第11話 まとめ探偵

「私、まとめサイト超読んでるんだよね……」


「まとめサイト? ニュースアプリにあるやつ?」


「そう! それ! まとめってタブのやつ!」


「あー俺も見る時ある」


「うんうん、私も! 気になるヤツ目に入ったら、まとめタブ最後まで読んじゃったりするー」


 なんだ、そんなことかー。


「ただ私……まとめサイト5サイトくらい、全記事制覇してるんだよね」


「5サイト?! まとめサイトって、超記事あるじゃん!」


「あるの! あるけど、制覇したの!!」


「え―――何時間かかるの、それ!」


「何時間かなんて、もう……でも、たぶんそのせいで、これは結婚してる人なんじゃないかな、とか、共依存じゃないかな、とか、考えちゃうんだよねえ」


「へぇー、すごいな……」


「あ、ほらほら! そんなことより、ハンバーグ作らないと!」


「あ、そうね。レシピレシピ」


 1時間くらいかかっただろうか。なんとかタネが出来上がったハンバーグを焼いていると、直がやってきた。


 手洗いうがいをして、ダイニングに入ってくる。


 フライパンを覗き込み、


「おー出来てんじゃん!」


「でしょ! やりゃーできんのよ、今までたまたまやらなかっただけで!」


 皿を出しながら美菜子が得意気に言う。


「案外、料理って楽しいよねー」


 タネを入れていたボウルを洗いながら、珠央もご機嫌に応える。


 お前らがしてたのは、レシピを読み上げるのと、使った道具を洗っただけだけどな。


「あ! 珠央ちゃんありがとうな! 仕事も、

 やってみたら楽しかったよ!」


 直が珍しいくらいの笑顔で、珍しいくらいハキハキとしゃべる。


 これは、本当にあの直なんだろうか。


「お客さんたちも、須藤くんが立ってる!ってすごい喜んでくれてさ。オーナーなんか、途中で泣いちゃって」


 ……お前、どんだけ仕事してなかったんだよ。


「良かった! 私もなんか嬉しい!」


 珠央も笑顔だ。


 答え合わせじゃないけど、4人でハンバーグとコーンスープのようなものを食べながら、直に聞いてみた。


「なんで直、今まで仕事しなかったんだよ?」


 あー……と、中空を見つめて考えてた直の答えは、


「俺もわかんない。仕事しなくても良かったから、ってだけかな。仕事しようとしない方が、なんかオーナー嬉しそうだったから」


 まとめマスター珠央の見立てが、正しかったのか……?!


 思い切ってマスター珠央の考察を話してみたら、


「あー、なるほどね。旦那さんが亡くなって、お子さんたちが親がもう死ぬ歳なんだって気付いたみたいって、言ってたことあったよ。今まで、私が動くのをいいことに何もしなかったのに、お母さんは座っててくださいーとかなんとか」


「なんとかって、それ大事な話だったんじゃないの?」


「んーだって俺、ゲームしてたし」


 えぇ……。


「もしかして、オーナーにはなかなかの資産があるのでは? コンビニひとつじゃなく」


 まとめマスター珠央が、なにかひらめいたようだ。


「うん、旦那さんの家系が地主家系らしくて。不動産がなんやら、ビルがなんやら言ってた気がするよ」


「もしかもしかすると、オーナーの実のお子さんは息子さんだけで、娘さんはいないのでは?」


「うん、息子が2人って言ってたと思う」


 珠央は、名探偵の決めポーズのように、L字にした指を真っすぐ直の鼻先に向けた。


「まとめ的には、オーナーさんは直くんに遺産を譲ると息子さん、お嫁さんたちに匂わせている!」


「は???」


「まとめ的には、オーナーさんが真に構いたいのは、直くんではなく、息子さんたち!」


 ……なんなんだ、このまとめ探偵は……。


 直も、さすがにそんな突っ込んだ事情を聞くわけにもいかないので、真偽のほどは不明だ。


 ただ、それから直が真面目に働くようになったのは事実だった。

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