を振り向かせた。


 一途な片思いが実った話。


 それでいい。それ採用!

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