第10話 共依存
買い物から帰宅後、珠央に聞いてみた。
「なんで、直はあんな素直に働く気になったんだろう? いや、ダジャレじゃなくて、マジで」
んー、と一瞬考えて、珠央が答えた。
「バイト始める時って、私もそうだったんだけど、怖いけど楽しみで、張り切ってると思うの。こんなマンションに住んでるくらいだから、お金の為に嫌々働くしかないってこともないと思ったし」
うん、確かに。
直の両親は2人とも研究職の激務で、金はあるが時間がない人たちだ。
「でも、いざ働こうとしたら、きっとオーナーさんが邪魔しちゃったんじゃないかな。オーナーさんはオーナーさんで、仕事振って直くんが嫌になって辞めちゃうのが怖かったのかも」
「あ! 私分かったかも! あのコンビニ、直が入ってる時は必ずオーナーさんとコンビになってるんだけど、直がいない時はオーナーさんもいないの!」
コンビニでコンビに。
美菜子、お前もダジャレか? 気付いてないっぽいけど。
「直を見張る為かなーくらいにぼんやり思ってたんだけど、他の人とコンビ組ませたら怒られるかもしれないから、直を守るためにオーナーさんがコンビ組んでたのかも!」
「それだ! かもしれないってゆーか、100パー怒られる! てか、辞めさせろって言われる!」
あれ、でも……
2人分の仕事をしないといけなくなるのに、なんでオーナーさんはそこまでして直を守るんだろう?
亡くなった息子にそっくりで、放っておけないとか?
「オーナーさん、はじめすごく幸せそう〜ないい笑顔だったじゃない? 直くんが座ってるだけで。たぶん、ただ《直くんがいること》が大事なのかなあって印象で」
あんなもん、いたら幸せから遠のきそうなものなのに。
「はじめは仕事に意欲的だった直くんも、そりゃ仕事しなくてもかわいがってくれてお給料ももらえれば、満足するようになっちゃう」
「うん、むしろ羨ましい。私も働かないバイトしたい」
お前は勉強しろよ。
「共依存、なのかなって」
共依存……なんか、ネットで見た言葉だな。
「直くんは、オーナーさえいれば遊んでてもかわいがられるし、オーナーさんは自分が2人分働けばかわいい直くんが頼ってくれる」
……かわいいか?
やたらまつ毛が長くて彫りの深い、若い名倉潤だぞ。
「それに、他のバイトさんだったらたぶん、オーナーになるべく仕事させないように自分が動くと思うの。おばあさんに働かせるのって、気遣うじゃない?」
「うん、それが普通だよなぁ。平気でスマホ触るのなんて直くらいなもんだろうな」
「うん、人としておかしいよね」
美菜子の言葉に、言い過ぎでは?って顔で苦笑いしながら、珠央は語る。
「でもそれって逆に、オーナーさんの居場所を無くしてる場合もあると思うのね。でもパートナーが直くんなら、自分がメインで働くしかないの。自分の存在意義を実感できるのよ!」
……珠央、なんか変なスイッチ入ってないか?
「老人がオレオレ詐欺のターゲットにされやすい理由の1つが、もう働けない、歩くのもしんどい、自分なんて生きてる意味がないんじゃないか、みたいなネガティブな気持ちになってる中、おばあちゃんしか頼れる人がいないんだよ〜〜とか孫だと思ってる相手に言われて、自分が助けてあげなきゃ!みたいな気持ちになるってのもあると思うの! それって、おじいちゃんおばあちゃんが自分はまだまだ人の役に立てるんだ! って喜びな訳で、おじいちゃんおばあちゃんも必要とされてる実感が大事なんだよ!」
「珠央! 長い長い長い長い」
「何言ってんのかよく分かんなかったわ……」
「あ……ごめん」
小声で、なんの話してたっけ……? と考えて、
「あ、そうだ。だから、両方の依存を断ち切らないとダメなんだよ。直くんがやる気になるだけじゃなくて、オーナーさんの直くんがいればそれでいい、を変えなきゃなーって思ったの」
「直がいればそれでいい、を、直の仕事する姿を見たい、に変えさせた的な?」
「へぇー珠央さま、なんか専門家なの? なんかすごくない?」
珠央が黙る。
「いやー、実はね……。引かないでほしいんだけどね……」
えぇ〜……なんだろうか……。
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